2-1
……朝。
「ん……」
寝ぼけ眼を擦り、欠伸をひとつ。
疲れていたのか、一度も目が覚めることなく眠ってしまっていた。何か懐かしい夢を見ていたような気もするが、起きた頃にはもうすっかり内容は忘れてしまっていた。
そしてあたしは姿見の前に立ち、何度も自分の姿をチェックする。
正直、母親から突然「一人で東京へ行け」と言われた時は戸惑いもあったが、田舎育ちであるあたしにとっては楽しみでもあった。
「ふふっ。やっぱりこの制服かわいいな。友達たくさん出来たらいいな……」
その為には自分がセンスのない田舎者だと思われる訳にはいかない。この日の為に色々勉強してきたから大丈夫だとは思うけれど。
コンコン。
さあそろそろ登校しようというタイミングで部屋の扉がノックされる。……誰だろう?これから学校だから、あまり長い時間は相手はしていられないのだが。
「はぁい」
扉を開けるとそこに立っていたのは源氏さんだった。
「おはようございます、吉野様。よくおやすみになられましたか?」
「あ、はい。それはもうぐっすりと」
これは誇張ではなく、本当の話だ。ボロいアパートだったせいか部屋は畳。だけどあたしの実家の部屋も畳だったので落ち着く匂いでゆっくり眠ることが出来た。
そう思うと、このアパートを選んだのも悪くなかったかもしれない。
「おはよー!サヨちゃん!」
「あっ、おはようございます。有翔ちゃん」
今日は猫ではなく人間の姿で源氏さんの後ろから顔を覗かせる有翔ちゃん。もう少し話していたいと思ったけれど、そろそろ出発しないと電車の時間に間に合わないかもしれない。
「ごめんなさい。そろそろ学校なので、あたし……」
「ああ。今日はそのことでお訪ねしたのですが。昨日、何とかすると言いましたよね」
そうだった。あたしは引き寄せの力のせいで外を歩くだけで人ならざるものをグイグイ引き寄せてしまうという困った体質らしい。
このままだと学校に行くのも危ないので源氏さんたちが何とかしてくれる……そういう話だった筈だ。
「えっと……結局あたしはどうすれば良いですか?まさか、学校に行くなとか……そういうことにはなりませんよね?」
「ええ。普通に登校して頂いて構いませんよ」
あたしはほっとした。何だ。普通に外出ても大丈夫なんだ。引き寄せの力ってのも思ったより大したものじゃないのかもしれない……なんて楽観的な考えは、すぐに打ち砕かれることになる。
「ただし、本当に何が起こるか分かりませんので。外出する際は俺が必ずお供することになりました」
「……えっ」
「ぼくも一緒だよ!えへへ、ちゃんとお守りするからね!サヨちゃん!」
「えっ」
「神々廻様の命令で俺は家政夫ではなく、吉野様の執事になることが決定致しましたので。これからよろしくお願いします」
えっ、ちょっと待って。それってその。
「その、あたしは一人では外に出歩いてはいけない……的なことですか?」
ぽつりと呟く。それはちょっと、困るかもしれない。
戸惑うあたしの様子を見て、源氏さんはくすりと笑った。……え、何。やっぱり冗談だった的な……?
「吉野様」
「……地獄、ご覧になりたいですか」
「はいっ!これからよろしくお願いします!!」
地獄!?地獄って何!?一人で外出すると地獄を見る羽目になるってこと!?
というか、あんな重低音ボイスで脅されたら一人で出歩こうなんて気にもならない!!
あたしは深々とお辞儀をすると、源氏さんは満足げに頷くのであった。




