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第4話「オッサンと手紙」

俺が行商に入った町は、オッサンの故郷?

オッサンの潤んだ瞳が、俺の心を…いや、あまり動かさないけれども。


異世界・コメディーです。BLではありま……せん。お時間のある方、ぜひ。超短編。

第4話「オッサンと手紙」



十分に干した魚が、結構残ってしまった。

いや、大量に、かな。

腕をやや上げたオジサンのお蔭もある。釣り手がWパワーになったので。

村で売り切れなかった分、2人の食事になる分を引いても、結構ある。

むしろ増産中だ。


此処は1つ、俺は行商に出ることにする。

村じゃ無理だ。久しぶりに街へ出よう。


「私も、行きます。一人じゃ寂しいし…」


いいよね、と言わんばかりに上目使いで。

オジサンは俺を見つめる。


ハイハイ分かりましたぁー。

オジサンが乙女モードに入るともうだめだ。勝手にしてくれ。


…うるうるするなー!オッサン!



医者んとこの駄馬を借りる。

診察に使わない駄馬の方だ。格安で貸してくれる。


干物売りに行くなら、やっぱ少しは内陸に入らないと。

ミルエリダの街にでも行ってみるか。


俺たちは出かけた。駄馬に二人乗りで。


勿論、前は俺。馬に跨る。後ろはオヤジ。

跨がずに横座り。

そして、俺の腰に手を回し掴まる。

乙女か―――!

いや心は乙女だったなー!(真偽不明!)


――――――――

さて、朝から数時間。

オジサンは、悲し気に後ろから呟いた。

「この道、知ってます。馬車から何度も見ました…」


「オッサンの屋敷があるところか?」

「オッサンじゃありません。レノメリアです!もう!判ってるクセに!」

もう!じゃねえ。

どう見てもオッサンだ。


心が女性なのはもう、認める!かも!

でも、呪いで姿がって、素直にはなぁー!

現時点では、思い込み説が有力―!?



さて、街に着いた。何処の街も、中央に行商やキャラバンを受け入れる自由市の場所は確保されているものさ。


…ほら、あったあった。

綺麗な広場だ。北には小高くなった場所があり、立派な屋敷が見える。

…お屋敷、ねえ。


適当に布を広げ、馬に吊るしていた干物を並べる。


さっそく、魚に目を付ける街人が集まってくる。

「どうだい?いい型だろう?買ってくれよ、大きいの買ってくれたら、小さいのはオマケで付けるぜ。焼きがベストだ。背中から10分、表は2分でイイ。」


1人の女性が2尾買ってくれたのを皮切りに、次々売れて行く。遠征、大成功だな。


…オッサンは…じっと、屋敷の方を見ている。あれが家だってのか?本当に?


「毎度あり。ちょっと聞きたいんだけど、あのお屋敷って、えーっと…レゾーナ伯のお屋敷?」

「ん?兄さんここは初めてかい?そうだよ、この辺りの領主様だ。収めも少しだし、良い領主様で評判さ。ただねえ…。」

「ただ?」

俺は、一尾包んで、オマケとウインクして奥様に渡した。

「お嬢様が、行方不明なのさ。大輪の花の様な可愛らしい方で。」

「…レノメリア?」

「そう。さすが有名だね。でもまあ、それ以来すっかり伯爵は元気なくてね。街のみんなも、盗賊にでも攫われたならさぞ、酷い目に遭っているだろうし…悲しい想像しかできないよ。」

「そう…なのか。」

「アタシは、お嬢様とほぼ同時期に居なくなった、家庭教師の男が怪しいと思うんだけどね!」

「家庭教師のオトコ?」

「そう!女みたいな話しかたをする、50位の、ちょっと髪薄くなってるくらいの男さ。」


衝撃の事実。なんだそれ。


「そ、そうか、ありがとう!教えてくれたお礼に貝の干物もつけちゃうぜ。」

「はは、商売上手だね兄さん。また来ておくれよ!」



―――俺は、売り切った露店をたたみ、金を大切に懐に入れて、オッサンに声を掛けた。


オッサンは上の空で、ずっと寂し気に館を見ていた。

「レノメリア。」

はっと、俺を見る。潤んだ目で。涙で潤んだ目で。

オッサンは俺に抱き着いて来た。

ぎゅうう。

痛い。結構力あるなオッサン!てか離れろオッサン!

「そう呼んでください!」

「毎回はムリ―!」



「あの、私に少しお金を貰えますか?私の釣った分ありますか…?あったら、手紙を書きたいのです」

「ん?ああ、勿論あるけど…」


オッサンに金を渡すと、勝手知ったる道のように、迷わず雑貨屋へ入る。

羊皮紙に、羽ペン、インク。まぁ、安い奴だろうが。


オッサンは、切り株をテーブルに、手紙を書き始めた。俺と違って、ちゃんと教わったんだろうな。美しい字だった。オッサンの癖に。繊細で綺麗な字。


「家族に、無事だと。会えないけど、酷い目には遭ってませんと書きました。字を見たら、判ってくれるかな。だといいな…。」


自分ではいかず、オッサンは配達人へ委ねた。

ま、そのほうが良いだろうけどな…。



――さて、再び駄馬で帰路に着く。夕方には着くかな。


俺は考えに考える。

レノメリア・フィン・レゾーナ

その女性は確かにいた。


だが、頭の薄い50歳ほどのオッサンも、そこにいた!


俺の後ろに、馬に横座りしているれでいは、どっちなんだ!?

レノメリアなのか?

家庭教師のオッサンなのか?

いや、まさか、呪われたのでなく、入れ替わった!?

れでぃーになりたかったオッサンがどこかでヒャッハーしている!?まさか!?


わかんねえ!! 5つか6つある可能性のうち、何が真実か! 俺にわかるかよー!



あ、浜に来ちまった。


家に帰るだけだったのに、習性って怖いな。


オッサンが、ほいと飛び降りて、いつもの釣り場…石畳の先端へ向かう。

何やってんだ。俺も降りる。

オッサンは、先端までは行かず、中ほどで立ち止まり。


何を思ったか、海へ飛び込んだ。


は!?


ふざけんな! 死ぬってか!? 冗談じゃねえ!

散々迷惑かけといて、勝手に死ぬな!!


俺は、シャツを脱ぎ捨て、追いかけて飛び込んだ!


あれ?


オッサンは、立ち泳ぎ? いや、立っていた。

「やーい。引っかかった。ここまでは足が付くんですぅ~。」

「こ、この!!焦らすんじゃねえよ!!」

怒りの俺に、オッサンが濡れたシャツで抱き着いて来た。

「きっと、飛び込んでくれると思った…。」

オッサン!艶のある低い声を出すな!


「お屋敷を見ると悲しいけど、今の暮らしも嫌いじゃないな…。」

オッサンは、潤んだ目で俺を見上げた。


どう見ても、オッサンだった。

濡れた髪は、セクシーじゃなく薄かった。


俺の目の前で、オッサンは瞳を閉じる。


瞳を閉じる。何かを待っている。


オッサンじゃーん!!?


頬を赤らめて。何かを待っている。

オッサンじゃーん!!


でも、心は乙女―――!?

レノメリアなのか!? レノメリアであってくれー!

そうじゃないと、俺は!俺は!俺は―!?


何をやってんだぁ―――――――!!



夕日に一つになった影は、遠くから見ると美しかったかもしれない。


あああああ―――――――――!俺!しっかりしろ、俺―――!!


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