第6章
左側に映画館の切符売り場のようなものがある。どうやらここがこの店のフロントのようだ。
右側と正面はカーテンで仕切られていて、奥が見えなくなっている。
先程声を掛けてきた三十過ぎの店員が正夫の横に立って話しかけてきた。
男は短髪でおでこが広く、大きな鼻をしている。テレビでよく見かけるお笑い芸人に似ていると思った。
「初めてでいらしゃいますか?」
「そう」
正夫は頷く。不思議に落ち着いていた。
「それでは入会金3千円が必要になりますが、よろしいでしょうか?」
「わかった」
「御指名の女の子はいらっしゃいますか?」
「花蓮さんという子はいるのかな?」
「はい、花蓮さんは今日出勤しております。この子ですね?」
そう言いながら、横の壁を指さす。
見ると、十人あまりの女の子の顔写真がそこに貼られていて、店員が指した方にある写真はまさしく彼女だった。
「そ、そう……、あの子」
心臓が掴まれたようにキュッと傷んだ。
「お客さん、お目が高い。花蓮さんは人気の女の子ですよ。で、指名料が3千円ほど必要になりますが、構いませんか?」
頷きながら、正夫は喜びに溢れている自分に気がついた。自分の本心に気づいた。本当はこうなることを期待していたのではないか。
なにが一興だ。なにが社会勉強だ。そういう理由づけをして、自分を偽り、背徳感をなくそうとしていただけだ。
「花蓮さんはすぐいけますか?」
芸人に似た店員は正夫の反応には無関心で、極めて事務的な口調で切符売り場のガラスの向こう側にいる若い男に尋ねていた。
若い男はパソコンを打って、「はい、すぐオッケーです」と答えた。
「プレイ時間はどれになさいますか?」
店員はカウンターの上にメニューのような本を置き、それを開きながら尋ねてきた。
ショート、レギュラー、ロングとあり、その横にプレイ時間が60分、90分、120分と書かれていて、その横に代金が書いてある。
昨日彼女と会ったカフェテリアの飲み物のサイズも同じだったことを思い出し、正夫は可笑しくなった。
「じゃあ、ショートで」
あの時をまねるように、わざと同じ口調で言った。
「プレイコースはAからFまでの6種類ありますが、どれにされますか?」
店員は本のページをめくりながら、説明する。
「Aコースは一番ポピュラーなやつで痴漢プレイです」
「ち、痴漢?それは犯罪じゃないか」
「お客さん、冗談は言わないでくださいよ。これはただの真似事で本当に痴漢をするわけではありません。むしろ、そうやってお客様の欲望を満たし、犯罪防止に役立つという抑止効果もあり、むしろ社会に貢献しているのですから」
「なるほど」
男の言うことは不思議に説得力があった。
イメクラとはイメージクラブの略なのか……。
店員はページを捲り、写真を示しながら、次々と説明を続けてゆく。
「Bコースは痴女プレイです。これは逆に女の子がお客さんに対して、エッチなことを仕掛けてきます。Cコースはお医者さんごっこで、Dコースは夜這いプレイで……」
正夫は説明を聞きながら、一番ポピュラーなと言っていたので、
「痴漢プレイで」と答えた。
そういう言葉を発する自分が恥ずかしくなって、正夫は照れ笑いをしながら言った。
「コスチュームはどれにしますか?」
店員が次のページを開くと、色々な衣装を着た女の子の写真が載っている。
ブレザーの制服、セーラー服、スクール水着にビキニの水着、テニスウエア、看護婦の服にデパートガールの服。
その中にOLの服装があるのに気づいた。白いブラウスにピンクのベストとスカートだった。正夫はこの服はきっと彼女に似合うだろうと思った。
衣装を選ぶと、すべての手続きは終了したらしい。
代金を払うと、番号の入ったプラスチックの札を渡され、店員は右側のカーテンを開け、「ここで、順番を呼ばれるまでお待ちください」と言った。