第5章
その店は歓楽街で有名な街にあった。
スマホの地図をたよりに歩いてゆくと、そう迷うことなく、その店は見つかった。
広い大通りから、大きなビルの隙間の暗い路地に入る。両側には小さな飲食店が並んでいたが、まだどの店も閉まっていて、静まり返っていた。
路地の突き当たりに小さなビルが立っていた。入り口の横に四角い看板が置いてあって、「3Fイメクラ美女っ倶楽部」とあり、その下に60分19000円と書かれている。
そっと覗いてみると、一階はバーのようだが、室内は暗く、閉まっていているようだった。意を決して、暗く狭い階段を恐る恐る上がっていく。二階も酒場のようだが、ここも閉まっていた。
が、三階に上がると、思いがけないことに室内には明かりが点いていた。
アルミのドアがあり、上部の磨りガラスの上に、イメクラ美女っ子倶楽部と印刷されたボードが貼られている。その向こうからは光が洩れていた。
正夫はその前に立ち、中の様子を窺った。
その時、不意にドアが開き、中から若い男が出てきた。
ドアの向こう側にいた店員が目ざとく正夫を見つける。
正夫は狼狽えた。
急いで向きをかえ、その場を去ろうとした。が、その前に声が掛かった。
「いらっしゃいませ。どうぞお入りください」
店員が駆け寄って来て、ドアを開ける。
子供のように逃げ去るのはみっともないように思われた。
正夫は鷹揚に頷き、ドアを押さえている店員の横を通って、店の中に入っていった。