第2章
ホテルの部屋に戻ると、正夫は窓側の椅子に腰を下ろした。そして、ズボンのポケットの中に入れていた名刺を取り出した。
正男は東京の私立大を出てから、地元の県庁に入庁し、勤続36年。来年には定年を迎える。
庁内でも評判の堅物である。
煙草は吸わない。酒はたまに晩酌を嗜む程度で、忘年会、新年会、歓送迎会などはいつも一次会で帰ることにしている。
夜の店のことに関しては、とんと疎いが、「美女っ子倶楽部」というのが、いかがわしい店であるくらいの想像はついた。
しかし、あの清楚な子がそういう仕事をしているようには思えない。どう見ても一流会社のOLかどこかのお嬢さんにしか見えない。
もしかしたら、あの名刺は彼女のものではなく、たまたま誰かの名刺を持っていただけかもしれない。
恋人が持っていたのを怒って取り上げただけかもしれない。
正夫はそう自分に言い聞かせ、納得させようとした。
しかし、心のどこかで、これは彼女のものに違いないという確信めいたものが何故だかあった。
「どっちにしろ関係のないことだ」
正夫は自分に言い聞かせるように呟き、名刺をごみ箱に捨てた。
晩御飯はホテルのレストランで食べることにした。
娘は入試の興奮からか、普段は正夫とあまり話すことはないのに、この日はいつになく饒舌であった。
試験問題が例年と傾向が違っていたことや、テスト中やたら音を立てる男子生徒がいて集中出来ずウザかったとか、色々と話し続ける。
が、正夫は相槌を打ちながらも、うわの空であった。彼女の名刺のことがずっと頭から離れなかった。




