第19章
二時間余り飲食した後、店を出た。
「よかったら、これから体験取材に行きますか?いい店を紹介しますよ」という誘いを「今日は遠慮しとくよ」と断り、正夫は部下と別れた。
正夫はそんなに酒が強くない。生ビールをコップ数杯飲んだだけだが、かなり酔いが回っている。
タクシーを拾い、後部座席に身を沈め、窓の外を眺めた。
「彼女たちは会話を楽しんだり、心の交流を望んでいるんです」
部下の言葉が脳裏に浮かんでくる。
そういえば、花連はしきりに話しかけてきた。
しかし、自分はほとんど話さなかった。それは緊張のせいでもあるし、若い客ばかりいたので気後れしたせいもある。標準語をしゃべろうとしたせいもあるかもしれない。しかし、手順というか、これから何をしたらいいのか分からなかったことが一番の理由である。
まさか彼女が会話をしたいとは思いもよらなかった。
あの時、シャワーを浴びる前、花連は確かにため息をついていた。彼女は、自分のことを肉体目当てだけの客だと思ったのだろう。もちろん彼女を蔑視などしていない。むしろ、彼女にある種の憧れを抱いてさえいる。それなのに……。
彼女にそういう風に思われるのは心外で、耐え難いことだった。
正夫は目を閉じて、花連の顔を思い浮かべようとした。
しかし、どうしても思い出せない。それどころか身体の様子も忘れてしまっている。ぼかしの入った写真の顔だけが瞼の裏に浮かんでくるだけだ。
彼女の腕の細さと柔らかな肌の感触だけがかすかに掌に残っている。
彼女がこの仕事もずいぶん長いと言っていたことを正夫は思い出した。
いつ店を辞めるか分からない。そうなれば、もう二度と会うことは出来ない。
酔った頭の中で、正夫は自分が花連に恋をしているのを明確に自覚した。
もう一度会いたい。
この土曜日に会いに行こう。




