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99 戦利品の山分け

「コトミ、さっきも聞いたけど、ルチアの……魔力過多症についてもう少し、詳しく教えてくれる?」


 サンドイッチの山が半分ほどになったところでアウルが話を切り出してくる。


「うん? いいよ。さっきは少しドタバタしてたしね。もう少し詳しく説明しようか」


 カモミールティーで口の中を流し、ルチアちゃんに視線を向ける。


「魔力過多症についてはさっきも説明したよね」

「うん。体内の魔力が保有できる量を超えてしまうことだよね」


 アウルがそう答える。


「そうだね。魔力を持っている人は当然魔法を使えるから、通常は魔力過多症にならないんだけど、今回のように魔法が使えることを知らない、もしくは後天的に魔法が使えるようになった人は発症することがあったの」


 ルチアちゃんを見ると少し心配そうな眼差しをしている。


「ルチアちゃんはもう大丈夫だからね」


 体調不良の原因はわかったし、対処法も私がいればなんとかなる。

 しばらく一緒にいて治療……というよりかは対処法を教えるつもりだ。

 私がそう言うと、ほっとしたように胸をなで下ろす。

 テスヴァリルで魔力について調べていたときに、魔力過多症についても調べる機会があった。

 向こうじゃマイナーな症例だけど、調べておいてよかったよ。


 今回のルチアちゃんのケースでは、魔法を使えることに気がついていなかったため魔力の消費ができず、魔力過多症になったと思われる。

 たぶんアウルが使えていた魔法の能力(ちから)をルチアちゃんが受け継いだのだろう。

 そうなると昔から魔力消費が出来なかったわけだから。

 十年以上魔力を消費しない魔法使いって……想像できないな。


「ルチアちゃんは体調に変化ない?」

「そう……ですね。息苦しさも無くなって、良くなったとしか実感はありませんが……」


 魔力過多症の発症時期については諸説ある。

 数週間、魔法を使わなかっただけで発症する人もいれば、数年間魔法を使わなくても発症しない人もいた。

 さすがに十年以上で発症する人は聞いたこともないけど。

 原因さえわかれば大したことのない症例だけど、あまり知られていない副次的な作用もある。

 ……ただ、この確認はまた後日かな。


「ルチアは……もう大丈夫なんだよね」


 アウルが心配そうな顔をして聞いてくる。


「そうだね。また数年間魔法を使わないと発症する可能性はあるけど、日常的に魔法を使っていれば問題はないよ」

「よかったぁ……」


 全身の力を抜き、ソファーに全身を預けるアウル。


「お姉ちゃん……。今まで心配させてごめんね。これからはわたしもお姉ちゃんを支えるから、ね」

「ルチア……」


 二人手を取りしばし見つめ合う。

 ……姉妹っていいなぁ。

 なんて思っていたらリンちゃんが腕を絡め、耳元でささやいてくる。


「コトミにはワタシがいるよ」


 ……いったいどういう意味で言っているのか。

 深く考えないようにし、そのまま二人が落ち着くのを待つ。




「あはは……また、恥ずかしい姿を見せちゃったね」


 アウルが照れ臭そうに頭をかく。


「ううん。二人とも仲が良くて羨ましいよ。でも、ルチアもそっち側の人間かぁ」

「リンちゃんも何を不穏なことを言ってるのよ」

「いや、だってさ。アウルも常識外れだし、ルチアもコトミも魔法が使えるじゃん。ワタシだけ普通の人みたいだよ」


 普通とはちょっと違うけど……まぁ、言いたいことはわかる。

 リンちゃんも実は何か隠された力を持っていたり……って、それは無いか。ルチアちゃんの場合は完全にイレギュラーだし。

 リンちゃんが魔法使えたりしたら、それこそ世界中のみんなが魔法使いになっちゃう。


「ま、仕方がないね。ワタシはワタシなりにサポートするよ」


 まだ、何か起きると予測しているのか、そんなことを言う。

 もう、トラブルはゴメンだよ。


「そういえばルチアちゃんは体調以外で変わったことは無い?」

「体調以外……ですか。うーん、言われてみれば、身体の中にあの時の力の元と言うのか……。言葉にしづらいのですが、力がみなぎっている感じがします」


 ふむ、一応確認だけしておこうか。あまり私自身、人の魔力を見るのが得意ではないけど、何もやらないよりはいいかな。


「じゃあ、ちょっとこっちに来てもらえる?」

「あ、はい。お姉ちゃんどいて」


 おぉ……アウルが追いやられている。

 アウルを外に追い出し、ルチアちゃんが隣に座る。

 お風呂上がりだからか、なんかいい匂いが……って、いかんいかん。


「えぇと、手を出してくれる?」

「こう……ですか?」


 右手をおずおずといった感じで差し出してくる。

 ルチアちゃんの小さい手を両手で包み込み、手のひらに魔力を集める。


「私の魔力を感じられるかな?」

「……はい。なんとなくではありますが、力のようなものを感じています。言葉ではなかなか言い表せないですが……」

「うん。それが『魔力』だね。ルチアちゃんの身体にも同じように魔力があるんだけど、その存在は感じられるかな?」

「……まだ、ちょっと、よくわかりません」


 まぁ、そりゃそうだよね。

 生まれて初めて魔法を使ったのがさっきなんだから。

 テスヴァリルに住んでいる人たちと違って、魔法の練習なんてしていないしね。


「それは仕方がないよ。魔法が使えるって知らなかったんだしね。これからわかるようになるよ。それに――」


 不安そうなルチアちゃんへ安心させるよう続ける。


「私が魔法を教えてあげるしね」


 手を離し、頭を撫でる。


「コトミさん……」


 撫でた瞬間、最初はビックリしていたが、少しすると目を細め心地よさそうにしてきた。

 ……ん? ルチアちゃんの顔が心なしか赤くなってきた気が……。


「ホント、コトミって()()()だよね」

「なにわけのわからないことを言っているのよ、リンちゃんは」


 ルチアちゃんを撫でていた手を離す。


「あっ……」


 ルチアちゃんもそこで残念そうにしないで……。

 とりあえずは大丈夫かな。

 魔法についてはまた今度だね。




「そういや今のうちに取り分決めちゃおっか」


 カモミールティーで一息入れていたところ、ふと思い出した。


「あー、そうだね、他の人に見られるわけにもいかないし」

「換金は前と一緒でリンちゃんの方で大丈夫?」

「任せて~。足のつかないようにするよ!」

「いや、あながち間違っていないけど、悪いことしている訳じゃないからね」


 他の二人がビクッと反応したため、一応フォローしておく。


「まぁ、必要悪だし、物は言い様だね」

「アウルうっさい。悪人に人権はない」


 別に正義のヒーローとかやるつもりはない。

 どうせ大金が残っているだけでトラブルの元になるんだから。

 それなら仲良くみんなでパーっと使っちゃった方がいいだろう。

 机の上に金のインゴットを並べていく。


「はぁ、あまり重いものは収納圧迫するから嫌なんだよね」


 そう愚痴りながら全てのインゴットを取り出す。


「そうは言いつつも顔がニヤけているんだけど」

「アウルうっさい」

「いち、に、さん……と、よく溜め込んだものだね」


 表には出せないお金だろうし、遠慮する必要は無いかな。


「大きな額で四分割して、残りはリンちゃんでいい?」

「「え……?」」


 アウルとルチアちゃんが固まった。


「……お~い」

「あ、えっと、いいの?」


 アウルが再起動した。


「うん、というより、今回は二人が完全に被害者でしょ。逆に私たちがもらっていいの? って話だよね……もうちょっと欲しい?」


 二人とも首をブンブンと横に振るう。


「リンちゃんが多めなのは換金の手間と、ここの打ち上げ代だからね」

「「はいっ」」

「手間を考えると、そこまでおいしくは無いんだけどね~」


 まぁ、そこは我慢してもらおう。

 そういえばアウルたちの口座はどうするかな。

 私と同じように口座作ってもらうか。あとでリンちゃんにお願いしておこう。


「……コトミ、これっていくらぐらいになるの?」

「ん? んー、金貨で言うと百枚ぐらいになるのかな」

「「ひゃくっ!?」」

「二人合わせれば二百ぐらいかな」

「「にひゃくっ!?」」


 この姉妹面白いな。

 アウルたちも当然硬貨の価値はわかっているし、驚くのも無理はないだろう。


「そ、そんな大金もらっていいのかな……」

「いいの。どうせあくどいことして稼いだお金だろうしね。慰謝料程度にもらっておくの」


 こいつも変なところで真面目だからな。


「う、うん」


 あまり納得していないようだけど、ルチアちゃんのためでもあるんだからね。

 そういえばルチアちゃんからはあんまり否定的な意見は出ないな。

 今も私の言葉にウンウンうなずいているし。

 ……ま、いっか。

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