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97 仲良く入浴

 バスタブにお湯を張りつつ、お風呂の準備。

 クローゼットの中に四人分の寝巻きがあったけど、なんで子供サイズがきっちり四着あるのかね……。


「サービス行き届いているでしょ」


 リンちゃんは事も無げに言うけど、ちょっと過剰すぎ……というよりやりすぎではないか?

 ホテルにチェックインしてから部屋に入るまで数分しかなかった気がするんだけど。


「あまり細かいこと気にしすぎるとハゲるよ?」

「ハゲないよ! というより心読まないでよ!」


 お風呂の準備をしているあいだ、他の二人はお部屋の探検をしているようだった。


「ねぇねぇお姉ちゃん、これおいしそうな匂いがするよ?」

「ホントだ……食べてもいいのかな?」


 アウル、それキャンドルだからね? 食べられないからね? ルチアちゃんもしれっとしているけど、知っていて言っているよね?




「もうすぐお湯たまるから、先に身体洗っちゃおっか。みんな集合~」


 リンちゃんから合図がかかる。さて、お風呂に入りますかね。


「ほら、早くお風呂に行った行った」

「あ、押さないで下さい~」


 焦った顔のルチアちゃんを先頭に脱衣所へ入っていく。


「脱衣所に四人入るとさすがに狭いね」

「ん。でもこうすれば平気だよ」

「ひゃ、もう、リンちゃん。なんで引っ付くのよ」


 振り返ると、すでに脱ぎ終えたリンちゃんが、上半身を背中にくっつけてきていた。

 ワンピースだけのリンちゃんは脱ぐのも早い。

 まだブラウスしか脱いでない私に、ピッタリとくっついてくる。


「んふ~、二人で入るのも久しぶりだね」

「昨日も入ったでしょ。今日は他に二人もいるからね。忘れちゃダメだからね」

「そうだね。この続きは二人っきりの時にね」

「意味深な言い方やめなさいっ! っ、何もないからね!」


 アウルとルチアちゃんの二人が、ピクッと反応したため、勘違いされないよう念を押しておく。


「ふ、二人は、仲が良いんだね」

「お姉さま……」


 アウルは笑顔が引きつっているし、ルチアちゃんは目がキラキラしているし!


「あ~、そうだね。何だかんだで一緒にいるよね。ワタシがコトミと一緒にいるのは、便利だから――じゃない、友達だからだよね」

「いま便利って言ったよね!? いまさら取り(つくろ)っても遅いよ! しかも、いまだに便利だと思ってたの!? 泣くよ!?」

「冗談だよ、冗談。照れ隠しなんだから多めに見てよ、ね」

「ちょ、どこ触ってんの!? あぁ、もう!」


 リンちゃんの手を振りほどき、アウルの陰に隠れる。こっちも複雑な服を着ているから、まだ脱いでいる最中だった。


「あらら、嫌われちゃったかな?」


 リンちゃんが悪い笑顔で手をワキワキとさせている。


「あはは、大丈夫。コトミも照れているだけだから」

「アウル、しゃらっぷ、刺すよ?」

「それはこまるな~」


 そう言いながらも冗談だとわかっているからか、呑気な返事を返す。


「あー、こほん。冷えますので、そろそろお風呂に入りません?」


 横を見ると、ルチアちゃんも服を脱ぎ終えて髪を纏めあげたところだった。


「あ〜、リンちゃんもおいで、まとめ上げるから」

「ん、いつもありがとう」

「まったく、いつもメイドさんにやってもらっているからって、いい加減自分で出来るようになりなさい」

「ふふふ、そうは言いつつも、手伝ってくれているコトミは好きだよ」

「……私は別に」


 不意打ちでそういうこと言うの禁止。

 女の子とはいえ、ストレートな好意には慣れていないんだよ。


「……いいなぁ」

「ん? ルチア、どうしたの?」

「……別に」


 アウルたちが何やらこっちを見ながら話をしているけど、聞こえない振りをする。

 リンちゃんの髪をいつもどおりまとめ上げ、頭に耳のような結び目を作る。


「ん。ありがと。コトミの結び方、上手だよね。この結び目が耳みたいで可愛い」

「普通に結んでいるだけなんだけどね」

「他の人で練習しているんじゃないかと、疑いの目を持っている」

「やっていないよ。それに疑いって何よ」


 小さくため息をつく。

 リンちゃんの頭を軽くポンッと叩き、終わったことを伝える。

 周りを見渡すとみんな準備が整っているようだった。

 私も急いで服を脱いで準備する。


「それじゃ、入ろうか」


 リンちゃんのひと声で、みんな揃って浴室へと入る。


「おおおっ、お風呂だっ!」


 アウルが感極まった感じで叫ぶ。


「響くから大声出さないで」


 私の一言にリンちゃんとルチアちゃんが苦笑いする。


「お姉ちゃん、わたしが洗ってあげるよ」

「え? ホント? ……それじゃあ、お願いしようかなぁ 」


 妹に言われたことがよっぽど嬉しかったのか、アウルの笑顔はだらしなく(ゆる)んでいる。


「あはは、姉妹水入らずでゆっくりね。じゃあ、コトミはいつもどおりワタシと、だね」

「まぁ、洗い場が二つしか無いし、仕方がないか」

「仕方がないって、何よ。仲を深めるためにもこういうスキンシップは大事だよ」


 いやいやいや、毎日のように身体を洗いっこするって、過剰だからね?

 別にリンちゃんがいいならそれでもいいけどさ。

 私も最近は洗われるのが心地良く感じてきたし。

 これはリンちゃんには内緒だけどね。

 最初は酷い目にあったし、あまり甘い顔をするわけにはいかない。


「さ、コトミはここに座ってね」


 促されるままバスチェアに座る。

 いつもどおり髪の毛にシャワーをかけられ洗われていく。

 すでに何回も洗っているから、もう手慣れたものだ。


「ふんふふ〜ん」


 鼻歌を歌いながら私の髪を泡立てるリンちゃん。


「ご機嫌だね」

「まぁね。一時はどうなるかと思ったけど、無事終わったしさ。また、こうやって一緒にお風呂へ入ることができたから嬉しくって、ね」

「リンちゃん……」


 そうだよね。もし、私がアウルに負けていたらこんなにゆっくりとお風呂に入っていられないだろうし。

 何より、リンちゃんが無事でいられなかったと思う。

 ホント全て丸く収まってよかったよ。


「それじゃ、流すね」


 リンちゃんにシャンプーを洗い流され、コンディショナー、トリートメントとしてもらう。

 身体も背中から洗ってもらう。

 背中から腕、脇、脇腹からお腹へ……。


「あ、ちょっと、前はいいよ」

「いいから、いいから。コトミもお疲れのようだし、たまにはワタシに任せて、ね」


 ……ま、今回はリンちゃんも大変だったし、少しぐらいはいいか。


「……変なところ触ったら刺すからね」

「あはは、それは勘弁してほしいな」

「ちゃんと治すから、傷のことは心配しなくていいよ」

「いや〜、そういう問題じゃなくてだね……」


 背中から小さなため息と共に呆れた声が聞こえる。

 リンちゃんの流れるように滑る指が心地よい。


「ん……」


 思わず声が出そうになるけど我慢。気持ちよさそうにしたら調子にのるだろうし。

 いつもは背中だけで、前はやってもらっていない。

 初日に手を出された時はさすがにビックリしたから、拒否したけど。


「んふふ、コトミ、気持ちよさそうだね」

「まぁ……悪くはないかな」

「ふふふ、あんまりガツガツすると、ウブなコトミは嫌がっちゃうから今日はここまでね」

「……いろいろとツッコミどころ満載なんだけど」


 リンちゃんの洗い残した部分を手早く洗い、身体を流していく。

 ふー、さっぱり。血や汗でベタベタしていたからね。

 ……いま思い返せば今日も激しかったな。


「それじゃ、次はワタシかな。ワタシと同じようにサービスしてくれていいよ」

「…………」


 それは、あれか? 私にも前を洗えということか?

 顔が引き攣りながらも仕方がなくうなずく。

 このお嬢様は遠慮が無いな……。




「ふうぅ〜、やっぱりお風呂はいいね」

「相変わらず親父くさいよ、リンちゃん」


 身体を洗い終わり、二人で先に湯船へと浸かる。

 他の二人はまだ身体を洗っているところだった。


「お姉ちゃんの汚れがなかなか落ちなくて……」

「なっ! ルチア、それは内緒にしてって!」


 あ〜、いままでお風呂無しで生活していたからな。それはそれで仕方がないか。


「それでも身体を拭くことはできるでしょ? まったく、ズボラなんだから」

「ル、ルチア〜」


 アウルが涙目でルチアちゃんの身体を洗っている。

 遅くなっているのはそのせいか。

 まぁ、アウルも向こう(テスヴァリル)の感覚がまだ残ってるんだろうね。野営が多いと、どうしてもお風呂はあと回しになっちゃうし。


「はいっ! これで終わり! さ、入ろ!」


 恥ずかしさを誤魔化すかのように、大声で叫ぶ。

 だから響くと……。


「ふうぅ〜、生き返るぅ〜」


 アウルも親父くさいな……。


「お姉ちゃん、人様の前でだらしないよ。しっかりして」


 ルチアちゃんはしっかりしすぎだろ。

 アウルは打ちのめされてしょぼくれているし。

 リンちゃんはだらしなく弛んでいる。

 ……まぁ、たまにはこんな人数でお風呂に入るのもいいかな。

 和気あいあいと他愛もない話をして、お風呂の時間を過ごす。

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