96 食べ歩き
すでに遅い時間ということもあり、表通りのお店は大半が閉店している。
ただ、この地は観光地と言うこともあり、繁華街の方であれば出店とかでまだ賑わっているはずとのこと。
リンちゃんに案内され繁華街へと向かう。
「と、いうことで繁華街まできました」
「なに食べようか」
リンちゃんの一声にみんなが反応する。
「「肉っ」」
そう即答する姉妹の二人。
なんだろ。二人して飢えているのかな。
「あ~、じゃあ焼き肉?」
焼き肉屋なんてあったっけかな。
「子供たちだけで入れるの?」
「それなら出店で食べ歩きすればいいんじゃないですか?」
「あ、そうしようか。そのほうがみんなで好きなもの食べられるし」
そう言ってみんなで移動する。
ぞろぞろと見た目子供の集団四人。
正直、この時間だと目立つ……。
「あ、串焼き!」
牛肉を串に刺して焼いた物で、非常に香ばしい匂いがしている。
「おじさん、四本下さい」
「あいよっ!」
「あ、お金……」
「私に任せなさい」
ルチアちゃんが困ったような声を出したから、胸を張って言う。
先ほどの戦利品で懐はホクホクだ。
おや、リンちゃんがアウルと何かコソコソと話をしている?
「アウル、コトミは何したの?」
「えと、金庫の中身を……」
「あぁ、うん。納得。またか~」
「またって、また?」
「そう、コトミは悪党に容赦ないからね~」
「そこ! 影でいちゃもんつけない!」
「後処理する方も大変なんだよね」
リンちゃんが呆れながら言ってくる。
「う……ごめん」
「まぁ、いつも助かっているからいいけど。また、誤魔化しておくよ」
「うん、いつも通りよろしく」
「私はなにも聞いていない、私は無実だ……」
アウルが何かつぶやいている。
「アウル、私たちは悪の組織を潰す、正義の見方だよ」
「そんな腹黒い正義ないよ」
アウルうっさい。
「むしろ必要悪と言った方が正しいのでは無いでしょうか」
ルチアちゃんも聞いていたのか、横から口を挟んできた。
「いやー、そこだけ切り取ってみたら、むしろ悪だね!」
「なっ……ひどい! 特に最後のリンちゃん! リンちゃんも同罪だからね! ……お肉分けないよ」
屋台のおじさんからちょうど袋を手渡される。
私の手元には袋に入った串焼き。
人質ならぬ、肉質はこちらの手にある。
「人の批判をはね除け活躍するヒーロー、うんかっこいいね」
「必要悪も裏返せば正義になります。問題ありません」
「悪でも何でも自分たちが良ければいいよね?」
あんたたち手のひら返しすぎだろう!
そしてリンちゃんはさらに悪へ染まってるよ! そのセリフは!
「はぁ……もういいよ。一緒に食べよう」
その後も何だかんだ言いつつも食べ歩き。
食べた。肉ばかり。ただ女子的に食後のデザートも忘れない。
「女子……ねぇ」
「……なによ」
リンちゃんが半目になりこちらを見ている。
いや、あなたも同じように食べたでしょうに……。
「今日このあとどうする? せっかくだしどこかに泊まる?」
そこそこいい時間にもなってきたので、これからどうしようかと相談。
みんな後半になり口数が減ってきている。このままだと楽しい時間が終わっちゃうしね。
「そうだね……。でも私たち、お金無い……」
アウルが珍しく気にしているね。
「それは大丈夫よ。私が出すんだし」
「え……でも……」
「アウル、いいんだよ。こういうときは遠慮しないの」
リンちゃんがアウルに何やら話をしている。
アウルはたまに遠慮するんだよな。
普段は遠慮どころか邪魔しかしないのに。
「コトミは相変わらず遠慮しないね……」
「うっさい」
「ところで、子供たちだけで泊まれる宿なんてあるんですか?」
そう、こちらの世界では未成年者の自由は少ない。
そもそもこんな時間に出歩いていたら通報物だ。
それでも周りが温かい目で見守ってくれるのは街柄なのかな?
祭り騒ぎでそれどころではありませんか、そうですか。
「大丈夫。私に任せて」
「リンちゃん? いいけど、大丈夫?」
なんか、嫌な予感がするけど……。
「問題なし!」
不安だ……。といっても、他にいい案が思い浮かばないため、リンちゃんに付いて歩いていく。
少し歩くと目の前には高層ビルが……ってこれ、ホテルか……?
リンちゃんは躊躇することなくその建物に入っていった。
見上げていたら置いていかれそうになったので、慌ててついて行く。
内部も高級感溢れる装飾品で埋め尽くされており、庶民の私からすれば簡単には手が出ないホテルというのがわかる。
「あ、ワタクシです。父様への来客が急遽ありまして、突然で申し訳ないのですが、お部屋を用意出来ないでしょうか?」
誰やっ! ……相変わらずの豹変っぷりに思わずツッコミを入れてしまう。
「はっ、リーネルンお嬢様。承知いたしました。いつものお部屋でご用意がございます」
「ありがとうございます。お友達もご一緒して問題ありませんか?」
「もちろんでございます。お食事は如何いたしましょうか?」
「軽くいただいて来ましたので、あとでお願いできますか? こちらからお声がけしますわ」
「承りました。それではお部屋にご案内いたします」
そんなやりとりののち、フロントクラークの男性が、案内しようとカウンターの向こうから出てくる。
「あ、今日はお友達とゆっくりしたいので案内は不要です。ルームキーだけいただけるでしょうか」
「承知いたしました。ごゆっくりと、おくつろぎください」
軽く会釈をし、フロントから離れるリンちゃん。
「さぁ、皆さん参りましょう」
後ろの二人はボーゼン。私は、まぁ、慣れたってだけで……って、置いていかれる! ちょっと待って……。
二人の手を掴み、半ば引きずるように連れていく。
うぅ……周りの視線が痛い……。
「ふーっ。ね、問題無かったでしょ?」
エレベーターホールの前で回りに誰もいないことを確認したリンちゃんが素に戻る。
ウインクするご機嫌なリンちゃんとは裏腹に、後ろの二人は白目を向いていた。
エレベーターに乗り込み目的のフロアに到着。
ホテルの部屋は最上階。ワンフロアで一部屋か……。
いったい一晩でいくらするんだろうか。
「ふふふ、お友達同士で泊まるって旅行みたいで楽しいね」
「えっと、そう、だね」
「なによー。コトミ、歯切れが悪いね」
「うん。慣れたつもりだったけど、私、混乱している」
「あはは、ごめんね。いまさらだけどさ」
あっけらかんと笑うリンちゃん。
まぁ、いいんだけどね。
部屋の扉を開け中に入る。
「ほら、二人とも、着いたよ」
「はっ……」
「……リンさんって、何者なんですか?」
「あはは、やだな。どこにでもいる普通の少女だよ。少しだけネコ被っているけど」
少しじゃないよね、絶対に。
「コトミうるさい」
「えっ!? 声に出てた!?」
「ううん、顔に出てる」
「か……お?」
ってどういうことよ。そんなに分かりやすいのか。
「コトミは昔からそう、すぐ顔に出る」
アウルもいきなりなによ。泣くぞ?
「ま、せっかくのホテルだし楽しもう!」
私が一人ダメージを受けていじけていると、リンちゃんが仕切り直してきた。
「はぁ、まぁいいや……。とりあえずお風呂入りたいね」
「一緒に入る? 四人なら入れると思うよ」
「お風呂っ!?」
うわ、ルチアちゃんか。
「ビックリした。どうしたの?」
「あ……ごめんなさい。お風呂、久しぶりなもので……」
あ~年頃の女の子だもんね。
私やアウルは前世のこともあるから、あまり気にならないけど、リンちゃんやルチアちゃんはそうじゃないもんね。
「じゃあみんなで入っちゃおうか~」
「狭くない? 大丈夫?」
お風呂場の中をちょっと覗く。
ん~、蛇口が左右に一つずつあるし、浴槽も四人は入れそうだね。それにしても……。
「いい、部屋だね……おいくら?」
「ん? そんな野暮なこと聞かないでよ~。でもまぁ、コトミなら普通に泊まれるクラスだよ」
私を基準にされても困るんだけど。
「え? コトミってそんなにお金持ってるの?」
「何言ってるのよ。アウルたちも持っている……という より、これから貰うんだよ?」
「「……え?」」
姉妹が二人して疑問を口にする。
「コトミは優しいからね~。絶対に一人占めしないんだ。ほんとバカだよね」
「リンちゃんうっさい」
「でも、そんなバカだけど、ワタシ好きかな」
「バカバカ言うな~!」
「あっ……」
アウルが何かに気づいたように――。
「……コトミは、そうだったね」
ぽつりとつぶやく。
「昔から口は悪かったけど、優しかったよね。口は悪かったけど」
「二回言うって確実に悪意持っているよね!?」
「へ~コトミの昔話って聞きたいな~。ワタシと出会う前のことだよね?」
リンちゃんがアウルの漏らした言葉に反応する。
「「うっ……」」
アウルと二人して口を紡ぐ。
昔……テスヴァリルの話はさすがになぁ……。
「ん? どうかした?」
「あ、いや……あっ、お風呂だよね、お風呂入ろう!」
「あ~、ごまかした。なになに? 言えない秘密でもあるの?」
リンちゃん鋭いね!
「そういう話はまた今度ね! また今度!」
「へぇ、今度なら教えてくれるんだ」
「うっ……」
や、やぶ蛇だったか……。
「おぉ、コトミが手のひらで転がされてる」
「アウル、うっさい。むしるよ」
「何を!?」
はぁ、まぁいいや。




