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94 ブタに金塊

 扉は豪華絢爛(ごうかけんらん)としており、個人宅? だからか丁寧にインターホンまで付いている。


「アウル、鍵はよろしく」


 一つうなずき剣を振るうと、甲高い金属音が響く。

 警戒しつつ、アウルを先頭に扉を開く。

 中を覗くと、そこそこ広い広間に調度品が複数置いてある部屋が目に入った。

 中に人の気配はなく、奥へと続く扉に進む。


「親玉ってどんな人?」

「うーん……不摂生の象徴と言うのかな……。マーティンが言っていた『ブタ』という表現がしっくりくる感じかな」

「はぁ、よくそんなやつの言うことを聞いていたね」

「う……あの頃はなり振り構っていられなかったんだから仕方がないじゃん」


 そんな軽口を叩きながら奥の扉に手をかける。

 鍵はついていないようで、ゆっくり開くと廊下になっており左右に複数の扉が備わっていた。

 手前の扉から開けて調べていく。

 クローゼット、トイレ、ベッドルーム、そしてこれは娯楽室?

 人の気配が感じられないまま、最後の扉に手をかける。


「だ、誰だっ!」


 扉を開けたそこは書斎のようになっており、豪華な机に丸々と太った成金趣味っぽい男がいた。


「あぁ、確かに、ブタだ」

「なっ! 無礼者! マーティン! マーティンはおらんか!」


 唾を飛ばしながら怒鳴り狂う男。


「マーティンなら逃げたよ」

「な……あいつ、今までの恩を忘れてからに!」


 マーティンも同じようなこと言っていたな、そういえば。似たもの同士か。


「くそっ!」


 男が銃を取り出し引き金を引く。

 アウルが剣を振り上げ、甲高い金属音がなる。


「なっ! 銃弾を……くそっ」


 二発目、三発目、四発目……遅い射撃にアウルが余裕で弾き続ける。

 次弾装填時のスライドが後退しきったホールドオープン(弾切れ)の音が響く。


「な、何が目的だ」


 男が後退(あとずさ)り口を開く。


「リンちゃん……ペリシェール家を狙ったのは何故?」

「し、知らん! そんなやつのことは知ら……ぎゃあぁぁぁ!!」


 収納から一本ナイフを取り出し足元めがけて投げる。


「あんまり悠長に待ってられないからさ。さっさと話して」

「ま、待て……わかった」


 ナイフを手のひらで転がしながら続きを促す。


「ワ、ワシは頼まれただけだ。娘をさらえと、手段は問わない、と」

「依頼主は誰?」

「そ、それは……」


 話すのを躊躇(ちゅうちょ)している男に、もう一本ナイフを追加しようとしたところ――。

 ガラスの軋んだ音が小さく響く。

 直後、男の脳天が大きく揺れ、鮮血が吹き出す。


「っ、アウル!」


 剣を構え、小さくうなずくアウルを横目に、男へと駆け寄る。


「即死……か」


 外からか?

 部屋いっぱいに広がる窓を見ると、ちょうど男の頭があった高さに小さな穴が空いている。

 強化ガラスを綺麗に貫通しているから、遠距離射撃用のライフルか。


「アウルはどの程度の速さまでなら対応できる?」

「集中していればこの弾ぐらいなら弾けるよ」


 それは頼もしい限りだ。

 私の障壁も万能じゃ無いから、強い衝撃を受けると割れてしまう。

 窓に近づき外を眺める。

 眼下には街頭に照らされている、小さな街並みが見えた。

 周囲を見渡す限り、ここを狙える場所はない。

 よっぽど腕が立つのか、それとも……。

 推測の域を出ない考えを振り払い、アウルに向き直る。


「とりあえず目的は半分達成したようなものだけど、あとはどうする? 会社も潰しておこうか」

「うん、その方が世の為、人の為となることでしょう」


 どこの時代錯誤の言葉か。

 言い回しは別として言いたいことはわかる。


「このご時世、機密情報を流失させれば一発で終わるでしょ。ちょうどパソコンもここにあるし」

「コトミはパソコンも使えるの?」

「そんなわけないでしょ、リンちゃんにお願いするの」


 スマホを取り出し、リンちゃんへ電話をかける。


『あ、コトミ? 終わった?』

「うん、半分ぐらいはね。それでちょっとお願いがあるんだけど」


 そう言って経緯含めて説明する。

 血生臭いところはちょっと割愛(かつあい)


『はぁ、相変わらず無茶ばかりやっているね。ま、そこの会社は以前からいい噂を聞かなかったしね。この機会に再起不能としたいって気持ちはわかるよ。それでパソコンがあるの?』

「うん、おあつらえ向きに作業中だったからか、画面が開いている」

『ちょうどいいね。こっちもパソコン準備するから待ってね』


 アウルはキョロキョロと周囲を警戒している。

 やっぱり犬っぽいよね。

 その後、リンちゃんに言われるがままインターネットに接続し、あるアドレスを打ち込む。

 そのまま指示通りにクリックし続けると――。


『オッケー、あとはこっちでやれるから大丈夫だよ』


 そう言うと画面が切り替わり、カーソルが勝手に動いていく。

 おぉ、遠隔で操作できるのか。


『そこの監視カメラの映像も全部消しておくよ。どうせ人に見せられないことやっているんだろうから』


 それは助かる。

 魔法とかもろもろ映っちゃっているだろうから。

 これからは監視カメラにも気をつけよう。


『もう少し時間がかかるけど、あとは大丈夫だよ。気をつけて帰ってきてね』

「うん、ありがとう。じゃあね」


 スマホを仕舞い、撤収……の前にやることやっていこう。


「コトミ? 何やっているの?」

「んー? ちょっとね……お、あったあった」


 クローゼットを順番に開け放ち、いつも通りに金庫を発見。


「ホントこういう人たちって溜め込むよね」

「コトミが悪いことしている」

「悪い人たちからお金を取り戻しているだけだよ」


 そう返しながら金庫に魔法で穴を開けようとして気づく。


「アウルってこういう金庫の鍵も切れる?」

「んー? 金庫ごと切ることになるけど切れるよ」


 金庫ごとか……。でもまぁ、私が魔法で開けるより早く開けられるか。

 それに真っ二つになってもお金はお金だろうし。


「じゃあ、お願い」


 金庫から少し離れ、促す。


「は〜い。……ふっ」


 甲高い音と共に、金庫の一部がずれる。


「……え、器用だね」


 切られた金庫は扉の部分が縦にスッパリと切れていた。

 確かに金庫としては使えなくなったけど、中の物は完全に無事だ。

 残念な子だけどやることはしっかりやるね。


「相変わらず失礼なこと考えているね」

「細かいことは気にしないの」


 金庫の中を確認すると、金のインゴットが、一、二、三……六本あった。

 手早く収納に仕舞う。……重い。

 感覚的に相応の魔力が食われたのがわかる。

 でも心はホクホクだ。


「コトミが悪い顔している」

「うっさい。さ、引き上げるよ」


 その後は念の為に階段で一階まで降りる。

 途中、公安の方々とすれ違いそうになったから隠れた。

 まぁ、あれだけドンパチやれば通報されるよね。

 一階まで降りて、エントランスホールを覗くと、数えきれないほどの人がいた。

 さすがにあの中は突破できないわな。


「コトミ、どうする?」

「うーん……飛ぶか」

「はい?」

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