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82 懐かしく再会

「あの~、お取り込み中のところ申し訳ないんだけど、終わったの? いろいろと状況が理解できないんだけど……しかも、わけわからない言葉喋っているし」

「あ、リンちゃん。ごめんね、先に治しちゃうね」


 リンちゃんも怪我をしているんだから早く治さないと。

 治癒魔法を全身にかける。


「あぁ、ありがとう。って、この子はコトミの知り合いなの?」

「実はそうなんだ。久し振りに会ったから誰かわかんなかった」

「それなのに戦っていたの……?」


 呆れ顔で返されてしまった。

 いや、仕方がないじゃん。いきなり攻撃してきたし。話をする間もなかったからね。


「それで……えぇと」

「アウル、アウルだよ。コトミ、でいいのかな?」

「うん、アウル、あらためてよろしくね」


 とりあえずは一件落着、かな。

 被害は……怪我は治したから、また服か。

 無事とは言い難いけど、何とか丸く収まって良かったよ。


「ねぇ、コトミ。アウルのこと紹介してよ」


 リンちゃんに服の裾を摘ままれ催促される。


「えっと……アウル」

「あ、うん。アウル・クリューデ、だよ。こんな時だけどよろしくね」

「リーネルン・ペリシェール。リンでいいよ。コトミの敵……じゃないよね」


 リンちゃんの眼が鋭くアウルを射貫(いぬ)く。


「う……ごめん。最初はコトミとわからなかったから……でも、敵じゃない。コトミは親友だから」

「私は友達だと思ったことないけどね」


 アウルの言葉に反応し、ぶっきらぼうに言い放つ。

 この子は相変わらず恥ずかしいことを平気で言う。


「コトミ~……」


 泣きそうになりながらすり寄ってくる。まるで、犬だな。

 あぁ、もう。今だけだからね。アウルの手を引き寄せ、抱きしめる。


「あ……」


 一瞬驚いたようなアウルだが、力を抜き身体を預けてくる。


「コトミ、無事で良かった……」

「これを無事と言うのかね」


 お互いの姿を上から下まで眺める。うん、ボロボロだね。


「あ、いや、そうじゃなくて……あはは」


 わかってる。別の世界とはいえ、こうやって再会できたのだから、私も嬉しくないわけじゃない。

 ただ、こいつに対して素直に感謝できないだけだ。だから、せめて抱きしめる手に力を入れる。

 あの時、命を()して戦った仲なんだから。……命を、賭して、戦った?

 生まれ変わったときから疑問に思っていた。

 なぜ、テスヴァリルからこの世界へ生まれ変わったのか。

 なぜ最期の記憶が無いのか。

 命を賭して……戦った? 最期、何があった? 思い出せない……。


「……トミ、コトミってば」

「………………え?」

「どうしたの? 体調良くないのかな」


 心配そうにのぞき込むアウルと視線が交差する。

 髪色と同じ、ブラウンにレッドの色が混じった瞳が見つめてくる。


「……いっぱい斬られたからね」

「うぇっ!? ご、ごめん!? だ、大丈夫かな!?」


 ……はぁ、こいつは相変わらずバカなんだから。


「バカ……」

「えぇー……」


 戦っている時は無表情の少女だと思ったけど、相変わらず昔と同じように感情表現が激しい。

 姿形は変わったと言え、中身はやっぱりアリシアだった。


「あの~、そろそろいいかな? アウルが敵じゃないっていうのは、コトミの反応見ればわかったし。これからよろしくね」

「あっ……うん! よろしくねっ」


 私から離れ、リンちゃんと握手するアウラ。

 まぁ、バカだけど悪いやつじゃないしね。こいつは。


「アウルがどんな子か、コトミの表情見てればわかるよ」

「え? リンさん、それはどういう……」

「ほら、コトミってわかりやすい表情しているしさ」

「あ~、なるほど。相変わらずなんだね」


 二人してどういうことよ。まったく。

 なんにせよ、丸く収まって良かった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 自己紹介もそこそこに、これからのことについて確認する。


「で、アウルに聞きたいことがあるんだけど」

「う……な、なに?」


 私のあらたまった言い方に、アウルは身体を強張らせる。


「なんで私たち……ううん、なんでリンちゃんを襲ったの?」

「う、それは……」


 初めて襲撃を受けたとき、男たちは明らかにリンちゃんを狙っていた。

 アウルは呼ばれてやってきた感じではあったけど、なぜ襲ってきたかの理由ぐらいは知っているはず。


「私の知っているアウルはバカが付くほどの正直物で、悪事に加担することなんて絶対に無かった。自分のことより他人を優先するバカで、いつも損な役回りばかりやっていた」

「…………」

「そもそもバカだから人を騙すことなんて出来るわけがなく、逆に自分が騙されることが多かった」

「あまりバカバカ言うと泣くよ……」

「アウル……いったいどんな弱みを握られているの?」


 アウルのブラウンに輝く瞳を見つめながらそう問いかける。

 まったく、このバカはいったい何をしているのか。


「――っ。 な、なんで……?」


 目に映る瞳が動揺に揺れる。


「なんで? ふん、それぐらいわかれ。バカ」

「えぇー……」


 ……友達だからに決まってるでしょ。

 恥ずかしいからその一言は飲み込む。

 なぜかリンちゃんがニコニコしているけど気にしちゃいけない。


「ま、コトミはお人好しだからね〜」

「リンちゃん、うっさい」

「それにしても、コトミたちは大丈夫なの?」


 私とアウルを見比べながら心配そうに尋ねるリンちゃん。


「身体は大丈夫だけど、服は……ね」

「う、ごめん……。で、でもお互い様だよね……」


 アウルが申し訳なさそうにするけど、私も魔法でやり返しちゃったからなぁ。

 自分の身体を見下ろすと所々が擦りきれ黒ずんでいる。

 さらに胸からお腹の辺りまでは血がベッタリと乾いて赤黒くなっている。

 さすがに修復不可能だよね。……って、袈裟斬(けさぎ)りにされたから……は、肌が丸見えに……。

 いまさらながら前を隠す。この場には女の子しかいないけど、さすがにちょっと……。

 アウルも私の炎弾が直撃したから、それはもう酷いことに……。


「服はまた買えばいいよ。それより買ってきた服に着替えたら?」

「そうだね……」


 でも路上で着替えるのは勘弁してほしいな。

 誰もいないとはいえ、一応レディーなわけだし。


「良かったら、ウチに来る? 目隠しぐらいにしかならないけど、すぐ近くだし。私も着替えたいしさ」


 あはは、とアウルは乾いた笑いを出す。

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