表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/300

70 <戦いその後>

「よく倒せたね」


 歩きかけたところで不意に上から声をかけられる。


「きみは……」


 あの時の幼い顔立ちの妖精。

 木の枝から飛び降り、音もなく地面に着地する。


「約束のもの」


 そう言って差し出された手には、妖精の魔玉。


「あぁ、そういえばこれが目的だったんだ……。ホント、割に合わなかった。ドラゴンがいるなんて聞いていないよ?」

「言ったら断るでしょ。何人か連れて行ったけど、誰も倒せなかったし」

「そりゃあ、あれは無理でしょ。中規模以上の軍隊でも倒せるかどうか。よく一人で倒せたなぁ。自分を褒めてあげたい」


 ため息をつきながらも、妖精から魔玉を受け取る。


「はぁ、ありがとう。もらっていくね」

「もう一つ、お願いがある」

「……これ以上何かと戦うのは勘弁して」

「ううん、大丈夫」


 小さな妖精は首を横に振り、


「魔力」

「ん?」

「あなたの魔力、ちょっとちょうだい」

「……なんか嫌な予感がするなぁ」


 よく考えたら幼いとはいえ、この子も妖精なら魔力を吸収するのだろう。

 しかし、妖精といえば吸い取りたいときに、魔力吸収すると思っていたんだけど、わざわざ断り入れるなんて何かあるのかな?


「大丈夫、変なことしはない。戦っている最中、味見したらおいしかったから、魔力欲しい」

「味見って……」

「戦いの邪魔になるから無理やりは取っていない。すごく拡散させていたから、零れていた分もらっていた。魔力の無駄遣い」


 無駄遣いと言えば無駄遣いになるのかな……。

 確かに、半端に魔力が余っても仕方がないから、意図して魔力を空にすることはしていたけど。


「戦っているところ見ていたけど、魔力に余裕ありそうだから、ちょっとだけ分けて欲しい」


 見られていたのか。

 まぁ、確かに倒したかどうかの確認は必要だろうし、最後まで見届けるか。


「まぁ、魔力ぐらいなら。でも、妖精って勝手に魔力搾取(さくしゅ)するんじゃないの? わざわざ断り入れてまでもらうものなの?」

「わたしの場合は調整が難しい。それでも勝手に吸い取って良いなら取る。骨の(ずい)まで吸い取る」


 矢継ぎ早にそう言うと、目と鼻の先までその子は歩み寄ってくる。


「あー、わかったわかった。分けてあげるから詰め寄らないで」

「ん」


 妖精の少女が手を伸ばす。


「でも魔力を渡すってどうすればいいの?」

「魔法を使うときみたいに手に魔力を集めてくれればいい。あとはわたしが勝手に吸い取る」


 いろいろと疑問はあるけど、その手を取り魔力を流してやる。

 妖精に魔力を渡すとか初めてなんだけど大丈夫かな。


「んぅ」


 少女が少し身じろぐ。


「……?」


 なんか震えている?

 どうしたんだろ。


「大丈夫?」


 魔力の流れを少し緩めると――。


「あ……もう少し欲しい……」


 大丈夫なのかな?

 再び魔力を流す。


「ん……はぁ……」


 そのまま数分すぎる。

 ちょっとと言いながら結構流しているけど……。


「もういい?」

「あ……」


 なんでそんなに名残惜しそうにするかね。


「あなたの魔力、()んでておいしい」

「味とかあるの?」


 魔力の供給を終え、握っているその手を離す。


「うん、大概の人は鮮度が悪い」

「鮮度って……」

「その点、あなたの魔力は新鮮」


 魔力に新鮮も古いもあるのか。

 いやまぁ、確かに、頻繁に回復しているからだろうけど。


「気に入った。また、もらいに行っていい?」

「えー……」


 またもらうってどういうことだよ。

 一般的に妖精は遭遇率が低いことで有名であるが、次への約束をする妖精がいるなんて聞いたことないよ。


「あ、もちろんタダとは言わない。わたしの力が必要な時はお手伝いできる」

「う~ん、手伝いと言っても……あぁ、それなら、必要なときに魔玉もらうことできる?」

「それぐらいなら平気、でも魔玉作るときは相当な魔力が必要」

「まぁ、魔力については問題ないかな」

「?」


 よくわかっていない顔しているけど。ま、説明はまた今度かな。


「さて、そろそろ行かないと」

「ん。(おさ)には討伐完了って伝えとく」

「ああ、ありがとう」

「またね」


 そう言うと、その少女――妖精は姿を消した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あー、疲れた。もう動きたくない」


 妖精と別れてからしばらく歩き、アリシアの元へ辿り着く。

 そばに柔らかそうな草むらを見つけそのまま倒れこむ。


「シャロ!」

「あー、もう、うっさい」


 ゴロン、と仰向けに寝返りながら、手をアリシアに伸ばし無言で治癒を施す。


「あ……治癒魔法?」


 怪我をしていないように見えるけど、念のため。

 今さら死なれても困る。

 死ぬなら最初から死んでいてくれれば、こんな大変な思いしなくて済んだのに。


「……シャロって優しいのか厳しいのかわかんないよね」

「うっさい」

「あはは……。それより、ドラゴンは? もしかして、倒したの……?」

「アリシアがのんびり寝ている間にね」

「う……ごめん」

「はぁ、この借りは高く付くよ」

「も、もちろん。命の恩人なんだから、私の出来ることなら何でもするよ」

「その言葉、覚えておいてよ」


 アリシアの言葉に、不機嫌だった気持ちが少しは晴れる。

 さて、いつまでもこうしているわけにはいかない。

 億劫(おっくう)になりながらも、我慢して何とか立ち上がる。


「とりあえずその大岩どうにかしようか」

「……え?」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「痛い痛い痛い!! 痛いって! もっと優しくしてよーっ!!」

「うっさい。足手まといになった罰」


 のしかかっている岩は大きく、当然どかせられるような物でもない。

 とすれば、どうするかというと。


「振動が! 響く! ガンガン響く!!」


 砕くしか無いわけで、砕くにもそんな便利な魔法があるわけでもなく、原始的に叩いて割るのである。


「うっさい。死なない限りは治して上げるから、そこは安心して」


 先程倒したドラゴンの牙が早速役に立っている。

 岩をも砕くドラゴンの牙、のしかかっている岩に打ち付けているのである。

 素手ではさすがに力不足のため、もちろん魔法で。


「うぅ~……ドエス! 恨んでやる!」

「あーもう、うっさい。少し静かにしてて」

「ぐすん……」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 打ち付けること数百回、真ん中で真っ二つに割れた大岩がそこにあった。


「あー……足が痺れた」

「はい」


 手を伸ばす。


「あ……」


 驚き、微笑むアリシア。

 手を掴み、引き起こしてやる。

 起こしながらついでに回復。


「傷はもう大丈夫だよね」

「うん。おかげさまで。ありがとう」

「ん」

「あーあ、今回まったく役に立たなかったなぁ。迷惑しかかけていない」


 身体をほぐしながらそんなことを漏らす。


「そう思っているなら、挽回(ばんかい)の機会を設けてあげる」

「……え?」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぎぎぎぎぎ……」

「頑張れ。応援だけはしてあげる」

「べ、別に文句はないけどさ。足手まといになったわけだし、何もできなかったから。荷物持ちぐらい、いいけどさ」

殊勝(しゅしょう)な心がけだね。まったくそのとおり」


 ドラゴンの素材は相当貴重。

 できれば全部持って帰りたいけど、二人だけでは限界があるわけで、基本的に牙や爪など、武器や防具に使えそうなものを優先的に剥いできた。

 その素材を二人で分担して持って帰っているわけである。


「う……それはそうとして、ちょっとは手伝ってくれても……」

「私も持てるだけは持っている」


 収納からドラゴンの牙を出して見せる。


「く……収納持ちはずるい」

「収納も制約多いよ。収納中は魔力量を犠牲にするし、魔力量の少ない私なんてなおさら。お陰さまで今はその辺のか弱い女の子と一緒なもんだし」

「え? 誰がか弱い? 魔力少ない? ドラゴンの討伐を一人でやってのけたのに?」

「何か言った?」


 ナイフを片手で振り回す。


「いや、なんでも……」

「バカなこと言っていないで早く運ぶ、日が暮れるよ」

「あいあいさー……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ