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68 <妖精とドラゴンと>

 石亀と緋鳥の素材を確保し、昼頃から探索を再開したがなかなか見つからず、もうすぐ日が沈むかと思われた頃。


「この森に何か用か?」


 っ……!

 周囲を警戒しながら進んでいたつもりであったがいつの間に……。


「……妖精」


 目の前の木から、見下ろすような形で私たちを凝視している。

 短剣を取り出し、いつでも飛び出せるよう身構える。

 アリシアも同じように剣を抜く。

 周りに視線だけを向けると複数の気配を感じた。

 他の魔物と違い妖精は知識があり会話も可能である。

 いきなり襲ってこないところを見ると、何か目的が?


 冷や汗を頬が伝う。

 妖精は魔力生命体なだけあって、魔力の扱いがうまい。

 魔力の扱いがうまいということは、それだけ魔法にも通じているわけで、今のこの囲まれている状況は相当ヤバい。

 一触即発の空気が流れる。


「まて、お主らの目当てはこれだろう?」


 極度の緊張感の中、そう言った妖精の手には、手の平に収まる程度の小さな球体があった。


「あ! 魔玉!」


 魔玉の質は大きさと密度によって変わる。

 大きさは見た目そのものであるが、密度は透明度で判断する。

 透明度と言っても単純に透明であれば品質が良いと言うわけではなく、濃厚な魔力が込められているかどうかである。

 詳しくは専門の人でなければわからないが……。

 妖精の持っている魔玉は、遠目に見るだけでも品質の良さがうかがえる。


「欲しければ無理矢理にでも奪ってみろ……と言いたいところだが――」


 短剣を持つ手に力が入る。


「迷い込んできたのか、この近くに魔物が住み着いてな。そいつを始末してくれたら、くれてやってもいいぞ」

「え!? ほんと!?」


 アリシアが食い付く。


「もちろん、生きて帰って来られたらの話だがな」


 不気味に笑う妖精。

 周りの妖精たちが口を出さないと言うことはこいつが親玉?


「やるやる! そんで、何を倒せばいいの?」


 何も考えずに返事をして……。


「アリシア、大丈夫なの?」

「大丈夫! シャロがいれば問題なし!」

「…………」

「……こんな所で仲間割れをするな」


 魔力を練った私に気がついたのか、目の前の妖精は呆れた声をだした。


「案内にはコイツを付ける」


 その妖精の影からひょっこりと出て来たのは、他の妖精に比べ二回りほど小さい妖精だった。

 妖精の子供……?

 妖精に大人と子供の区別があるか分からないけど、その表情はあどけなさを残し、少し幼く見える。


「…………」

「頼んだぞ」


 無言でうなずいたその子は一歩踏み出すと、空を滑るように私たちの前に降り立った。


「こっち」


 表情が掴めないまま森の奥へと踏み出す。

 付いてこいってことかな。


「その子が示す魔物を始末出来れば、目当てのものをくれてやろう」


 後ろからそう声をかけられる。

 振り向いて見たがそこには既に誰もいなかった。


「シャロ〜、置いていかれるよ」


 はぁ。小さくため息をつき、あとを追いかける。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その子は歩いているのか飛んでいるのか分からないが、道の悪さなどものともせず、先へと進んでいく。


「それで? いったいどんな魔物が住み着いたの?」

「…………」


 後ろから声をかけるが返事はない。

 はぁ。聞こえないように小さくため息をつく。


「いったいどんな魔物なんだろうねぇ。でも大丈夫でしょう!」


 こっちはこっちで楽観的になっているし。帰りたくなって来た。

 しばらく歩き、少し開けた場所に出る。


「……ここ」

「ここ……って、何も無いけど」


 周囲を見渡す。


「倒せたら望み通り、魔玉をあげる」

「え?」


 その子の方を見ると……いなくなっていた。

 直後――地響き。


「おっと」

「シャロ! なんかやばいの来るよ!」


 地震? いや、これは……岩が動いている!?


「ギャオオオオッッ!!」

「アリシア! 飛んで!」

「あわわわっ」


 轟音と共に、もといた位置に腕が振り下ろされる。


「ちっ、なんてものを相手にさせるのよ」


 ここにはいない誰かさんに愚痴(ぐち)る。

 小さい岩山だと思っていたそれは礫磐竜(アースロックドラゴン)と呼ばれる魔物であった。

 討伐ランクは確かSだったはず。

 普段は岩のように寝ているが、近くを通る程度では起きず、刺激しない限りは温厚な魔物である。

 それが、なぜ暴れまわっているのか。

 虫の居所が悪かったのか、もしくは素材目当てで戦いを挑んだ者がいたが、倒しきれなかったか。

 いずれにせよ、話し合いで解決できる相手ではないということだ。


「シャロやばいよ」

「それでもやるしかないんでしょ」


 中規模軍隊で挑む魔物に二人では荷が重い。


「……うん!」


 でも、やるしかない!


「いくよ、炎弾っ!」


 炎弾が顔面に直撃すると同時にアリシアが切りかかる。


「ギャオオオオオッッ!!」


 炎弾は直撃したがダメージらしいダメージは無い。

 ほとんど無傷って嫌になるね。

 アリシアの剣も堅い皮膚に拒まれて同じくノーダメージ。


「ぐぬぬぬ……」


 一旦引くか?

 私たち二人だけでは荷が重い。

 ドラゴン一匹討伐するよりも、妖精相手の方がまだ勝算はあるか?

 ドラゴンの攻撃をかわしながらそんな損得勘定を考える。

 当たらないことに痺れを切らしたか、闇雲に石礫(いしつぶて)を飛ばす攻撃に変えてきた。

 石礫と言っても、一個当たりが身長の倍ほどもあるから、岩礫と言った方が正しいか。

 転移と跳躍を併用しながらかわし続ける。

 尾の一撃で近くの岩盤は破壊され、矢のように降り注ぐ。


 ちっ。

 咄嗟に転移でかわす。

 アリシアは――このくらい大丈夫だろう。

 そう思い、振り返った目に映ってきたのは――、


「あいたたた……」

「っ……水球! 炎弾!」


 それぞれ魔力を限界まで練り込み、大量の水の中に高温の火の玉をぶち込む。

 爆発的に蒸発した水蒸気は白煙となり視界をふさいでいく。

 敵味方ともに姿が見えなくなったことを確認し、アリシアの元へと駆け寄る。


「アリシア!」

「あ、シャロ……ごめん。しくじっちゃった」


 魔力を練り、治癒魔法をかける。

 大きな怪我は無い。無いが……。


「治癒はいいよ。この状態じゃもう、動けないかな」


 両足が、身の丈の倍はあろうかという大岩に挟まっている。

 力を入れて押してみたがびくともしない。


「ちっ。どうしようか……」

「シャロ」


 呼ばれ、アリシアの方へ振り向く。


「逃げて」

「……っ」

「私はもう動けないし、あいつは一人じゃ倒せないよ。足手まといにならないように、迷惑をかけないように、って頑張ってきたけど、無理だった」


 少しずつ白煙が薄れてきている。


「シャロ、ごめんね。今まで、ありがとう。私のことはもう、いいから」


 ドラゴンの咆哮(ほうこう)が聞こえる。

 闇雲に腕を振り下ろすたび地面が揺れる。

 あれは……一人で倒すには荷が重い。

 最悪、死ぬこともあり得る。

 普通に考えれば逃げることが最善策だろう。

 アリシアはパーティーメンバーでも、なんでもない。

 一人見捨てたところでペナルティがあるわけでもない。

 誰もが自分の身が一番なのだから。


 だけど、このモヤモヤはなんだろう。

 今まで一人で生きてきた。

 誰にも干渉せず、誰とも合間見えず。

 見捨てる? また、一人?

 一緒に過ごしたここ数日間のことを思い出す。

 邪魔だった、ウザかった、時には迷惑だった。

 現に今も、足手まといで迷惑がかかっている。


 でも……楽しかった。

 この数日間、時間を忘れるぐらい、日々が充実していた。

 この楽しい日々が無くなる?

 無くなって――たまるか。


「私は、後悔、したくない」

「――え?」


 そんなこと、出来るわけがない。

 私は……。

 白煙がさらに薄くなり、ドラゴンの影が現れる。

 無言でそちらへ歩いていく。


「シャロ!」


 後ろでアリシアが何か叫んでいる。

 それでも、今は――、


「こっちだよ!」


 ドラゴンの顔面に向け炎弾を放つ。

 再びの咆哮。

 巻き添えを避けるため、戦場を移動させていく。

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