65 命を狙われる少女
「お金渡しておこうか」
「大丈夫ですわ。次のお店でご馳走してくださいまし」
「……わかった」
やっぱ、慣れないわ……。
「はいよ! お待ち! お友達の分もオマケしといたからね!」
「あら、ありがとうございます。はい、コトミさん」
「……ありがとう」
「それではおじ様、ごきげんよう」
「おう! またな!」
クレープを受け取りその場を離れる。
「そこに開けた場所があるから、そこで食べようか」
口調が元に戻るリンちゃん。
いや、いいんだけどね。
コロコロ口調変えて疲れないのかなぁ。
「ところでお嬢様的に買い食いはダメなんじゃないの?」
「大丈夫だよ。お嬢様といっても対外的なものだし」
いやいやいや、対外的なお嬢様って何よ?
お嬢様はお嬢様なんじゃないの?
「それより早速食べよう!」
公園というには広くない空間にベンチが複数並んでいる。
「露店が多いからね。こういう場所が何箇所かあるんだ」
そう言いながらベンチに座る。
横目でリンちゃんが食べ始めるのを見て、私も口をつける。
「……おいし」
山盛りのクリームは甘過ぎず、くどすぎない口当たりの良さにクリーム本来の風味が際立っている。
「ここのクレープはおいしいんだよね。こっちへ来る度に食べてる」
また一口、口に運ぶ。
所々に散りばめられているベリーの酸味がアクセントとなり食べていて飽きない。
「初めて食べるならシンプルなこのクレープだね。このお店のクリームが一番美味しく味わえる」
確かに。他のフルーツは入っていないけど、これはこれでおいしい。
「……今までは一人で食べていたんだ」
クレープを頬張りながらリンちゃんが話しかけてくる。
「パパとママは忙しいし、お供の人は一緒に食べてくれないし」
そう語るリンちゃんの横顔はどこか寂しげで――、
「でもね、今は違うよ。コトミがいてくれる。初めての友達と一緒に食べることができたの。――ありがとう」
眩しいほどの満面の笑みをこちらに向けてくる。
「……べつに。私で良ければいつでも付き合うよ」
その笑顔に視線を向けることができなくてそっぽを向く。
「ふふふ、コトミは照れ屋さんだね」
「そんなことはない。リンちゃんの方こそ、よくそんな恥ずかしいセリフを言えるね」
頬が熱くなっているのを感じる。
照れ隠しの意味も兼ねてクレープにかじりつく。
……私もリンちゃんが初めての友達で良かったよ。
「ん? 何か言った?」
「べつに、なにも」
「ふふふ」
「なに? いきなり気持ち悪い」
最後の一口になったクレープを口に入れる。
「コトミは素直じゃないからね~」
「うっさい」
包み紙を手で丸めて、少し離れているゴミ箱に投げる。
軽い包み紙はさほど距離が伸びず途中で失速する。
が、地面に落ちる瞬間、風が吹き、包み紙はゴミ箱へ吸い込まれるように入っていく。
「そんなことで魔法を使うのって、贅沢な使い方だね」
「いいの。普通は気づかれないし」
他の人から見たら本当に偶然に入ったように見えるだろうし。
リンちゃんも横で同じように振りかぶる。
山なりに投げられた包み紙は魔法の補助も何も必要とせずゴミ箱に入る。
「よくこの距離で入れられるね」
「ふふん、コントロールだけはいいんだよ」
お尻を叩きながら立ち上がる。
「さっ、次行くよ」
そう言って歩き出すリンちゃんに付いていく。
この広場にまばらに人はいたが、表通りと違い肩が触れあうほど人が密集しているわけではない。
それなのに、一人の男がわざわざ近くを通りすぎようとした。
不審に思いつつもその横を通り過ぎる。
すれ違う瞬間、私の首元にナイフを突き出し――。
「風槌っ!」
一瞬で男の頭上に転移し、真下に向けて風槌を打ち付ける。
「ぐはぁっっ!!」
男は大の字に地面へと打ち付けられる。
「コトミ!」
華麗に着地し、リンちゃんを引き連れて距離を取る。
「リンちゃん大丈夫?」
視線を周囲に巡らせながらリンちゃんへ問いかける。
「うん、ワタシは大丈夫。でも、いったい何が……」
リンちゃんの方からいつもの銃に装填した音が聞こえる。
「……なんか狙われてるっぽい」
まばらにいた人たちがゆっくりとこっちへ向かってくる。
五人、いや十人ぐらいか。
子供二人に危害を加えるにしては多すぎじゃないか?
心当たりが無いわけじゃないけど、今はこの場をどうにかするのが先決か。
「リンちゃん、こっち」
リンちゃんの手を取り近くの路地に逃げ込む。
「路地の道とかわかる?」
「いや~さすがにわからないかな」
走りながらそんなやり取りをする。
後ろを見ると複数の男たちが追いかけてきている。
このぐらいの人数、一人ならなんてことはないけど、リンちゃんもいるしなぁ。
とりあえず安全なところまでは逃げるか。
そのまま路地の道に沿って逃げ続ける。
道が入り組んでいるお陰で、追い付かれることは無いが……。
「はぁ、はぁ、はぁ」
リンちゃんの体力が持たないか。
私は魔力による補助でなんとか持っているが、どうしたものか。
そんなことを考えながらもうひとつの角を曲がる。
「……っ」
行き止まりか。
でもちょうどいい。
後ろを壁に囲まれているってことは、逆に私が突破されない限り、リンちゃんに危害は加えられないってこと。
「久しぶりに本気を出すか」
「はぁ、はぁ、はぁ、コトミ……」
「リンちゃん、大丈夫だから、ちょっと待っていてね」
後ろを振り向くと男たちが広がっていて逃げられないようにしている。
……逃げるつもりは無いけどね。
獰猛な目付きは子供とはいえ、この世界の住人たちに恐怖を与える。
一歩進むと男たちは一歩後ずさる。
目の前の男たちとは死線の乗り越えた数が違う。
子供だと思って甘く見ないことだよ。
「黒髪の奴に用はない! 殺せ!」
狙いはリンちゃんか?
私の可能性もあったんだけど。
まぁ、終わったあとに聞けばいいか。
一人の男が不馴れな感じでナイフを振り上げながら駆け寄ってくる。
こんなのんびりとした速度じゃわざわざ転移する必要なんて無いよ。
振り下ろされた腕を手の平で軌道を反らし、バランスを崩させる。
「うぉっ……」
「風槌」
男の懐に手の平を添え風槌を放つ。
遠慮はいらない。
男は肺の中の空気を押し出され、悲鳴をあげることもなく吹き飛ぶ。
数人の男たちを巻き込みながら数メートル転がっていく。
「なっ……! くそっ! 複数人でかかれ! 油断するんじゃない!」
つぎは三人同時に切りかかってくる。
「転移――からの、風槌!」
横から三人まとめて吹き飛ばす。
壁に打ち付けられた三人は折り重なるように倒れ伏す。
「――っ、障壁」
乾いた発砲音のあと、障壁に数発の銃弾があたる。
「バカ野郎! 奥のターゲットに当たったらどうすんだ!!」
「し、しかしこのままじゃ……」
やっぱり狙いはリンちゃんか。
「アイツだ! アイツを呼んでこい! こんな時しか役に立たねぇんだから、アイツにやらせろ!!」
そう叫ぶと一人の男が背を向け走り出す。
炎だん――っと、さすがに表立って魔法を使うわけにはいかないか。
っと、思ったところ背後から発砲音が聞こえ、逃げ出そうとした男の足元を捉える。
「ぐげぇっ!」
おぉ、リンちゃんナイスアシスト。
足を貫かれた男は顔面より倒れ混む。
あの男は放っておいて、残りは……五人。
とりあえず吹っ飛ばそう。




