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64 ヘイミムの街を散策

「ん~~~っ」


 身体を起こし、大きく伸びをする。


「今日もよく寝たなぁ……って、既視感(デジャブ)?」


 隣を見るとリンちゃんがいない。

 視線をあげるとまた端っこに丸まって眠るリンちゃんの姿が……。


「…………」


 なんだろうか。

 うーん、考えても仕方がない。とりあえず起こそうか。


「あ……おはよぅ」


 近くに寄り布団をめくる。


「おはよう。……リンちゃんって昔からそういう寝方をしているの?」

「そんなわけないでしょ……」


 前回と同じく、目の下にクマを作り、むくりと起き上がる。


「大丈夫。慣れる、そのうち慣れるから」


 ブツブツとなにやらつぶやいている。


「顔、洗ってくるね……」


 足元が多少おぼつかないが、そのまま部屋を出ていった。

 ……私も起きるか。


 リンちゃんと同じように朝の身支度をし、朝食の場に着く。


「今日はコトミと街に出掛けてくるね」


 パンを頬張っている最中、リンちゃんがレンツさんへと伝える。


「あぁ、リンもコトミ嬢も気を付けてな。あまり遅くならないように」

「は~い」


 朝食を食べたあとに街へ繰り出すための準備をする。

 準備といっても大したことではないけどね。

 私の服装はいつものように白のブラウスに黒いスカート。

 いざというときの黒いコートは収納へ入れる。

 護衛用にと、昨日もらった短剣とナイフも収納へとしまう。


「コトミ~早く行くよ」

「ちょっと待って」


 リンちゃんもいつものようにワンピースを着ている。

 小走りでリンちゃんの隣に並ぶ。


「それじゃー、しゅっぱーつ」


 街までは歩いても行ける距離だから徒歩で向かう。

 喋りながら歩いていけばすぐだろうしね。


「ふんふふーん」

「リンちゃんご機嫌だね」

「そりゃね。お小遣いももらったし、いっぱい遊ぼう!」

「私ももらっちゃったけど、良かったのかな」

「いいのいいの。子供に対してのお小遣いなんて、大人からしたら大した金額じゃないし」

「いや、小金貨一枚って大人から見ても十分多いからね」


 ランチが銀貨一枚程度だから十回分はある。何に使えと……。そんなに物欲もないし。


「とりあえずクレープを食べに行くよ!」

「あぁ、ちょっと待って」


 駆け出すリンちゃんを小走りに追いかける。


 リンちゃん家は住宅街の奥まったところに建っている。

 家を出て道沿いに進んでいくと、見るからにお金のかかっていそうな住宅がちらほらと見えてきた。


「こっち側に住んでいる人たちは裕福な人が多いよね。色々な人がいるけど、みんないい人だったよ」


 リンちゃん曰く地域のコミュニティが形成されているということで月に一回、持ち回りでパーティーを開催するらしい。

 ちなみに次のパーティー主催者はリンちゃん家だそうな。

 え? 私も強制参加? 嫌だよ。そんな堅苦しいパーティーなんて。

 決定事項だからね、ってそんな睨まないでよ……。

 あぁ、もう、そんな悲しそうな目をしないでよ。

 わかった。わかったから。

 ……はぁ、私は押しに弱いのかな。

 そんなやり取りをしながら歩いていくと大きな橋に差し掛かる。


「この川が境目になっているの。こっち側が高級住宅街、それ以外は向こうにあるの。いつからそうなっていたかはわかんないけどね」


 リンちゃんの説明を聞きつつ、橋を渡りながら川の流れを眺める。

 そんなに流れの早くない川が壁の向こう側まで続いている。

 のんびりとした空気が流れ、そのまま橋を渡りきる。

 さらに数分歩いたところで、先ほどの静かさとはうって変わって街本来の喧騒(けんそう)さが伝わってきた。


 「うわぁ……」


 人、人、人、そこら中が人で埋め尽くされている。

 車の中から覗いていたときよりも明らかに人が多い。


「週末だからね。昨日よりかは人が多いかも」


 いきなりゲンナリしてきた。

 リンちゃんは平気なの?

 遊びに来ているんだからそんなの気にならないですか。そうですか。


「ほら、コトミ、こっち」


 リンちゃんに手を引かれ人混みの中に入る。


「うぅ……」


 人に酔いそう。


「はぐれないようにしっかり手を繋いでいてね」


 子供じゃあるまいし、と思ったけど、自分よりはるかに身長の高い大人たちに埋め尽くされているのじゃ、いつ迷子になるかわからない。

 言われた通り、握っている手に力をこめる。


「……ふふっ」

「どうしたの。気持ち悪い」


 微笑ましいものを見る目でこっちを見るんじゃない。

 私は凛々(りり)しい人物像を目指しているんだ。

 小動物みたいで無理? ぐぬぬぬ……。

 そうやって一人悶々(もんもん)としている中、少し人の流れが緩やかになった。


「……ふぅ、人が多いね」


 リンちゃんの隣に並び、はぐれないようにする。


「そうね。でも週末だとこんなものだよ。賑やかでしょ」

「……賑やかすぎる」


 もう少しゆっくり見て回りたいけど仕方がない。


「あ、クレープ屋さんが見えてきたよ」


 そのまま人の流れに身を任せながらしばらく進むと、甘い匂いとともに、見るからに甘ったるそうな外見をしたお店が見えてきた。


「うわぁ……」


 車の中からは気がつかなかったけど看板や店の装飾に、これでもかっていうぐらい生クリームがかかっている。

 当然作り物なんだろうけど、見ただけで胃もたれしそうになる。


「すごいでしょ。でも見た目だけじゃなく、味もすごいよ」


 数人並んでいるお客さんの後ろに並ぶ。って、いつまで手を繋いでいるの。

 もう人の流れから外れているので問題はない。


「あ、もう。はぐれないようにね」


 握った手を振りほどくとそんなことを言われる。

 私はリンちゃんの子供か何かか。


「コトミは何がいい?」


 クレープメニューを手に取り聞いてくる。


「任せる。お勧めで」

「はーい。っとちょうどだね」


 前のお客さんがいなくなりちょうど順番が回ってきた。


「おじ様こんにちは」


 ひくっ……。


「おぉ! ペリシェールさんとこのお嬢様じゃないかい! 久しぶりだね!」

「えぇ、お久しぶりです。今日はこちら二ついただけますか?」

「おう! ちょっと待ってな!」

「リンちゃん……」


 人差し指を口に当てしーっとするリンちゃん。

 いや、いつものことだからいいんだけどね。

 身代わりの早さに顔がひきつるのを感じながらそう思う。

 二人分まとめてお金を払い、でき上がるまでしばらく待つ。

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