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57 お休みの始まり

 その後も変わらない日常が流れ、ついにやってきた長期休みの初日。

「迎えに行くよ」と言われ自宅待機中。

 荷物は一週間分の着替えと手土産ぐらいがあればいいかな。洗濯もしてくれると言っていたし。


 あとは、収納か。収納もついでに整理する。

 不要なものを一旦外へ取り出し、ペティナイフを十本ほど収納へ。

 投げてよし、切ってよし、の軽めのペティナイフ。

 この世界では重宝しているけど、そのうちちゃんとした武器を用意した方がいいかな。

 今まで使う場面は無かったけど、リンちゃんの護衛となるとペティナイフでは心(もと)ないし。

 リンちゃんに相談してみようかな。


 あとは……財布とスマホも収納へ。

 あぁ、スマホは連絡がくるから出しておかないと。

 うっかり収納へ仕舞ったスマホを取り出す。

 収納へ仕舞うと電波はもちろん時間も進まないから次に取り出したときは時刻が大きくずれてくる。

 まぁ、電波さえ拾えば自動調整してくれるし、そんなに不便ではないんだけど。

 そんな事を考えていると着信音が鳴った。……リンちゃんだ。


「もしもし」

『コトミおはよ~。いまコトミのマンションの下で待っているから降りてきて~……プツッ』


 ……言うことだけ言って切れてしまった。

 ここにいつまでいても仕方がない、降りるか。


 ボストンバッグを抱えながら一階エントランスまで降りる。


「……ある程度想定していたけど、送迎用の車もすごいね」


 長い。

 普通乗用車の倍の長さがあるんじゃなかろうか。

 正直目立つ。通行人の方々の視線が痛い。


「コトミお嬢様おはようございます。中でリンお嬢様がお待ちです」

「あ、おはようございます。よろしくお願いします」


 執事さん風の方に(うなが)され車の中に入る。

 キャリーカートは執事さんにお任せ。


「コトミおはよう!」

「リンちゃんおはよう。今日からしばらくよろしくね」


 中にはテーブルがあり、ソファーが囲うように並んでいる。豪華だねぇ……。

 狭い天井だけど、私の身長であれば特に窮屈ではない。そのままリンちゃんの対面に腰を下ろす。


「空港まで一時間ぐらいだからのんびりくつろいでてよ」

「ありがとう。ご両親は?」

「ひとつ前の席にいるよ。気を利かせてくれたんだ」


 そうなのか。それは少し申し訳ないね。挨拶もまだなのに。


「気にしなくていいよ。ワタシに友達ができたことを一番喜んでいたし、パパとママは大人同士の話もあるしね」


 リンちゃんはそう言うと、テーブルにあるグラスへ飲み物を注いでいく。


「二人で話をしたいからメイドさんも遠慮したんだ。コトミと話をする時は気を使うよ」

「人を問題児みたいに言わないでくれる? 確かに秘密にしておきたいことは多いけどさ」


 ゆっくりと車が動き出す。

 走行音や揺れも小さく、居心地は快適だな。


「はい、どうぞ」

「ん。ありがと」


 リンちゃんから差し出されたグラスを受け取る。

 果実のジュースみたいだけど、相変わらず高いんだろうな……。おいしいし。


「向こうでの予定は決まっているの?」

「ん~、細かいのは決めていないけど、とりあえず目一杯遊ぶことかな。ショッピングしたいし、プールでも遊びたいし、狩りもしたいし、あとは、魔法を教えてほしい」

「……はい?」


 リンさんよ、今なんて言いましたかね。


「魔法よ、魔法。門外不出の技術というわけではないんでしょ?」

「それはそうだけど……使えるのかな。生まれてこのかた他に魔法を使っている人見たことはないし。魔力があれば、もしかしたら使えるかもしれないけど」


 そうなんだよね。この世界で私以外の魔法を見たことがない。

 私が魔法を使えるから他に使える人がいてもおかしくない気がしたけど。


「向こうに着いたら早速試してみようね。ところで、コトミが魔法を使えるようになったのはいつから?」


 うっ……。


「話を聞く限り昔から使っていたようだけど、どうやって使えるようになったの?」


 さすがに転生者ということは言えない。

 リンちゃんなら、もしかしたら大丈夫かもしれないけど、まだちょっと……。


「まぁ、言いたくないのならいいけどね」


 少し寂しそうにうつむくリンちゃん。


「リンちゃん…………」


 私は――。……って、リンちゃん口元笑っているよ!


「あはは、バレちゃったか。言いづらそうだったけど、もしかしたら話してくれるかな~と思って」

「……まだ秘密があるって思っているの?」

「え? あるでしょ? 気づいていないと思っていたの?」


 マジか。

 心にダメージを受け、ソファーに沈むよう倒れ込む。


「でもまぁ、無理に聞き出そうとしないから、話してくれる時まで待つよ」

「リンちゃん……」


 そんなに私のことを考えて――。


「当然話してくれる時はワタシが一番初めだよね? そうじゃなかったらどうなるか……」


 コクコクコクッ!

 無言で首を縦に振る。

 異様なプレッシャーを感じた私はうなずくことしかできなかった。

 見逃してくれたことを喜ぶべきか、逃げ道を塞がれたことを(なげ)くべきか。

 深く考えても仕方がない。

 秘密がバレる時になったらその時に考えよう。

 あわよくばそんなときが訪れないことを願おう。

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