55 <新たな依頼>
「おはようございますっ!!」
「お~姉ちゃん、朝から元気だな」
「えへへ~、今日もよろしく!」
「おう」
「あれ? あの子は?」
「ん? あぁ、シャロか? あいつはほとんど朝来ないぞ」
「え!? そうなの? 依頼とかどうしてるの?」
「大体は余り物か、ふらっと行って何かしら狩ってくる感じだな」
「えー、なんでそんな生活してるの?」
「知らん。あいつは人と関わるのを嫌がる。過去に何があったか知らんがな」
「そっかー……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「すぅ……すぅ……」
コンコンコン。
「すぅ……すぅ……」
コン! コン! コン!
「すぅ……す……」
ドン! ドン! ドン!
「…………」
ドンドンドンドン、ガチャ。
開けた扉の前には腕を振り上げたアリシア。
「……何してんの?」
射てつくさん限りの視線で睨み付ける。
「やっほ! 朝だよ! ギルド開いているよ?」
「…………」
「ん?」
アリシアが小さくしゃべった言葉を聞き逃さないと近づいてくる。
「朝からっ!! うっさーいっ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ひぇぇ、まだ耳がキーンってなるよ~」
「ふん! 朝の優雅な時間を邪魔した罰!」
「朝の優雅な時間って……寝てただけじゃん」
涙目になりながら抗議してくるアリシア。
「睡眠は何より大事、特に朝の至福な時間を邪魔するやつは神だろうが、女神だろうが、悪魔だろうが容赦はしない。地獄に堕ちればいい」
朝ご飯の準備をしながら床に座っているアリシアに文句を言う。
「えぇー……そんなに……」
「ふん、それより、この家なんでわかったの?」
もともと人付き合いもさほど無いため、この家を知っている人間は限られる。
「あー、それはギルドのお姉さんに……」
「それって言っちゃっダメなやつだよね?」
ギルドのお姉さんって……あいつか。
性悪女の顔が頭に浮かぶ。
女性のギルド職員は何人かいるけど、私と普通に会話する職員は一人しかいない。
……他の職員は私を怖がって近づかないためだ。
「あ! ごめん! 内緒にしといて!」
手の平を合わせながら頭を下げてくるアリシア。
「はぁ……もう、いいよ……はい」
「え?」
アリシアはまだ床に座らせられているから、テーブルの上が見えない。
「どうせ朝ご飯は食べているんでしょ、私はこれからだから、これでも飲んで待っていて」
「……いいの?」
「そこに座って見られている方が邪魔」
「あぅ……」
焦りながらも立ち上がり、私の目の前の椅子に座るアリシア。
「それでは……失礼して……って、なに? これ?」
コップの中を覗き込みながら疑問の声を出す。
「南国の飲み物」
「……黒いよ?」
「身体に害はない」
「…………」
「……飲まないの?」
うつむき加減にそう、つぶやく。
「飲む! 飲みます! 飲ませていただきます!」
ちょろ。
慌てて手に取ったコップを口に持っていき――、
「ぶはぁ!! にがっ!! 何これ!!」
「あー!! きったなっ!! なにしてくれてんのよ!!」
テーブルの上が大惨事になった。
「だって!! 苦い!! 苦いの!!」
「うっさい!! 苦い苦いって子供か!!」
ギャーギャーと、朝から阿鼻叫喚の地獄絵図。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
気を取り直して、朝ご飯を再開。
「はぁ……まったく」
ため息をつきながら堅パンをかじる。
「ごめんね~……でもシャロって良くあんな苦いの飲めるね」
「慣れればなんてことはない」
「えぇ~慣れるかなぁ」
ぐぅぅぅ~~~。
……私、ご飯中、ということは。
「……朝ご飯食べてないの?」
「あはは、朝早くギルド行っていたからね。あとで食べようと……」
「はぁ……」
席を立ち、食料棚へ。
麻袋に入っている堅パンを二つほど取り出し皿に乗せる。
「そういうことは先に言って」
アリシアの前に皿を差し出す。
「……いいの?」
「物欲しそうな目で見られている中では食べづらい」
「そ、そんな目で見ていないよ」
あわわって感じで両手をばたばたとする。
「……でも、ありがとう」
「ん」
二人して堅パンにかじっている中、疑問に思ったことを口にする。
「ところで、こんな朝早くから何しにきたの?」
「そんな言うほど朝早くないからね……」
ギロリっと効果音が聞こえそうなほどアリシアを睨みつける。
「ううん、何でもない……えと、一緒にこれ行こうと思って」
机の上に出される、一枚の紙切れ。
「依頼書?」
それはギルドの依頼書兼受付証であり、目的達成後には報奨と引き換えるための用紙である。
書いてある内容は『素材収集依頼――石亀の甲羅、緋鳥の羽、妖精の魔玉』
報奨金は――。
「これを達成すれば数ヶ月はゆっくりできるよね!」
まぁ、それぐらいの金額ではある。
「ほとんどはわたしでも対応できるんだけど、この『妖精の魔玉』ってやつ」
『妖精の魔玉』
魔力を貯めることの出来る妖精族が、自身の蓄積した魔力を結晶化させたもの。
魔力回復薬や魔道具の原料となるが市場への流通量が少なく、高価な素材として取引される。
そんな魔玉を入手するには二通りの方法がある。
交渉で譲り受けるか、無理やり奪うか、である。
妖精といっても魔物みたいな姿をしているわけでも、本能だけで行動しているわけでもない。
人間と同じような姿形を取っており、理性もあるからコミュニケーションも取れる。
ただ、基本的には森の奥深くに生息していることもあり、なかなか見かけることはできない。
「確かに、アリシアには難しそうだよね」
「でしょ! だからさ、少し手伝って欲しいんだけど……」
「やだ、めんどくさい」
食べかけの堅パンにかじりつきながら答える。
「そこをお願い! 分け前出すからさ!」
「無理。一人で頑張って」
食い下がられても無理なものは無理。
のんびり暮らしていたいのに、なんでそんな危険でめんどくさい依頼を受けるのか。
妖精は理性がある分、他の魔物と比べその時々で危険度が違う。
簡単な交渉ごとであれば運がいいが、時には無理難題を吹っ掛けられることもある。
また、力づくで何とかしようものなら妖精族全てが敵に回る。
「えー……むぅ、わかったよ。やっぱり前衛職の人には難しいかぁ」
ぴくっ。
「前衛じゃない。私は魔術師でれっきとした後衛」
「えー、でも無理って」
「無理ではない。めんどくさいだけ」
「えー、ほんとかな」
「疑ってるの?」
「だって、昨日も魔法より剣で戦っていたよ?」
「…………」
「……シャロ、目が怖いよ」
「はぁ、仕方がないなぁ」
「え、いいの!?」
何かはめられた気もするけど。
「た、だ、し! 他のは自分でやること!」
「はーい!」
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着替えて、朝の準備して、出発。
「あれ? どこ行くの?」
「ギルド、苦情入れてくる」
「え、なんの……って!? お姉さんの件!? ゴメン! あれは内緒にして! 私が喋ったって言ったら怒られる!!」
「うっさい! 抱きつくな! 邪魔! 離れろ!」
ギャーギャーと二人で騒ぐ。
今度は表通りで地獄絵図。




