50 休憩のお茶会
射撃場を出て一旦リンちゃんの部屋に戻る。
「ちょっと疲れたね。少し休憩しようか」
そう言って、メイドさんにお茶の用意をお願いするリンちゃん。
ご飯を食べてからさほど経ってはいないけど、私を気遣ってくれたのかな?
リンちゃん自身もあまり動いていないし、疲れた素振りは見せないけど。やっぱり優しいよね。
「ねぇねぇ、やっぱ、練習は多い方がいいよね。しばらくは週末泊まりに来て射撃の練習する?」
休憩としてまたミルクティーを飲みながら、リンちゃんからそんな提案をされる。
前言撤回……。
「……話が飛躍過ぎるんだけど、ダメだよ。ご両親に迷惑になっちゃう。それに――」
大人の友達同士なら問題ないんだけど、私たちはまだ子供だからね。
ご両親の意向には従わなきゃ。
確かに、家へ帰ってもいつも一人だから、外泊したところで問題はない。
と、そんなことを考えていたら、ふと昔を思い出した。
今ほど広い家じゃなかったけど、狭い部屋でのお泊まり会。
お泊まり会っていうよりかは居候か。
あいつ、人の家を私より自由に使っていたな。
鬱陶しかったけど、悪くは無かった……かな。
いや、やっぱりいなくていいや。頼ると癪だし。
この世界でもそう。私は人とは違うから。
あまり深入りするのも良くないよね。
「コトミ……」
物思いに耽っていたところ、リンちゃんも察したようで、申し訳なさそうにする。
リンちゃん……ごめんね。
「大丈夫だよっ。パパとママにはオッケーもらっているから!」
きゃぴーん、とポーズを決め、とんでもない発言をする。
違う、そうじゃない。
いや、違わないけど、そうじゃない。
ご両親のことだけではない。
私の都合も考えてくれ。
「どうせ休みの日も大した用事はないでしょ?」
「失礼な。こう見えて有意義な休日を過ごしているよ」
まったく、私を何だと思っているのだ。
「へ~、どんな休日? 一人で料理したり、一人で本を読んだり、一人で遊んでいたり、一人で魔法の練習をしたり?」
やたらと一人の部分を強調するな……。
そりゃ、実際に一人で生活しているから仕方がないんだけど、一人の生活も良いもんだよ?
他人に気を使わなくてもいいし、自分の好きなことを好きなときに好きなだけ出来るし。
一人、良いじゃないか。
「なんとなく考えていることわかるけど、コトミって人との関わり方が下手だよね」
「うっ……」
いや、得意な方ではないけど、それでも人並みの社交性はあると思うよ?
ほら、リンちゃんのご両親とも普通に会話したし。
「社交性はあるんだろうけど、友達との接し方とか距離感とかが掴めていないよね。一線を引いているというか、他人行儀というか」
「そりゃあ、親兄弟ならまだしも友達だからね。多少の距離感は必要でしょ」
「その距離感を自分のご両親にも当てはめていない?」
「それは……」
言われて思い返す。
この世界の私の両親。
記憶を持って生まれ変わったからか、産みの親なのに自分の親と思えず、心のどこかでは一線をひいていたのかもしれない。
赤ん坊の頃は自由に動けなかったから仕方がなく面倒をみてもらったけど、身体が自由に動くようになってからは、なるべく自分のことは自分でやるようにしてきた。
……なぜだろう。
迷惑かけたくなかったから?
子供とはいえ、中身はいい大人だから?
……信用、出来なかったから?
だから魔法のことも内緒で過ごしてきた。
もし自分の子供が魔法使いという常識では考えられない存在であったら?
科学が発展しているこの世界で魔法使いが存在していたらどうなる?
畏怖の目でみられ、どこぞやの研究機関に売り飛ばされるか。
もしかしたら何も変わらなかったかも知れない。
でも、万が一にでも、今の生活が崩れる可能性は排除しておきたい。
そう考えると何も知らない、知られないのが一番なんだろうな。
両親ともあまり仲良くなるとボロが出るかもしれない。
だから、いつも一人で過ごしてきた、のかな。
そう、物思いに耽っていると――、
「大丈夫、ワタシは裏切らないよ」
いつの間にか後ろに回って来ていたリンちゃんに抱き締められる。
「もう、ワタシにはバレちゃっているしね。それにコトミもワタシの秘密を知っているからね。おあいこだよ」
確かに、リンちゃんがこんな喋り方をすることとか、貴族とか、銃を持っていることとか知っているのはこの家の人たち以外では私だけだろう。
非科学的な魔法とは秘密の重みが違う気もするが……。
それでも、お互いの秘密を共有しているのは少し、安心なのかもしれない。
その後もお茶をしながらとりとめない話をする。
リンちゃん家に来てからお茶ばかり飲んでいるな……。
「コトミもやっぱり銃を持ったら? 収納に入れれば荷物にもならないし。万が一の時には役に立つと思うよ?」
「うーん……。そこまで言うならお借りしようかな。どんな場面で使うのか想像もできないけど」
持っていて損は無いけど、使う機会があるか?
まぁ、せっかくの好意だし、ありがたくいただこう。
銃の種類はさっき借りたのと同じモデルで、色は無難な物をお願いした。
ピンクはさすがに勘弁してもらった。
黒が良かったんだけど、せっかくなら白にしなさいってことで白になった。
……まぁ、いいんだけど。
弾も十分用意するって、何から何までありがとうね。
え? 先行投資だって? なんのだよ……まったく。




