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5 <魔力が減らない理由>

 私の魔力量は、もともと多くはなかった。

 魔法を行使するためには自分の魔力を消費変換する必要があるため、優秀な魔法使いは当然相応の魔力を持っていることが多い。

 魔力量と同じく、制御力や放出力も必要となるが、魔力が無ければそもそも魔法が使えないため、魔力量が少ないことは魔法使いにとっては致命的でもあった。

 魔力量も制御力や放出力と同じように鍛えることができる。

 限界まで魔力を使い切り、回復することでわずかではあるが、魔力量が伸びる。

 そう、伸びる、はずであった。


 私も魔力量を伸ばすため、何度も魔力を使い切った。

 その度に魔力切れを起こし卒倒する。

 何度も気を失ったが、それでも魔力量を伸ばそうと限界まで魔法を行使し続けた。


 結果的に、魔力量は増えなかった。

 魔力量は増えなかったが、倒れることには慣れた。


「慣れたくないよ! そんなこと!」


 八歳になったばかりの私、魔法使い見習いは叫ばずにはいられなかった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「限界まで魔力を枯渇させれば魔力量が伸びるはずじゃなかったの?」


 夕食のスープを一口含み、私は(なげ)いた。


「そのはずなんじゃがのう。お主はちと体質が違うようじゃ」


 対面で同じようにスープへ口をつけながら師匠が答える。

 育ての親でもあり、魔法の先生でもある師匠は名の知れた魔法使いだった……らしい。

 あくまで本人談であるため、本当のところはわからないけど、見た目の貫禄(かんろく)はある、と思う。

 そんな師匠に(ほどこ)しを受けながら、魔法使いになるため日々修行に明け暮れている。


「体質という問題で片づけないでよ~」


 スープの中をかき回しながらそんなことを(なげ)く。

 嘆いても仕方ないのは理解できるが、嘆かないとやっていられない。

 この世界――テスヴァリルでは普通に魔物が居て、相応するように魔力があり、魔法使いがいる。

 魔法使いは一種の職業のようなものであるが、魔法使い以外にも当然魔法を使う人はいる。

 魔法使いが剣や槍を使うように、剣士が魔法を使うこともある。


 専門としているものが何かで職業が変わり、パーティーを組むときの目印程度である。

 どんな職業を名乗ろうが罰せられることは無いが、あまりにもいい加減だと(うと)まれることになるので、ある程度は正確に進言する必要はある。

 ……私はいつか魔法使いと名乗れるのだろうか。

 師匠は手元の酒を一口飲み、言葉を続ける。


「しかし、倒れるのに慣れる、というのもすごいのう。どう慣れたんじゃ?」

「う~ん、何と言うのかな。昔は強烈な睡魔に襲われて意識を持っていかれる感じなんだけど、最近は強烈な立ち(くら)みで意識を失う感じかな」


 顔を上げながら答える。涙目になる。


「それは、まぁ、何と言うか……よくわからんのぅ」

「結果的に倒れることは一緒なんだけどね。説明難しい」


 これは感覚だけど、倒れたときの意識の保ち方に差があるように思える。

 浅い眠りか、深い眠りかの違いで、ほとんど変わらないのだけど。


「手っ取り早く魔力を伸ばす方法はないかなぁ」


 スープを平らげながらそんなことを言う。


「そんな方法あればみんなやっとるわい」


 だよねー。地道にやるしかないかな。

 そんなことを思い、夜が更けていく。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 一年ほど経ったある日。


「最近、倒れづらくなっている」


 この一年間ずっと倒れ続けてきたにも関わらず、相変わらず魔力量は伸びない。


「ちょっと前も同じようなこと言っていなかったかの?」

「一年はちょっとじゃないよ。ってそんなことよりも――」


 一年前は確か、強烈な立ち(くら)みで意識を失っていたけど、最近は意識を失うことが少なくなっている。

 副次的な作用か、魔力枯渇で気を失いかけた時、踏みとどまると魔力が回復している。

 これは新たな発見では無いか?

 まぁ、さすがに何年もぶっ倒れ続ける魔法使いはいないだろうから当たり前か。

 普通はその間に魔力量も相応に増えるはずであるし、自分の限界も理解するであろうから。

 毎回倒れたり、気を失ったりする変わり者もいないだろうしね……。


「私が異常なだけか……」

「そういうのも含めて個性と言うのだろう。ふぉ、ふぉ、ふぉ」


 いい加減な師匠だな……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さらに一年後。


「ついに、眩暈(めまい)どころか、魔力切れをしたことにも気づかないほどになってしまった……」


 相変わらず魔力量は増えなかったけど、魔法を使っても倒れることが無くなった。

 魔力量の上限はあるから、使える魔法に制限はある。

 制限はあるが、魔力切れになるたび、瞬時に全快まで回復するため、下位の魔法は制限無しに行使できるということである。


「魔力量気にせず魔法を使うって、聞いたこと無いんじゃがな」

「私も聞いたこと無いよ。魔力量の測定じゃ表に出ないしね。いたとしても気づかない」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さらに一年後。

 十一歳となった。


「うーん……」


 目の前には私の身長より少し小さいサイズの水球。

 魔力限界まで注ぎ込んだ目の前の水球は、一般的な水球のサイズよりやや大きい程度。

 しかし、他の魔法使いが全魔力を費やした場合、この数十倍の大きさの水球を作れるのが一般的である。

 ほぼ全魔力を注いだこのサイズが、私の魔力量の少なさを物語っている。


「はぁ……」


 ため息をひとつ付き、残った魔力を全て注いで前方へ水球を飛ばす。

 飛んでいった水球はしばらくすると制御が崩れ飛散、大きな水溜まりを残す。


「魔力量が全然伸びないなぁ」


 自分の魔力量を測るため水球を作る。

 通常、限界まで魔力を使った場合、回復させない限り再度魔法を使うことは出来ない。

 そのため、頻繁に魔力量を測定することはしないのだが、私の場合は既に()()()()()()

 普通は魔力を使い切ると卒倒する。卒倒している間に魔力が回復すると言われている。

 一般的にはそう言われているが、私の場合は卒倒し過ぎたのか、卒倒せず魔力回復の恩恵(おんけい)だけ受ける。


「むぅ、魔力量を伸ばすことは諦めるか」


 何回、何十回、何百回と繰り返した。

 その度に倒れ、悔しい思いをしながら目を覚ます。

 そんなことを繰り返した。

 魔力量を伸ばすために魔法を使い続ける。

 もちろん、合わせて制御力や放出力も伸ばすために色々な魔法を限界まで使い続けた。

 放出力も現在は頭打ちである。

 魔力量が限られるわけであるから当然ではある。


「制御力だけは少しずつ上がっている。これだけが救いか……」


 その後も魔法を使い続け、制御力だけは徐々に上がり続けた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ついに十二歳となった。

 十二歳からはギルドで冒険者に登録ができる。

 これで私も自分の生活費は自分で稼ぐことができる。

 いつまでも師匠に養ってもらうわけにはいかないしね。


「いらっしゃ~い。おや、可愛いお客さんだね」


 爽快(そうかい)な喋りで出迎えたのはギルドの受付嬢。

 ウサギ耳があるところを見ると獣人なんだろう。


「ん……冒険者に登録したい」

「おぉ、小さいのにやる気だね。一応聞くけど十二歳かな?」


 見た目が小さいから仕方ないけど、れっきとした十二歳。

 ため息をこらえ、小さくうなずく。


「そんじゃぁ、失礼して……『鑑定』」


 受付嬢が透明な水晶をかざし、水晶越しに私を覗き込む。

 ギルドに備え付けられている鑑定の効果を有する水晶玉。

 これにより魔力を持たないものでも鑑定が可能となる。

 ギルドの水晶でわかるのはせいぜい年齢程度だけど。


「おぉ、本当に十二歳だ。っと失礼、ついつい」


 あはは、と言いながら誤魔化す受付嬢。

 身長が低いのと童顔なこともあって、よく実年齢より低くみられることもある。……もう慣れた。

 慣れたけど、不愉快なのは変わりない。

 苛立ちが顔に出ていたのか、受付嬢は焦りながら登録用紙を差し出してくる。


「それでは登録用紙に記入をお願いしますっ」


 はぁ、今度は我慢せずにため息をつく。

 備え付けの羽ペンを手に取り、各項目を埋めていく。

 名前、年齢を記入、種族や職業は該当する箇所に丸を付けるだけ。

 文字も師匠に教わった。

 あの師匠には色々と教わることも多く頭が上がらない。

 ……これでよし、項目も少ないから早々に書き上げ受付嬢へと渡す。


「名前は……、シャロット、十二歳、人族、職業は魔法使い、だね。オッケー、登録するのでちょっと待っていてね」


 そう言い残し奥に引っ込んでいく。


 手持ち無沙汰になった私は壁際にある木製の椅子へ腰を下ろす。

 昼を過ぎたあたりのため、ギルド内にはほとんど人がいない。

 併設している食事(どころ)にも人はまばらであった。

 まぁ、人の少ない時間帯を選んできたからだけどね。

 変に注目浴びたくないし、絡まれることも避けたい。

 壁に張り出されている魔物の出没状況などに目を通していく。

 少しの時間そうやって過ごしていると――、


「シャロットさーん、ギルドカードが出来たよー」


 あまり人の名前を大声で呼ばないでよ……。

 半眼になりながら、受付に近づいていく。


「はい、これがギルドカードね。カードと言っても金属プレートなんだけどね」


 渡されたプレートを手に取る。

 大きさは手の平に収まるぐらい。

 そこには数字のメンバー番号と名前、ギルドランクの記載があった。


「ギルドランクはFからスタートだね。ランクが上がれば色々な特典がつくよ」


 今日の目的は終了。

 ギルドカードを首にかけ服の内側へ入れる。

 あまり長居するつもりもないからそのまま(きびす)を返し、ギルドから出ていく。


「あ、ちょっと、初心者の心がけについての説明がまだなんだけど……!」


 後ろで何か叫んでいるが気にしない。

 大体のことは師匠から聞いていることもあり、こんなところで時間を無駄にしない。


 ギルドから外に出て空を見上げる。


「一歩前進、かな」


 雲ひとつない青空の下でそう、一人つぶやく。

 誰の耳にも届かなかったその一言は、空に吸い込まれるように消えていく。

 一抹(いちまつ)の不安を抱えながらも歩みを止めず進み続ける。

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