49 射撃練習
そのまま元来た部屋へ戻り、射撃場の扉を開けて中に入る。
コンクリートの壁面に覆われているためか、少しひんやりとする。
入った部屋の奥には人型を模した的が六枚並んでいた。
「的の大きさは距離によって変えているの。奥から五十メートル、三十メートル、十メートル相当の的、二枚ずつだね」
なるほど、的の大きさを変えることで距離相当の的にしているのか。
でも肉眼で照準つけるならまだしも、スコープ使うと実際の距離と違うからピント合わないかも。
「中距離以上なら屋外で練習した方がいいね。立入禁止とかの準備が大変だけど、やっぱり実際の距離でやるのとは違うから。ただ騒音には要注意。下手したら通報されるから」
あはは、と笑うリンちゃん。そりゃ、そうでしょう……。
目の前の台には銃弾が入っているらしき箱、ゴーグルとイヤーマフが並べられている。
「ものは試しと言うし、とりあえずやってみようか」
保管されている銃器類は銃弾を抜いた状態のため、弾倉に自分で弾を詰める。
一応、装填している弾倉もあるのだけど、今回は練習も兼ねて、ってことらしい。
練習といっても、日常的に弾込めするつもりはないからなぁ……。
「弾倉に銃弾を詰めていくんだけど、最後の方は力がいるから、指を挟んで潰さないでね」
「さらっと怖いことを言うね」
「まぁ、コトミの場合は魔法ですぐ治すんだろうから関係ないけど」
「怪我は治るけど当然痛いからね? あえて怪我するようなことはしないよ」
空の弾倉を手に取り一発ずつ弾を詰めていく。
リンちゃんの言っていたとおり少々固い。
魔法は使わなくても出来るぐらいの力だけど、既に手が痛くなってきた。
「弾倉を銃に装填するときは安全装置がかかっていることを確認。引き金は撃つとき意外指をかけないこと。当然、銃口を人に向けたりしないでね」
リンちゃんが後ろに回って手を添えてくる。
って、近い近い近いっ……!
「右手でグリップを握って、左手は底を添えるように押さえて。腕は伸ばした状態から少し曲げて……、そうそう、照準はこれね。この間に狙う的を入れて」
息がっ……こそばゆいって!
逃れようとしたけど、がっちりホールドされてしまっているから抜け出せない。
リンちゃんってこんなに力あるの!?
「初めてだし、最初は当たらなくても仕方ないよ。狙いの付け方とか慣れだね」
そう言ってやっと解放される。
はぁ、はぁ、はぁ、いきなり疲れたぞ?
汗……臭わないよね?
「撃つ体勢はオッケーだね。それじゃあ実際に撃ってみようか。目の保護用にゴーグルと、耳を痛めるからこれをつけてね」
リンちゃんの手にはゴーグルと、耳当てと言うには少々ゴツいイヤーマフが握られている。
それを受け取ろうと、手を伸ばすが――、
「ワタシがつけて上げる」
言われるがまま、正面から頭の後ろに手を回され、ゴーグルを付けられる。
自然と近づくような形となったため、リンちゃんの顔が目の前と迫ってくる。
「ちょ……」
ついつい視線を逸らす。
ゴーグルを装着したあとは、頭に挟み込むようにイヤーマフも付けられる。
ゴーグルが何気に重い。
防弾仕様だからとか。
「聞こえづらいかも知れないけど大丈夫かな?」
また近いって!
大きな声で言ってくれればいいのに、わざわざ近づくなんて……ん?
「……リンちゃん、わざとやっている?」
「なんのことかな~ふふふ」
わざとだな!
「もう、あんまりからかわないでよ」
「ごめんごめん。コトミの反応が面白くてついつい」
ケラケラと笑いながらあっけらかんと言う。
「いい性格しているね」
ため息を少しつき、皮肉を込めていい放つ。
「でしょ? よく言われるんだ」
「嫌みだよ……? しかもよく言われるってどういうことよ」
今度は盛大にため息をつく。
「まぁまぁ、気を取り直してやってみようか」
射撃台の前に立ち構える。
「シリンダーを下げて、薬室に銃弾を装填、狙いをつけたら、そのまま親指で安全装置を解除」
カチャっという音とともに、銃弾が装填される。
言われた通りにしながら狙いを定め、安全装置を外す。
「発砲した時の反動は無理に押さえ込まなくてもいいからね。多少は腕の曲がりを利用してね。手前に引く方が手首を痛めなくていいよ」
魔法による補助をかけた方がいいかな?
……いや、やめておこう。
いくら魔法による補助があったとしても、腕で全部の衝撃を受けるとかあまりやりたくはない。
メイン武器にするわけじゃないし、いざというときに使えればいいかな。
とりあえず慣らしとしてそのままやってみよう。
「それじゃ~張り切っていってみましょ~」
リンちゃんも自分のイヤーマフを着けて耳を塞ぐ。
サイトを通し、的を見る。
サイト越しだと狙うところがいまいちよくわからないんだけど……。
「最初はわからなくても仕方がないよ。慣れだね」
顔を右に寄せたり、左に寄せたりしたけど……むぅ。
なんとなくの感覚で狙いを定め、引き金に指を添える。
そう言えば、以前本で読んだけど、引き金を引くときは息を吐き出し、呼吸を止めてから撃つんだっけ。
吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー……。
そのまま息を止め、引き金を絞る。
じわじわと絞って……絞って……。
――パンッと乾いた音が響く。
「ん~、当たっている……? スゴいじゃん! 初めてなのに良く当てたね。ビックリどころか若干ひくわ」
いつの間にか双眼鏡を片手に的を見ている。
私は……見てもわかんないな。
「ヒドイ言われようだけど……教え方が良かったからじゃない?」
一応、お世話になるから誉めておく。
「誉めても何も出ないよ、えへへ」
そういう割には嬉しそうだね。
「撃ってみた感じ、腕とかどうかな」
反動は我慢できないほどじゃなかった、かな。
ただ、連発となると、腕が耐えきれなくなる気がする。
怪我じゃないから治癒魔法も効かないだろうし。
これは、練習あるのみだけど、やっぱり銃は向かないかなぁ。
「よし、この調子で次いってみよう!」
その後も数発試し撃ちしてみる。
弾倉の弾を撃ち尽くす頃には両手が悲鳴を上げていた。
「……もう無理」
「えー、まだ一つめだよ?」
弾の詰まった弾倉を積み上げ見せてくる。
「慣れていないってのもあるけど、腕が痺れて握力が入らない」
「魔法でなんとかならない?」
「ならない。というより魔法を使ってまで強行したくないよ」
「そっかー……。残念だけど、今日はここまでかな」
そう言いながら後片づけを始める。
私も手伝おうとしたんだけど、腕がプルプルして重たいものが運べない。
リンちゃんいつもこんなの撃っているの?
見かけによらずタフなんだね……。
この細い腕のどこにそんな力があるのだろうか。
「よし、あとはアノンに片付けをお願いしておくから行こうか」
持ってきた銃だけを手に持ち、部屋をあとにする。
私は握力が入らないので手ぶら。
魔法による筋力強化で持ち運ぶことは出来るけど、そこまでして頑張りたくない。
というわけで、リンちゃんに全てお任せ。
それにしてもいい経験にはなったかな。
なかなか楽しかったし、心ときめくものがあった。
リンちゃんの言う通り、護身用に持っておくのもいいかもしれない。
あとで相談してみようか。




