表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/300

48 初めてのお友達

 リンちゃんに案内され屋敷の離れにある建物へ入る。

 表向きの絢爛(けんらん)な屋敷と違い、この建物はコンクリート剥き出しの無骨な造りとなっていた。

 正面の入り口を開けると受付のようなものがあり、中では男性が待機しているようだった。


「よっ、お嬢様。今日も練習かい?」


 中の男性が声をかけてくる。


「ロベルト、こんにちは。今日はね、お友達を連れてきたから案内しているんだ。ちょっとだけ試し撃ちしてもいい?」

「お嬢様に友達……!?」

「なんでワタシが友達を連れてきたらみんな驚くのよ!」


 リンちゃん、おこである。


「いや、だって、なぁ……。一般人とは住む世界が違うだろ? そんな溝があるのに、屋敷に呼べる友達がいるとは、ねぇ」


 必死に弁明する、いかつい顔したロベルトと呼ばれた人。


「あぁ、そういうこと。そのことなら大丈夫! この子もある意味こっち側の人間だし」


 ちょっと待て。

 なにをさらっと不穏なことを言っているの。


「それなら、いいんだが……それはそれで大丈夫か?」


 ロベルトさんが私を疑心暗鬼の目で見てくる。


「その点は大丈夫よ。裏切られないよう、この子の秘密を握っているし」


 ちょっ……秘密って……魔法のことかな。

 まぁ、秘密と言えば秘密なんだけど、別にバレたところで問題はない、はず。

 いや、バレたときの影響がどう出るかわからないから、バレないに越したことはないかな。

 もしかしたら魔女狩りになるかもしれない。

 しかもこの世は情報社会、プライバシーなんてあったもんじゃないし。

 世界中のどこに逃げたとしてもバレるような気がする。こわっ……。

 なるべくバレないようにしよう。


「それは……御愁傷様だな」


 なんでこっちを哀れみの目で見てくるの?

 なんか怖いんだけど……。


「なんでワタシを悪者みたいにしてくれちゃってるわけ?」


 じとーっとした目でこちらを睨み付けるリンちゃん。

 怖いんだけど……。


「まぁ、なんだ? 同じ穴の(むじな)ってわけじゃないが、お友達もよろしくな」


 乾いた笑いと共に気さくに笑うロベルトさん。

 悪い人じゃなさそうだねぇ。


「あはは……こちらこそよろしくお願いします」

「はぁ、まったく。ほら、コトミも行くよ」


 そのまま中の扉を開け、さっさと奥へと入っていく。

 そのあとを追うようにリンちゃんに付いていく。

 ちょっとした通路を進むと窓のある横長の部屋に到着した。


「この奥が射撃場だね。壁は防音仕様、窓は防弾ガラスになっているからここからの見学も可能だよ。それで、こっちが銃火器の保管庫。私のプライベートスペースは奥にあるの」


 窓と反対側の壁には扉が複数並んでいる。


「銃弾は一括して管理されているから……あ、いたいた。アノン、今日もいい?」

「あ、お嬢様こんにちは。いつもので……って、そちらの方は?」


 アノンと呼ばれた女性と目が合う。


「あ、お友達のコトミだよ」

「コトミです。よろしくお願いします」

「…………」

「……?」

「お……お嬢様に、お、お、おおおおお友達っ!?」


 お前もかっ!

 リンちゃんがお友達連れてくることはそんなに珍しいのか……。


「ちょっと! どういう意味よ!」


 リンちゃん激おこである。

 会う人みんなに同じことを言われちゃねぇ。


「あ、いえ、その……他意はなくてですね、ちょっと珍しかったから? かな、っと」


 しどろもどろになりながら弁明するアノンさん。

 最後疑問系だったけど大丈夫か。


「みんなワタシのことを何だと思っているのよ」

「ぼっち?」

「コトミシャラップ! それを言ったらコトミもボッチでしょ!」

「どうどうどう」


 がるるるる、と(うな)るリンちゃんをなだめる。


「ま、まぁまぁ、それより、今日も練習にいらしたんですか?」


 引きつっている笑顔でそう問いかけられる。


「むー、そうよ。と・も・だ・ち、も一緒に、だよ」


 友達と言うところをやたらと強調しているな……。


「なんか言った?」

「いえ、何も」


 地獄耳かよ。


「そういうわけで、弾薬庫開けてね」

「承知しました。今日も三八弾でいいですか?」


 そう言うアノンさんは鍵を取り出し、丁寧に答えてくれる。


「そうだね。手始めに三八弾からかな。ワタシもこの子の調整したいし」


 太もものホルスター(いつものところ)からピンク色の銃を取り出す。


「かしこまりました。準備いたします」


 銃の名前やら専門用語でよくわかんない。

 でもリンちゃん楽しそうだね。

 やっぱり銃好きなんだ。

 ちょっとピンク色の銃は理解できないけど……。


「コトミは銃撃ったことある?」

「さすがにないよ……」


 普通に生きていて銃が必要になる場面があるか?

 仮にあったとしても私には魔法があるから使わないな。


「まぁ、コトミには魔法があるだろうしね。でもカモフラージュにはいいんじゃない?」


 アノンさんが近くにいるからか、耳元で(ささや)いてくるリンちゃん。

 くすぐったいよっ。

 身動ぎして離れようとしたところ袖を捕まれる。


「用意してくれている間に、こっちも準備しよ」


 そのまま奥の方の部屋に連れていかれる。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ここは……?」


 鍵を開けて入った部屋は先ほどの保管庫と違い、人が生活できるような空間となっていた。

 机にソファー、本棚が並んでおり、壁には大小様々な銃火器が飾られている。


「ふふん、ワタシのプライベートルーム、だよ」


 そう言いながら壁にかけてある銃火器類へ手を伸ばす。


「初めてはこの銃がいいかな」


 そのまま私の方へと差し出してくる。

 受け取った銃はリンちゃんが持っているピンク色の銃と似ている。


「ワタシが愛用している銃と同じモデルだね。コンパクトタイプの分類になるんだけど、ワタシ達の手にはちょうどいいサイズなんだよ」


 重さはペットボトル飲料より大分軽い。銃弾が入っていないからかな。


「もう少し小さいのもあるけど、これ以上小さいモデルは威力が小さいから実践には厳しいかな」

「実践は想定しなくてもいいんだけど……」


 また何を相手に戦うのだろうか……。


「クマ相手に戦う場合はもう少し大きいサイズがいいんだけどね。これは三八口径あるからイノシシ程度なら大丈夫」


 と思ったらまたクマ相手か! 懲りないな……。


「でもクマ相手だとやっぱりライフル弾がいいね。威力が違う」


 クマ狩りでも行くつもりなのかな……。

 そうそうクマに出会うことも無いだろうに。


「とりあえずこれで試し撃ちしてみようか」

「これはリンちゃんの銃じゃないの? 借りていいのかな?」


 手の中にその重みを感じながらそう告げる。

 ひっくり返してみたり、グリップ部を握ってみたり、さすがに銃口を覗き込むようなバカな真似はしない。


「いいんだよ。たまには使ってあげなきゃ。それに、コトミだったら大切な銃を託してもいいかな、って思って」

「……意味深なのと、ちょっと重いんだけど……」

「深く考えちゃダメ、だよ」


 にっこりと微笑みながら、そのまま部屋を出ていく。

 大丈夫かな……。

 変な汗が出てきたけど、仕方なしに付いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ