48 初めてのお友達
リンちゃんに案内され屋敷の離れにある建物へ入る。
表向きの絢爛な屋敷と違い、この建物はコンクリート剥き出しの無骨な造りとなっていた。
正面の入り口を開けると受付のようなものがあり、中では男性が待機しているようだった。
「よっ、お嬢様。今日も練習かい?」
中の男性が声をかけてくる。
「ロベルト、こんにちは。今日はね、お友達を連れてきたから案内しているんだ。ちょっとだけ試し撃ちしてもいい?」
「お嬢様に友達……!?」
「なんでワタシが友達を連れてきたらみんな驚くのよ!」
リンちゃん、おこである。
「いや、だって、なぁ……。一般人とは住む世界が違うだろ? そんな溝があるのに、屋敷に呼べる友達がいるとは、ねぇ」
必死に弁明する、いかつい顔したロベルトと呼ばれた人。
「あぁ、そういうこと。そのことなら大丈夫! この子もある意味こっち側の人間だし」
ちょっと待て。
なにをさらっと不穏なことを言っているの。
「それなら、いいんだが……それはそれで大丈夫か?」
ロベルトさんが私を疑心暗鬼の目で見てくる。
「その点は大丈夫よ。裏切られないよう、この子の秘密を握っているし」
ちょっ……秘密って……魔法のことかな。
まぁ、秘密と言えば秘密なんだけど、別にバレたところで問題はない、はず。
いや、バレたときの影響がどう出るかわからないから、バレないに越したことはないかな。
もしかしたら魔女狩りになるかもしれない。
しかもこの世は情報社会、プライバシーなんてあったもんじゃないし。
世界中のどこに逃げたとしてもバレるような気がする。こわっ……。
なるべくバレないようにしよう。
「それは……御愁傷様だな」
なんでこっちを哀れみの目で見てくるの?
なんか怖いんだけど……。
「なんでワタシを悪者みたいにしてくれちゃってるわけ?」
じとーっとした目でこちらを睨み付けるリンちゃん。
怖いんだけど……。
「まぁ、なんだ? 同じ穴の狢ってわけじゃないが、お友達もよろしくな」
乾いた笑いと共に気さくに笑うロベルトさん。
悪い人じゃなさそうだねぇ。
「あはは……こちらこそよろしくお願いします」
「はぁ、まったく。ほら、コトミも行くよ」
そのまま中の扉を開け、さっさと奥へと入っていく。
そのあとを追うようにリンちゃんに付いていく。
ちょっとした通路を進むと窓のある横長の部屋に到着した。
「この奥が射撃場だね。壁は防音仕様、窓は防弾ガラスになっているからここからの見学も可能だよ。それで、こっちが銃火器の保管庫。私のプライベートスペースは奥にあるの」
窓と反対側の壁には扉が複数並んでいる。
「銃弾は一括して管理されているから……あ、いたいた。アノン、今日もいい?」
「あ、お嬢様こんにちは。いつもので……って、そちらの方は?」
アノンと呼ばれた女性と目が合う。
「あ、お友達のコトミだよ」
「コトミです。よろしくお願いします」
「…………」
「……?」
「お……お嬢様に、お、お、おおおおお友達っ!?」
お前もかっ!
リンちゃんがお友達連れてくることはそんなに珍しいのか……。
「ちょっと! どういう意味よ!」
リンちゃん激おこである。
会う人みんなに同じことを言われちゃねぇ。
「あ、いえ、その……他意はなくてですね、ちょっと珍しかったから? かな、っと」
しどろもどろになりながら弁明するアノンさん。
最後疑問系だったけど大丈夫か。
「みんなワタシのことを何だと思っているのよ」
「ぼっち?」
「コトミシャラップ! それを言ったらコトミもボッチでしょ!」
「どうどうどう」
がるるるる、と唸るリンちゃんをなだめる。
「ま、まぁまぁ、それより、今日も練習にいらしたんですか?」
引きつっている笑顔でそう問いかけられる。
「むー、そうよ。と・も・だ・ち、も一緒に、だよ」
友達と言うところをやたらと強調しているな……。
「なんか言った?」
「いえ、何も」
地獄耳かよ。
「そういうわけで、弾薬庫開けてね」
「承知しました。今日も三八弾でいいですか?」
そう言うアノンさんは鍵を取り出し、丁寧に答えてくれる。
「そうだね。手始めに三八弾からかな。ワタシもこの子の調整したいし」
太もものホルスターからピンク色の銃を取り出す。
「かしこまりました。準備いたします」
銃の名前やら専門用語でよくわかんない。
でもリンちゃん楽しそうだね。
やっぱり銃好きなんだ。
ちょっとピンク色の銃は理解できないけど……。
「コトミは銃撃ったことある?」
「さすがにないよ……」
普通に生きていて銃が必要になる場面があるか?
仮にあったとしても私には魔法があるから使わないな。
「まぁ、コトミには魔法があるだろうしね。でもカモフラージュにはいいんじゃない?」
アノンさんが近くにいるからか、耳元で囁いてくるリンちゃん。
くすぐったいよっ。
身動ぎして離れようとしたところ袖を捕まれる。
「用意してくれている間に、こっちも準備しよ」
そのまま奥の方の部屋に連れていかれる。
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「ここは……?」
鍵を開けて入った部屋は先ほどの保管庫と違い、人が生活できるような空間となっていた。
机にソファー、本棚が並んでおり、壁には大小様々な銃火器が飾られている。
「ふふん、ワタシのプライベートルーム、だよ」
そう言いながら壁にかけてある銃火器類へ手を伸ばす。
「初めてはこの銃がいいかな」
そのまま私の方へと差し出してくる。
受け取った銃はリンちゃんが持っているピンク色の銃と似ている。
「ワタシが愛用している銃と同じモデルだね。コンパクトタイプの分類になるんだけど、ワタシ達の手にはちょうどいいサイズなんだよ」
重さはペットボトル飲料より大分軽い。銃弾が入っていないからかな。
「もう少し小さいのもあるけど、これ以上小さいモデルは威力が小さいから実践には厳しいかな」
「実践は想定しなくてもいいんだけど……」
また何を相手に戦うのだろうか……。
「クマ相手に戦う場合はもう少し大きいサイズがいいんだけどね。これは三八口径あるからイノシシ程度なら大丈夫」
と思ったらまたクマ相手か! 懲りないな……。
「でもクマ相手だとやっぱりライフル弾がいいね。威力が違う」
クマ狩りでも行くつもりなのかな……。
そうそうクマに出会うことも無いだろうに。
「とりあえずこれで試し撃ちしてみようか」
「これはリンちゃんの銃じゃないの? 借りていいのかな?」
手の中にその重みを感じながらそう告げる。
ひっくり返してみたり、グリップ部を握ってみたり、さすがに銃口を覗き込むようなバカな真似はしない。
「いいんだよ。たまには使ってあげなきゃ。それに、コトミだったら大切な銃を託してもいいかな、って思って」
「……意味深なのと、ちょっと重いんだけど……」
「深く考えちゃダメ、だよ」
にっこりと微笑みながら、そのまま部屋を出ていく。
大丈夫かな……。
変な汗が出てきたけど、仕方なしに付いていく。




