46 友人とのお茶会
「はぁ、変わり者とは思っていたけど、ここまでとは思っていなかったわよ」
「人はそれを個性と言う」
「言わないわよ」
ピシャリ、と言いきられる。
「どおりでこの前遭難したときも、そんなに心配していないって言ったのね。納得したと言うかなんと言うか、ご両親は魔法のことを知ってるの?」
「ううん、知らないよ。至って普通の娘を演じている」
「どこが普通よ! 十一歳で一人暮らし、家事全般こなして学校では文武両道、才色兼備、さらに魔法少女と言う非現実的な存在のどこが普通なのよ」
文武両道は良いとしても才色兼備は言い過ぎだろう。
私以上に可愛い子はいっぱいいるよ?
黒髪黒眼は目立つからそう思われるのも仕方がないんだけどさ。
「私からしたらリンちゃんの方がよっぽど才色兼備と言う言葉が似合うけど」
「ワタシの話はいいのよ。今はコトミのことでしょ」
なんで尋問されるような形になっているのか。
あ、そうだ。
「ちなみになんだけど、私は魔法少女じゃなくて魔術師なの。可愛いんじゃなくてカッコいいを目指しているの」
「無理でしょ。そのちんちくりんの姿じゃ」
「ちんっ……!?」
ななな……! いやいや、まだ身長は低いよ?
低いけどまだ十一歳、まだまだ成長の伸び代はあると思っているよ?
身長以外もまだまだ成長すると思っている。
いまはまったくと言っていいほど成長していないけど……ぐぐぐっ……。
私が一人で悶絶していると、リンちゃんが呆れたように声を出す。
「はぁ、でも、ま、なんとなくコトミのことがわかったからいいわよ。で? 今までそういう話を学校でしなかったの?」
「え……? そういうのって?」
「一人暮らしとか魔法の話。ワタシが転校してからそんなに日が経っていないのにバレてるし。他にも知っている人がいるんじゃないの?」
察しが悪いわねぇ、と言いながらリンちゃんがカップに口をつける。
「いや~、いない、かな? そんなに親密な話をする友達はいなかったし。確かに、今までも魔法で乗りきってきたことはあるけど、あまり気にしている人はいなかったし」
「はぁ、コトミだから仕方がないけどさ、気を付けなさいよ」
私だから仕方がないってなんだよー。そのうち泣くぞ?
「それで、どういう時に魔法を使ったの?」
「あー、えーと、ね……」
ぶつかりそうな車を土魔法で回避したり。
遊具で大怪我した少女を治癒魔法で助けたり。
自分の力を試すために、学校裏手にある森で魔法の練習をしたり。などなど。
「はぁ、それでよく今までバレなかったわね」
「意外と何とかなるもんだよ」
人は自分の常識から外れていることが目の前で起きると、目を背けてしまう。
考えること自体を放棄してしまうから、意外とバレないものだ。
「万が一バレても手品の練習! って言いきればいいから」
「完璧な手品師は魔法使いと何ら変わらない……か。まさかそれを逆手にとるような日が来るとは思わなかったわよ」
クッキーをポリポリ。
こめかみ辺りをぐりぐりとしながら盛大にため息をつかれる。
「リンちゃんってため息多いね。幸せが逃げるよ」
「どこの国の言い伝えよ。それに誰のせいだと思っているのよ」
私が悪いのか。理不尽だ。
そりゃ魔法のこととか急に言われても困るだろうけどさ。
それでも意を決して打ち明けたんだよ。
意外と勇気いるもんだよ。
自分の秘密を話すのは。
でも、リンちゃんに話せて良かったかな。
リンちゃんに出会わなければ恐らく秘密のままでいたかもね。
少しスッキリした……のかな。
やっぱり秘密を抱えたままと言うのは辛いね。
特に心を許している人に対しては。
裏切り、とまでとは言わないけど、やっぱりね。
「ありがとう」
え……?
ふと、前を見るとそっぽを向いているリンちゃんがいた。
「話してくれた、ってことは、信用してくれた、ってことでしょ? もし、私が悪い奴だったら、コトミを解剖して魔法の秘密を探っていたかもしれないし」
「さらっと怖いこと言うね。でも、確かにその可能性もあったのかもね。リンちゃんだから、だよ。話したのは」
「そだね。クマと遭遇したときも、ワタシを見捨てず助けてくれた。見捨てていれば、今までと同じように、誰にも秘密がバレずに、過ごせていたはずなのに」
「……でも、もし一人で助かったとしても、そこにリンちゃんはいない」
「…………」
「私は自分の好きなように生きようと決めているんだ。自分が嫌だと思ったことはやらない。助けたいと思ったらどんなことをしてでも助ける。それが例え、自分の首を絞めることになったとしても、ね」
胸に手を置き、自分の気持ちを確かめるかのように言葉を続ける。
「……コトミ」
「それに、もし、秘密がバレて居づらくなったとしたら逃げる。世界は広いからどこにでも行けるからね。当然、情報世界だから簡単に見つかるかもしれないけど、その時はその時かな」
「ぷっ……。どこに行くつもりよ。世界は広いと言っても、人の生活圏なんてたかが知れているからすぐ見つかるわよ。でも、まぁ、その時になったら匿って上げる」
真剣な顔をしていたリンちゃんが一転、顔を綻ばせながらそんなことを言ってくる。
「え? ……いいの?」
「うん、ワタシにならそれぐらいはできる。なんたってお金持ちだからね」
ウインクしながら微笑むリンちゃんは頼もしく見えた。
「それに、コトミの友達第一号だからね、それぐらいはお安いご用よ」
ちょっと待て。他にも友達はいるよ? クラスの子たちとか。
って、それはクラスメイトですか、そうですか。




