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43 その後の日常

「リンちゃん、おはよー」


 数日経ったある日、いつもどおりの朝。


「コトミ、おはよ!」


 いつの間にか毎朝一緒に登校するようになってしまったリンちゃんと合流する。

 まぁ、悪い子じゃないし、同年代の中でも話しやすいから自然と一緒にいることが多くなってきた。

 リンちゃんは先日の件があっても変わらない。

 ちなみに、その時のことをいろいろ聞こうとしたけど、はぐらかされてちゃんと聞けていない。

 まぁ、本人が話したくないのであれば仕方がないけど、不安ではある。

 いつかは話してくれると信じて待つしかないか……。

 私の秘密を知っているということもあるし、できれば話してほしいけど。


 そういえばりんちゃんは私が魔法を使えると知っても変わらなかった、かな。

 そういうこともあって、友達になったんだろうな。

 いまさらながら感謝の気持ちしかない。

 言葉で表すにはちょっと恥ずかしいけど、楽しい毎日を送れているのはリンちゃんのおかげということもある。


「朝からコトミが気持ち悪い……」

「いきなりひどいね!? さすがの私でも泣くよ?」


 一歩引いたリンちゃんが冗談めかして話しかけてくる。

 相変わらず人の心を読むのは勘弁してほしい。

 リンちゃん(いわ)く、私は表情で何を考えているかが分かるらしい。

 なるべくポーカーフェイスを心がけているんだけど、ことごとく破られている。

 いつかはリンちゃんに一矢(いっし)報いたいなぁ、とも思う。


「ん?」


 前を見ているリンちゃんが疑問の声を上げる。

 私も釣られるように、視線を向けると――、


「フェリサちゃん?」

「あ、お姉様方。おはようございます」


 そこには先日、誘拐事件に巻き込まれたフェリサちゃんが立っていた。

 確か、検査のために入院したって聞いたけど。


「もう、身体はいいの?」


 誘拐事件のことはニュースでもやっていたぐらい広く知られている。

 さすがに子供の名前をメディアでは公開しなかったけど、フェリサちゃんが被害者だということはマリセラさんから聞いた。

 救出したその日の夜、私とリンちゃんに電話がかかってきたからね。


『フェリサを助けてくれてありがとう』


 って、いきなりカマをかけられたけど、なんで私と断定するかな……。

 リンちゃんの方にも同じような電話があったらしい。

 リンちゃんはそういう誤魔化しうまそうだけど、私はどうだったかな……。

 とりあえず「何のことですか?」って知らない振りしといたけど、どこまで通用したことやら。


「お姉様方。この前は助けていただき、ありがとうございます。お陰様で無事に帰ることができました」


 そう言いながら深々とお辞儀をするフェリサちゃん。

 えぇー……。あれだけ否定したのに……。


「フェリサさん、誘拐された混乱から、救出したのはワタクシたちだと思っているようですけど、違いますからね。マリセラさんも勘違いされているようでしたので、訂正したのですけど」

「はい、存じております。それでもお礼を言わせてください。一度ならず、二度までも。この命を助けていただいたこと、感謝してもしきれません」


 フェリサちゃんも人の話を聞かないタイプか……。

 いや、これは聞いているけど、自分に都合の良いことしか受け入れない、っていうタイプかな。

 どちらにしろ一緒だけど……。

 リンちゃんもダメだこりゃ、って顔しているな。


「まぁ、何はともあれ無事で良かったよ。とりあえず学校に向かおうか」


 ここで喋っていても仕方がないし、話題を変える意味も含めて歩き出す。


 その後は他愛もない話をしながらしばらく進む。


「……リンちゃん」

「えぇ、尾行(つけ)られていますわね」


 スーツ姿の男が一定の距離を保って付いてきている。

 大人が子供の歩く速度に合わせている時点で不自然だ。

 先日のこともあるし、きっとフェリサちゃん狙いだろう。

 それにしても、下手くそな尾行だな。バレバレ過ぎる。

 さて、どうしたものか。

 私が一緒にいる間は問題ない。

 でも、フェリサちゃんが一人になったとき、たとえばこの前のようなことが起きたとき、どうするべきか。

 ……今のうちに潰しておくか。


「コトミ、悪い顔しているよ」


 ボソッと、私にだけ聞こえるようにつぶやいてくる。

 うっさいわ。


「あっ、あの人は先日の一件を受けて、私に付いた護衛の方です。お姉様方の時間を邪魔されたくないので、少し離れてもらっています」


 あぁ……なるほど、ってそれにしても目立ち過ぎだろう。

 いや、護衛の存在をあえてチラつかせての抑止効果狙いか?

 ただ、あの不審さは……あっ。


「フェリサさん、あの護衛の方、公安に職務質問されていそうですけど、いいのでしょうか」

「「…………」」


 遠目から見てもしどろもどろ焦っているように見える。

 そりゃ、誘拐事件が起きたばかりだしね。

 警戒が厳しく、公安が巡回しているのも当然だろう。

 フェリサちゃんは……あ、知らない振りをして歩き始めた。


「お姉様方がいれば問題ないでしょう。学校に遅れてしまいますので行きましょう」

「しれっと私達を護衛扱いしないでね?」


 まったく、この子もマリセラさんと同じで、悪びれもなく私たちを利用しようとするね。

 まぁ、それは私たちも同じか。

 特にリンちゃんがマリセラさんとの繋がりを持とうとしていたから、きっと何かあるのだろう。

 頭のいいリンちゃんのことだから無駄なことはしないだろうし。

 ちらっ、と後ろを見ると、さらに公安が増えており、護衛の人はその影で見えなくなっている。

 ……ご愁傷様。

 心の中で手を合わせながら学校へと向かう。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その後、フェリサちゃんの話によると、護衛の人は公安から解放されたらしい。

 ただ、公安からもエルヴィナ家からも、相当怒られていたようだが……。

 そういうわけで、フェリサちゃんに護衛を付けるよりは、車で送り迎えする方が安全、ということになったらしい。

 そうやって、私とリンちゃんの平穏は戻ってきたのだった。

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