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38 つきまとい

 翌日、私とリンちゃんは神妙な顔をして歩いていた。


「…………」

「…………」


 普段と代わり映えのない、朝の通学風景……のはずが、普段と違う顔ぶれがそこにあった。


「あの、フェリサちゃん?」

「はい? なんでしょう」


 私とリンちゃんの間に昨日知り合った女の子がちょこんとたたずんでいる。


「フェリサちゃんの家は私たちの通学路から少し離れているのに、どうしてここまで来たのかな?」


 昨日お邪魔した家からだと、この道は遠回りになるはずなんだけど。


「それは当然、お姉様方と少しでも長く一緒にいるためです」


 しれっと言い切りましたよ……。


「フェリサさん。無理しなくてもいいんですよ? どうしても一緒に通学したいのであれば、学校の近くで待ち合わせしても……」

「いいえ。私は問題ありません。多少遠回りでも、お姉様方と一緒にいる方がいいです」


 はぁ。

 心の中だけでため息をつく。

 リンちゃんも同じような表情をしている。

 ま、仕方がないか。

 そのうち飽きるだろう。

 リンちゃんと二人きりの時みたいに魔法の話とか出来ないのが辛いけど。

 って、リンちゃんのほうがお嬢様モードを解除できないから辛いか?

 心の中で合掌する。

 朝からナイーブな気分になっている私たちとは裏腹に、フェリサちゃんは終始笑顔だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その日の授業が全て終わり、帰り支度をして教室を出る。


「今朝は参ったね。これから毎朝続くのかな……」

「えぇ……そうですわね。繋がりを持とうとした代償が、少し大きかったですわ……」


 朝のことを思い出して、ため息をつく。

 リンちゃんも同じようにため息をついている。

 帰りだけでも、何も気にすることなく会話をしたい。

 フェリサちゃんは一つ下の学年だから終わる時間も違うはず。

 これなら帰りは今まで通り――、


「お姉様」

「「…………」」


 校舎を出たところで声をかけられた。

 私もリンちゃんも何とも言えない表情で、声をかけてきた女の子を見る。


「帰りもご一緒していいですか?」


 断りたい……。

 でも、そうもいかないのだろうね。

 先輩として後輩を無下に扱うわけにもいかないし。

 そんなことをしたら変な噂が広がってしまう。

 結局、私たちに選択権はなかったのだ……って、『断りなさい』って顔しても無理だよ、リンちゃん。


「……いいよ」


 リンちゃんが、がっくしと肩を落とす。

 いや、仕方がないでしょ、これは。諦めてよ。


「フェリサちゃんも同じ時間に授業が終わったの?」

「はい。お姉様方の学年と同じコマ割りの日があるのです。本当は毎日ご一緒したいのですが、帰りは日によって一緒に帰れない日があります」


 しゅん、としているフェリサちゃんとは裏腹に、リンちゃんがちょっと元気になっていた。

 現金な子だね……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから数日が経過。

 フェリサちゃんはあれから毎日一緒に通学することとなった。

 帰りは一週間の内、二日ほどだけど、それ以外はほぼ毎日一緒に帰っている。

 今日は限りないリンちゃんと二人で帰れる日だ。


「ふぅ、最近肩身の狭い思いをしているなぁ」


 横に並んで歩いているリンちゃんがため息をつく。


「まぁ、今まで行き帰りは結構砕けていたしね。他の人がいるとちょっと取り繕っちゃう」

「そうなのよ。如何にコトミといる時間が大事だったか、あらためて思うよ」

「なに、わけのわからないことを言っているのよ」


 いつも唐突なことを言うんだから。

 深い意味は無いんだろうけど、そうやって不意打ちしてくるのはやめて欲しい。


「はぁ、どうにかしてコトミと一緒にいる時間を増やしたいなぁ」


 小声でポツリと漏らした一言が、風に乗って私の耳に届いてきた。

 フェリサちゃんと同じことを言っているな……。

 何がそんなにいいんだか。


「そういえば、コトミって今度の長期休みはどうするの?」

「ん? 長期休み?」


 唐突にリンちゃんがそんなことを聞いてきた。


「特に予定は無いかな……両親はずっと海外で仕事だし」


 今までの長期休みも、特に何かするわけでもなく日々を過ごしてきた。

 (はた)から見ればつまらない子供と思われるかもしれないけど、一人の時間が好きだし、そんなに苦でもない。


「えー、寂しくないの?」

「気を使わなくていいぶん楽だよ」

「変わった子供だね。親離れ早すぎでしょ」


 変わり者はリンちゃんもだと思うけど。


「予定無いならさ、うちの別宅へ一緒にどう?」

「リンちゃんの別宅?」


 別宅って、別荘的なものかな。


「そうそう、別宅……と言っても、今は家族全員でアルセタ(こっち)に来ているから、向こう――ヘイミムって言う街なんだけど、その街には家だけがあるんだけどね。まぁ、別荘へ行く感じになるかも」

「ふーん、でも家族団欒(だんらん)で行くのに迷惑じゃない?」

「そんなことないよ。コトミなら大丈夫。多分、パパもママもコトミのこと気に入ると思う」

「それはそれでちょっと怖いんだけど……」


 そういえばリンちゃんのパパママの話題って上がったこと無いなぁ。


「リンちゃんのご両親ってどんな人たち?」

「う~ん、変わり者? になるのかなぁ」


 ……先行き不安だ。


「まぁ、迷惑でなければ行ってもいいかな」

「ホント!?」

「うん。あ、ちなみに何日ぐらい行くの?」

「ん? 一ヶ月ぐらいかなぁ」

「ながっ!! さすがに一ヶ月間お邪魔するのは気が引けるよ……」

「えー、気にしなくていいのに」

「気にするって」


 うーん、やっぱりフレンドリーな性格だからかな。

 リンちゃんはあまり気にしていないようだけど、やっぱり私は気にしちゃうなぁ。


「じゃあさ、今週末に一回泊まりに来ない? ちょうどパパとママもいるしさ。それで、どうしても気になるんだったらやめればいいし」

「う~ん、まあ、一泊ぐらいなら……」

「よしっ! 決まり! パパとママに伝えとくね」


 出来るだけ常識の通じる人でありますように。

 祈るように願っていたら――、


「……なんか失礼なこと考えていない?」


 相変わらず鋭い子だね。

 でも、リンちゃんが別宅に行くってことは、一ヶ月間会えないのか。

 いやいや、今まで散々一人で過ごしてきたじゃないか。

 数ヵ月前の生活に戻るだけだし、何も困ったことなんてない。

 ない……はずなんだけど。

 ……お泊まり会、ちゃんとしていこう。

 いや、ご両親に気に入られようとか、そんな事考えていないよ。

 ただ、リンちゃんの友達として、失礼なことは出来ないから。

 そうだよ、リンちゃんが胸を張って紹介できるように、ちゃんとしよう。


「ふふふ」

「ん? どうしたの?」


 ちょっと考えすぎちゃったか。


「コトミ、ありがと」

「……別に」

「えへへ」

「リンちゃん気持ち悪い。ていうか、人の心読まないで」

「コトミが分かりやすいだけだよ~」

「そんなことない」


 あるよー、ないよー、とか言い合いながら帰路につく。

 もうすぐ休みか。

 今年は普段と違う休みになりそうな予感がする。

 それが、いいことなのか、悪いことなのかは別として。

 十年ちょっとひっそりのんびり平和に過ごしてきことだし、ちょっとだけ冒険してみてもいいかな。

 ほんのちょっと、だけどね。

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