37 社長令嬢との再開
「あっはっはっは! まさか、フェリサの恩人が嬢ちゃんたちだったとはな。クマに立ち向ったんだって? でも嬢ちゃんたちならやりかねないね。あらためて礼を言わせてもらうよ」
その後、フェリサちゃんを交え、あらためての自己紹介。
「あはは……」
隣のリンちゃんからも乾いた笑いしか出てこない。
「ま、まぁ、運動神経がいいだけの私たちですからね。たまたまですよ、たまたま……」
まさか二度も目撃されるとは……。
「それでも二人の勇気ある行動に感謝しているさ。ほら、フェリサからも礼を言いな」
「はい。助けていただきありがとうございます、お姉様方」
「「お姉様!?」」
私とリンちゃんの声がハモる。
「はい。助けていただいた感謝の気持ちを込めて、お姉様とお呼びしようと思います。コトミお姉様に、リーネルンお姉様」
いやいやいや、姉妹関係なんて望んでいないよ。
早くなんとかしないと……。
「よかったですね、コトミさん。可愛らしい妹さんができて」
って、なに、人に押し付けようとしているのかな、この子は。
「あのね、フェリサちゃん。私たちは姉妹じゃないし、歳もそんなに離れていないから、お姉さんになれないの。それより、友達にならない? 友達なら対等な関係で仲良くいられるよ?」
「え……?」
なんでそんな絶望に染まった顔をするの!
あああ、泣かないで!
女の子の涙に弱いのは男だけじゃ無いんだよ!
「フェリサちゃん……だ、大丈夫だから、ね?」
隣のリンちゃんは我関せずで見守っているし。
マリセラさんは笑いを噛み殺しているし。
くそっ!
なんだって言うんだ……。
「お、お姉様って呼んではダメですか……?」
フェリサちゃんの目から涙がこぼれ――、
「あー、もう、わかった! わかったから! お姉様でもなんでもいいよ!」
そう言った瞬間、ニコッと花の咲くような笑顔となる。
「ありがとうございます。お姉様」
「…………」
くるっと、リンちゃんの方を見る。
なんで合掌してるのよ。
「ねぇ、フェリサちゃん、リンちゃんもお姉様って呼んであげてね」
リンちゃんを一人で逃すわけもなく、そう提言してあげる。
「もちろんです! コトミお姉様、リーネルンお姉様、よろしくお願いします!」
あ、リンちゃんも固まった。
機械仕掛けの人形の様に首を動かし、凍てつくような視線で睨んでくる。
リンちゃんが押し付けようとするからでしょ……。
「くくく、二人とも面白いな。フェリサ、仲良くしてもらいな」
「はい! お母様」
はぁ、まぁ、仕方がないか。
適当に相手しておこう。
「コトミさん、顔に出ていますわよ」
むぅ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ところで、そっちの嬢ちゃん。どこかで会ったことあるかい?」
そろそろいい時間となり、帰り支度をしていると、マリセラさんがそんなことを聞いてきた。
「そうでしょうか? この近くに住んでいますし、どこかですれ違うこともあるかもしれませんわ」
リンちゃんは最近転校してきたって言うしね。
「む……それも、そうか」
「それではお邪魔しました」
なんとなく歯切れの悪いマリセラさんへ挨拶を交わし、背を向けるように部屋を出ていく。
屋敷の外まで、お手伝いさんに案内されてからやっと一息つく。
「ふぅ、なんか疲れちゃったな」
「なにやわなこと言っているのよ。コトミもいいとこのお嬢さんなんだからこういう交渉の場とかは多くあるでしょう?」
外に出たとたんいつものリンちゃんモードに切り替わる。
そういえば久しぶりに長時間お嬢様モードのリンちゃんを見たな。
それより、誰がお嬢さん?
「また、失礼なことを考えているわね……。コトミはお嬢さんでしょ? 所作が他の子供たちとも違うし」
「え……? いや、ウチは一般的な家庭だよ? 両親ともに普通に商社マンをやっている」
そんなお嬢様のような素振りしたかな?
前世の記憶持ちだから他の子供たちより礼儀作法は詳しいけど、ただそれだけなんだよね。
「ふーん、ま、いっか。コトミだしね」
なんだよそれは……。
「それより、あの人のことは知っていたの? 名刺もらう前について行くって決めていたけど」
「あぁ、まぁね。ちょっとあの人のことは知っていてね。いい機会だからお近づきになっておこうと思ったから誘いに乗った」
おいおいおい……ホント、リンちゃんって何者だよ。
知っていたって、副社長ともなればテレビやニュースでも出ているのかな?
それでもいちいち覚えていることなんてないと思うけど。
「それにしても、大企業の人と繋がりを持てたことは大きいね。お金と権力はあって困ることは無いし」
さらっととんでもないことを言い放つリンちゃん。
私はあまり目立つようなことはしたくないんだけど……。
のんびりまったりスローライフには不要なものだよ。
変なことに巻き込まれなきゃいいんだけどね。
マリセラさんの家は私たちの家からもさほど離れておらず、いつもの分岐点に差し掛かる。
「それじゃ、また明日ね」
「うん、リンちゃんも気を付けてね」
大きく手を振って去っていくリンちゃんに、小さく手を振って返す私。
この光景もずいぶん見慣れたものになってしまったな。




