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32 初めてのヘリ

「気づくかな?」


 リンちゃんがLEDライトで信号を出している。


「やっぱり遊んでいたら遭難者に見えないって。きっと戸惑っているよ」


 ついつい遊びに夢中となってしまったけど、現在遭難中だったんだよね。

 ヘリの音で我に返ったけど、忘れちゃうところだった。

 危ない危ない。でも、仕方がないじゃない。

 遊ぶのが久しぶりで楽しかったんだよ。

 リンちゃんってこう見えても遊ぶのが上手い。

 どう上手いって、普通の子供なら無茶苦茶に水をかけるところ、リンちゃんは濡れすぎないように、気をつかって水をかけていた。どんな気配り上手だよ。

 おかげさまで私まで楽しんでしまった。

 はぁ、中身はいい大人なのにな。


「気にしない気にしない。そのために遭難信号を出しているんだから。って返事来たよ」


 短く、長く、短く、とそれぞれ一回ずつ。


「『了解』だって」


 それだけ残し、ヘリは去って行く……って、あれ?


「救助用のヘリじゃなかったのかな。今のうちに片付けしようか。服も乾かさないといけないし」

「そうだね。さすがにびしょ濡れでヘリは申し訳ないかな」


 リンちゃんもそこだけは常識あるんだねーって心の中だけで思う。


「……なんか失礼なこと考えていない?」

「いーえ、そんなことないよ」

「怪しい」

「はいはい、とりあえず焚き火の火を消そうか」


 そう言って、白煙を上げている焚き火に手をかかげ――。


「水球」


 バケツ一杯分の水が手から飛んでいき、焚き火に命中。火が消えると同時に水蒸気が上がる。

 同じように魚を焼いていた焚き火にも水をかけておく。


「それじゃ、服乾かそうか」

「はーい。でも、ホントに反則的だね」

「もう、いちいち言わないの」


 温風で二人の身体と服を一緒に乾かしていく。


「そんな便利な技をどうして黙っていたのさ」

「……そりゃあ、一昔前は魔女狩りや異教徒に対しての火炙りとかやっていたわけだし、あまり目立つようなことはしたくないよ。それに……今まで仲の良かった友達から、畏怖(いふ)の目で見られるのって、結構辛いんだよ」

「コトミ……」


 人は理解不能な出来事に恐怖を覚える。

 科学的にあり得ないと思われている魔法も、何百年も前には恐怖の象徴として信じられていた。

 実際に魔法使いや魔女がいたのかはわからないが、魔女狩りが実在したのは事実。

 私も、そうなりたくはない。

 だから、魔法については誰にも話すことなく、今までひっそりと生きてきたんだ。


「……えいっ」

「きゃっ」


 考え事をしていたらリンちゃんがいきなり抱きついてきた。


「おぉ、コトミの可愛い悲鳴ゲット」

「もう、いきなりどうしたの」


 子供特有の高い体温が冷えた身体に心地良く感じる。

 お腹に回された手を握ると、冷たくなっていた手に暖かさが伝わってきた。


「ワタシはね、コトミのこと裏切らないよ」

「リンちゃん……」


 信じてもいいのかな。

 子供だから言い振らされるかと思っていたけど。

 リンちゃんは他の子と違って大人びているし、大丈夫かな。


「魔法のこと、本当に内緒だよ?」

「もちろん! こんな便利な人、誰にも渡さないよ!」

「…………」

「怖いよ、目が怖いよ、コトミ」


 信じて、いいんだよね?



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その後、別の救助ヘリがやってきて、私たち二人を救助してくれた。

 ヘリの中から遠目に公園を見たけど、あの公園、周りが絶壁で囲われているから、どう頑張ってもたどり着けないようになっていた。

 聞いた話によると、別名『迷いの森』と言うらしい。

 そんなところに迷い込んでいたのか……。

 まぁ、結果的に助かってよかったよ。


 初めて乗ったヘリで、リンちゃんはもちろんのこと、私も大はしゃぎしてしまって救助の人に呆れられてしまった。

 面目ない……。

 こんな時ではあるけど、いい経験になったね。


 救助ヘリで病院に着いたら数日間は検査入院だって。

 まぁ、仕方がないか。少しのんびりしていよう。

 さすがに母さんも心配したのか、久しぶりに電話がかかってきた。

 いつもは大体メールなんだけどね。

 電話口ではそんなに心配している感じではなかったけど。

 父さんは仕事で電話の繋がらない所にいる? どこですかそれは。

 相変わらず充実しているようで重畳(ちょうじょう)


 夕方には担任の先生もお見舞いに来てくれた。

 いつも、のほほんとしている先生が、息を切らせて病室に飛び込んできたときはびっくりしたね。

 こんな残念な先生でもやっぱり、ちゃんと先生なんだなぁ、と少し感心したのは内緒。

 カタリーナちゃんも一緒に来てくれて、また学校で遊ぼうって約束をした。ホントいい子だよね。

 聞いた話によると、学校でも大騒ぎになっているかと思いきや、あまり話題になっていなかったらしい。

 どうやらどこかしらの圧力で情報統制がなされているとか……。え、怖っ。

 誰の仕業かなんとなくわかるけど、深く追求してはいけないんだろうなぁ……。

 翌日にはエリーさんもお見舞いに来てくれた。

 わざわざすみません、業務とは関係ないのに。

 え? ちゃんと業務として許可を取っている? このフルーツバスケットも経費ですか。そうですか。


 リンちゃんとは病室が別々となっちゃってたから退屈だったよ。

 場所が離れているようで結局会えないまま退院となってしまった。

 まぁ、また学校で会えるでしょう。


 三日目には全ての検査結果が正常ってことで退院許可が出たけど、三食昼寝つきの生活はかなり快適だったので少し残念だった。

 ……人としてどうかと思うから口には出さないけどね。

 リンちゃんも退院のようだったけど、用があるからって先に帰っちゃっていた。

 むぅ……。魔法のことを誰にも言っていないか確認しておきたかったのに。

 リンちゃんだから大丈夫とは思うけど一応ね。

 仕方がない、一人で帰るか。

 別れの挨拶を看護師さんたちにしてから病院をあとにする。

 誰も迎えに来ていないからビックリしていたけど、まぁ、慣れたものだ。

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