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31 <遭難者捜索>

 とある学校の子供二人が遭難したと連絡あったのが、今から二日前。

 遭難場所はアルテスト自然公園……の奥深く。


「まったく、なんて場所で遭難してくれたんだ」


 捜索本部責任者のカルゴンはそう言葉を漏らす。

 通報のあった遭難場所は地元住民でさえ寄り付かない『迷いの森』と呼ばれている場所である。

 一緒にいたクラスメイトの子供たちが言うには、近道の林道を歩いていたところイノシシに追いかけられ、はぐれたらしい。

 公園内は職員も含め全て探したが子供二人は結局見つからなかった。

 奥深くへ迷い込んでしまったと考えるのが妥当であろう。


 『迷いの森』の遭難事故はあとを断たない。

 迷いやすいというのも一つの理由であるが、迷い込んだら最後、二度と出てこられない場所だからである。

 そのため、救助要請があった場合でも深入りはできない。

 隊員の命も軽くは無いのだから……。

 

 今回はその場所への救助要請である。

 カルゴンは上層部の正気を疑った。隊員の命を捨てるつもりなのか、と。

 しかし、遭難した子供は二人とも幼い少女とのことだが、そのうちの一人は重要人物ということだった。

 詳しく聞かされていないが、遭難事故自体を表に出すこともできない。

 よっぽどの大物が遭難したものと思われる。

 いや、子供本人が大物というよりは、その両親が重要人物ということなんだろうが。


「くそっ、万が一何かあったら責任問題だぞ……」


 非番の日に緊急招集され、カルゴンが本部責任者として指揮をとることとなった。

 迅速な解決が求められるため、陸と空から捜索させているが、いまだ発見には至っていない。

 捜索人数は時が経つにつれて増やしていった。

 最優先事項として、他現場から引き抜いた捜査員を派遣しているからだ。


「はぁ、なんとか無事でいてくれよ」


 カルゴンは小さくため息をつきながら現場に派遣されている隊員へ連絡を入れる。

 少女たちの救助も当然ではあるが、隊員たちの命も無駄にはできない。


「こちら遭難者捜索本部。現場の状況はどうだ」


 遭難発生からもうすぐ四八時間が経過する。

 仮に、怪我を負い動けなかった場合、タイムリミットは残り二四時間となってしまう。

 いや、もしかしたらそこまでの時間は残っていないかもしれない。

 大人と違い、子供の体力は多くないのだから……。


「何としてでも、それまでに見つけ出さねばならない。しかし、手がかりが……」


 カルゴンの頬を冷たい汗が伝う。

 遭難場所の『迷いの森』は広大な森である。

 闇雲に探していたところで見つかる可能性は、ほぼゼロであろう。

 クラスメイトの情報を頼りに周囲を探しているが、いまだ成果はない。

 

 子供がはぐれた場所には切り立った崖が近くにある。

 万が一を思い崖下を探したが最悪の事態は免れていた。

 あの高さから滑落(かつらく)したのであれば、無事では済まないのだから。

 恐らくイノシシに追いかけられ、森の奥深くへと迷い込んだのであろう。

 カルゴン他、救助隊のメンバーはそう結論づけ、奥深くの森を重点的に捜索していた。

 あの高さを平気に飛び降りられる人間がいるとは思わずに。


 非情にも時間だけが過ぎ去っていく中、カルゴンの呼びかけに隊員からの返答がきた。


『現場から本部へ、白煙が上がっているという現場に到着』

「っ! どうだ!」


 今日の昼過ぎに公園からさほど離れていない川辺で、白煙が上がっていると通報があった。

 通報後すぐさま調査ヘリを現場に向かわせている。ただの山火事か、それとも……。

 カルゴンは固唾(かたず)を飲んで報告の続きを待つ。


『白煙の発生元を確認しましたが、自然発生のものではなく、人為的なもの……川辺に狼煙(のろし)のようなものを確認。そして、近くに情報のあった服装の子供二人を発見』

「それだ!」


 カルゴンは椅子から立ち上がり興奮気味に叫ぶ。


『ただ……』

「……ただ?」


 調査隊の隊員が言いよどむ。

 何か問題が発生したのか。

 身動きが取れず、既に手遅れなのか。

 カルゴンの脳裏を最悪の事態がよぎる。


『……遊んでおります』

「……は?」


 現場からの、想定外の報告に、カルゴンは思わず声を上ずらせる。


『ですので……川辺で遊んでおります。少女たち二人が川辺で……』

「そんなはずはあるかっ!! 遭難して三日目だぞ! 遊ぶ余力なぞないはずだ!」

『しかし……見る限り、水をかけ合い、楽しそうに、遊んでおります』

「むむむ……」


 カルゴンは考える。

 通報のあった場所は『迷いの森』から少し外れてはいるが、地元住民が遊びで寄りつく場所ではない。

 そんな場所で子供たちが遊ぶものか……。

 もともと想定していた場所からかけ離れているのも安易に喜べない理由ではある。


『あ……光、ライトで信号らしきものを送っております』

「なにっ!?」

『短く、長く、短く、三回ずつ! 遭難信号です! 遭難信号を発信しています!』

「くっ……了承の返事と、すぐに救助のヘリを向かわせろ!!」

『はっ!!』


 通話が終了すると、カルゴンは脱力するかのように深く椅子に座る。


「……どうか、無事でいてくれよ……」


 数秒放心していたカルゴンではあるが、まだやるべきことはあると思い立ち、各所へ通達を送る。

 まだ、確証は得られていないが、隊員たちを無事に返すこともまたカルゴンの使命であるのだから。

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