295 エルヴィナ家の協力
「何から話したものかというのはありますが……」
どうしたものかと思ったけど、うーん、初めから話すかな。
「今だから言いますが、瀕死のマリセラさんを治したのは私の能力です」
初めてマリセラさんと出会ったことを振り返って話す。
ここまできたら隠していても意味が無いし、ちゃんと説明する必要はあるだろう。
「やはりな。死んでもおかしくない傷を負ったはずなんだ。嬢ちゃんじゃないかと思ったものだよ。あらためて礼を言わせてくれ」
「いえ、元はリンちゃん助けるために飛び出してくれたわけですから、お礼を言うのはこっちの方ですよ」
そう、チラリとリンちゃんの方を見る。
「そうだけど、結局は無駄死に……死んではいないけど、無駄になったよな」
……確かに。リンちゃんは自力で回避していたし、マリセラさんがいなかったとしても、特に問題はなかったが……。
「ま、まぁ、それをきっかけにお知り合いになれたわけですから、結果オーライですよ……」
微妙な空気になりかけたところ、話を強制的に修正する。
そこからフェリサちゃんをクマから助けたことや、エルヴィナ家にお招きされたことにより、今の関係を築くことができた。
「その後、長期休みを利用してリンちゃんの家に行ったわけですが、紆余曲折ありながら戦争に巻き込まれることとなりました 」
「大分端折ったね……」
リンちゃんからのツッコミはあえてスルー。
「あとはテレビなどで報道されているとおりです。戦争を終結させた立役者はこの二人ですし、大陸間弾道ミサイルを防いだのは……私です」
すでに周知の事実とは言え、あらためて口にすると小っ恥ずかしいものがある。
別に国の英雄になりたいわけではない。
手の届く範囲の人たちが幸せに暮らしてくれれば、それだけでいいんだ。
「なかなか凄絶な……というより、大変だったな。ご両親も亡くなったんだろ? フリックから聞いたよ」
悲痛そうに声をかけてくるマリセラさん。
「えぇ……残念ではありますが。それでも、周りの友人たちがいたおかげで立ち直れることができました」
カレンがそっと、私の手を握ってきた。
慰めてくれているんだろうけど、あまり人前でイチャつかないでよ……。
『そんな非常識なことはしませんよ』
視線を介し、ふくれっ面になったカレンの気持ちが伝わってくる。
まぁ……カレンの気持ちが嬉しいのは確かだし。
「それで? これからはここで生活するのかい? みんなここに居ると言うことは、全員が何かしら不思議な力を持っているのだろうけど……」
「一応訂正しますと、ワタシは普通の人ですからね。なんの力も持たない、ただの町娘ですよ」
マリセラさんの質問に、リンちゃんが訂正する。
「そうなのかい? 最初からずっと一緒だったから、ペリシェール家の嬢ちゃんも変わった力の持ち主だと思っていたが……」
「人より動けるのは確かですけど、コトミのように大の大人をぶっ飛ばす力はありませんよ」
「言い方よ」
リンちゃんからの説明にトゲがあったのでついつい横から口を出す。
アウルもルチアちゃんも苦笑いしているし。
「……大変だったな」
フリックさんも同情の視線を私たちに向けてくる。
それってどっちの意味ですかね?
「まぁ、巻き込まれることもあるだろうから一緒に居ることは間違いないのだろう。……すでに一度経験しているのだろうからな」
そのとおりだよね。
私たちに関わる人は何かしらに巻き込まれるリスクはある。
ペリシェール家然り、エルヴィナ家然り……。
「マリセラさんたちも十分に気をつけてくださいよ?」
特にフェリサちゃんは実績ありなんだから……。
「わかっているさ。特にフェリサは肩身の狭い思いをさせているからな」
「本当ですよ……。できればお姉様みたいに可憐なボディーガードが良かったです」
終始ニコニコとしていたフェリサちゃんが、ここぞとばかりに苦言を示す。
マリセラさんは「あははは」と笑い流すだけで取り付く島もなく、フェリサちゃんもため息をつくだけだった。
「……っと、話が逸れちまったが、今後はどうするんだい? ずっとここにいても別に問題はないが。支援も続けるつもりだからな」
マリセラさんの言葉に私は言い淀む。
さて、どこまで話すべきか……。
一応、みんなと事前に擦り合わせしてはあるが、基本的には私に任せると。
この世界から居なくなるから別に何を話してもいい、という反面リンちゃんは残るから、あまり変なことも言えない。
そんなことを思いながらも口を開く。
「……一ヶ月以内に、この地を去ろうかと思います」
その言葉にみんなが息を飲む雰囲気が伝わってくる。
「……ふむ、行く当てはあるのか?」
フリックさんが驚いたようにそう尋ねてくる。
「行き先は――この世界とは違う、別の世界です」
フリックさん、マリセラさん、そしてフェリサちゃんが驚愕の表情に染まる。
「詳細は省きますが、私たちには別の世界へと行く術があります。準備に、少しの時間が必要となりますが、それでも私たちが居なくなれば、この騒動も収まってくるはずです」
「……それしか、選択肢は無いのかい?」
神妙な面持ちで尋ねてくるマリセラさん。
「ない――と、思います。マリセラさんたちのおかげで今はなんとか持ち堪えていますが、また同じようなことが起きると思います。私たちを求めての争いや戦争が――」
「…………」
静かに口を閉ざすマリセラさん。
私たちの力は強大すぎる。
それこそ一人で一国を相手取ることもできるぐらいには。
そんな強大な力を野放しにしておくとは到底思えない。
今だけは均衡を保っているけど、いつかは崩れるだろう。
その時、また誰かが犠牲にならないとも限らない。
そうなる前に、先に手を打っておきたい。
「……わかった。嬢ちゃんたちが決めたことだしな。アタシらが止めることなんてできないんだ。あまり時間が残されていないかもしれないが、何か手伝えることはあるか?」
しばらく考えていたマリセラさんだが、私たちの決意が固いと知ると、背中を押すようにそう口を開いた。
「……そうですね。いろいろと準備が必要な物もありますので、もし可能であればそういった代物をお願いできるでしょうか。もちろんお金はお支払いいたしますので」
「お金は特に問題ないが……なんでも言ってくれ。エルヴィナ家が全力を持ってサポートしよう」
そういった申し出は正直ありがたい。
マリセラさんたちにはお世話になってばかりだな。
今さら恩返しできないのは悔やまれるが、せめて残り少ない時間でも何か手伝えることはないか、考えておこう。




