287 久し振りの雑談
今日の夜ご飯は、焼きイノシシとイノシシ肉のスープ、残っていた果物と、少々彩りに欠けるメニューではあったが、こればかりは仕方がない。
ま、野営の時だけだしね。
特に誰からも文句が出ることはなく夜ご飯は終了。
その後、早々に就寝しようとのことだったけど、野営で全員一緒に寝るわけにもいかず、寝ずの番を立てることにした。
人数も多いことだし二人ずつ三チームを立てるか。
ただ、まぁ、こういう時はだいたい揉めるわけで……。
主に私の取り合いで。
そんなわけで、あの一件以降、サイコロを持ち歩くようにしている。
スマホがある内は別にルーレットで問題ないけど、テスヴァリルじゃ使えないしね。
今回は数字の一番大きい人が私と一緒。
それ以外は、数字の近いもの同士が組むこととなった。
一応予行演習ということもあり、アウルとは別の組にすることとしたのだが、その結果――。
「私とリンちゃん、アウルとカレン。それにルチアちゃんとシロか……」
また奇抜な組み合わせになったな。
「ぐぐぐ、また姉さんと合えず……」
カレンが射殺さんとばかりにアウルを睨みつけている。
「あはは……魔眼は使わないでね?」
そんなアウルはカレンの視線をかわしつつ困っているように言う。
「シロさん、よろしくお願いします」
「ん」
この二人も特に問題ないかな?
昔のシロはほとんど無感情だったけど、今はほほ笑み返すぐらいの感情は持っているらしい。
リンちゃん救出もカレンと二人で上手いことやっていたしね。
そんなわけで次は順番決めだけど……三チームが交互だと真ん中の時間帯がちょっと辛くなるかな。
これもサイコロで決める。
「私たちが最初で、アウルたちがその次、ルチアちゃんとこが最後だね」
これについてはみんな特に不平不満を言うことなく決まった。
そんなわけで日が沈み、早々と就寝するみんな。
日が沈んでからは特にやることはない。
それであれば早く寝て明日に備えた方がいいだろう。
「コトミとこうやって火を囲むのも久し振りだね」
声のボリュームを落としながらリンちゃんが口を開く。
ほかの四人は焚き火を挟んで反対側で横になっている。
あまり話し声で睡眠を妨害しないよう、位置的に少し離れてもらっている。
本当は近くに居た方がいいんだけど、危険のあるテスヴァリルと違い、この世界なら、まぁ問題ないだろう。
四人とも持ってきた毛布に身を包んで眠っている。
アウルとシロは別として、カレンとルチアちゃんは寝づらいだろうと思っていたけど、どうやらそうでもないみたい。
そういえばカレンは浮浪者時代があったんだったな。
今じゃそんな面影なんてまったくないけど。
ルチアちゃんも最近まで硬い布団で寝ていたからさほど辛くないらしい。
みんな苦労しているね……。
そんなことを考えながらリンちゃんの言葉に、同じく小言で返す。
「そうだね。あの時はまさかこんな関係になるとは思わなかったね」
「ふふふ、そうだね。銀行強盗事件で出会って、森での遭難。それからヘルトレダ国との争いに巻き込まれて――いっぱい助けてもらった」
「友達……だからだよ」
照れ隠しとばかりに、焚き火へと薪を投げ入れる。
静かな森の中をパチパチと焚き火が爆ぜる。
「ふふふ、コトミにとってこの世界では初めての友達だもんね」
「……そうだよ。初めての友達で、命を賭けてでも守りたい。そんな、大切な友達だよ」
リンちゃんが驚愕したようにこちらを振り向き、私と視線が交差する。
「……びっくりした。コトミが素直になるなんて」
「何よ、素直って。私は昔から変わらないよ」
「うぅん、変わったよ? ワタシと出会ってからも変わったのがわかるぐらいだから、アウルとか別人のように見てくるんじゃない?」
「…………」
そうかな。……いや、そうだね。
テスヴァリルの時は自分の好きなように生きてきた。
それが、この世界で生まれ変わり、今は亡き父さんと母さんの子供として生きてきた。
そうなると、自然と規則正しくもなるし、人としての生き方も変わってくる。
私は……変わったんだな。
「昔のコトミ――シャロのことはわからないけどさ、今のコトミの方がワタシは好きかな」
「……突然の告白に照れるんだけど」
「ふふふ、コトミは鈍感そうだからねー。ハッキリ言わないと取られちゃいそうだからさ」
ニマニマとした笑顔でこちらを見てくるリンちゃん。
その表情は焚き火に照らされ、少し火照っているような笑顔に見える。
「……私も、リンちゃんのこと、好きだよ」
なぜか、今この時ばかりは私も素直になれた。
自然と口を開いて出てくる言葉。
「……へぇ、これは両思いってことでいいのかな?」
そのことに驚きながらも嬉しそうなリンちゃん。
「バカ、そういう意味じゃないよ」
「ふふふ、『そういう意味』にしておけば心残りがなくなるんだから。『そういう意味』ということにしておいてよ」
笑いながら、だけどどこか寂しそうに、リンちゃんは言う。
「…………」
リンちゃんの寂しそうな笑顔を凝視できず、私は目を逸らした。
『一緒に付いてきてほしい』
たったそれだけのことが言葉にできない。
テスヴァリルは危険に満ち溢れている。
私たちと違い、この世界で疎まれる存在ではないリンちゃんは、無理にテスヴァリルへ行く必要もない。
自衛の手段を持たないリンちゃんが無理に行ったとしても、その身の安全は保障できないのだから。
それなら、この世界で平和に暮らしていた方がいい。
「…………」
そう、頭ではわかっている。
わかってはいるけど、別れは――辛い。
「そういえばこの前ね――」
リンちゃんが話題を変えるかのように、明るく話し出す。
交代の時間が訪れるまで、これが最後と言わんばかりに、いっぱい、いっぱい、沢山のことを話した。
本当に話したい、そのことを覆い隠すかのように――。




