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286 夜ご飯の準備

 夜ご飯には少し早いということで、日が沈むまでは各自自由時間を設けることとなった。

 とは言っても森の中だし、あまりやることはない。

 アウルは久し振りの鍛練なのか、意気揚々と剣を振り出した。

 カレンとルチアちゃんは隣同士に座ってお喋りしている。

 私以外の人とあまり接しないカレンがお喋りとはまた新鮮な感じだな。

 シロは変わらず何を考えているかわからず、私の隣に居座り続ける。

 リンちゃんは――。


「久し振りに、コトミの隣が空いたね」


 小声で苦笑するかのように、カレンに少しだけ視線を移してから私の隣へと座る。


「リンちゃん。疲れていない?」

「もう、そんな心配ばかり。たまには気の利いたことぐらい言えないの?」


 冗談ぽく(とが)めるように口を(とが)らせるリンちゃん。


「うっ……」

「ふふ、冗談だよ。コトミは心配症なんだから。ワタシもそれなりの訓練を受けてはいるからこれぐらい平気よ」


 ほほ笑みながらそう言うリンちゃんはいたずらっ子のような顔をしていた。


「それにしても、みんな順応力高いんだから。魔法があるって言うのも大きなアドバンテージなんだろうけど。普通、初めての野営だともっと苦労するものよ?」

「へー、リンちゃんも初めては大変だった?」


 率直な質問をリンちゃんに投げかけてみる。

 私は……どうだったかな。

 テスヴァリルじゃ野営なんて日常茶飯事だったし。

 辛い物は辛いけど、それは当たり前のことであり、特別なことではなんでもなかった。


「そりゃそうよ。茂みをかき分けて進むのもそうだし、薪を集めるのも大変。野宿なんて地面が固すぎてまともに寝られない。ワタシはあの時『繊細』って言葉をそのまま焚き火の中に放り込んで来たね」


 ため息交じりに早口で話すリンちゃんは、その時のことを思い出したのか複雑そうな表情で語る。


「コトミと過ごしたあの公園ではだいぶ楽させてもらったけどね。水問題が解決するだけでも全然違うんだから」


 まぁ、確かにそうだろう。

 今回みたいに湖でもあればいいが、普通は湖どころか川さえもなく、水の確保は最重大課題でもあった。


「それを魔法使いがいるだけで解決するんだから、反則だよねー」


 そんなリンちゃんは楽しそうに話すカレンとルチアちゃんに目を向ける。

 その眼差しはどこか羨ましく、寂しい視線だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そろそろ夜ご飯の準備が必要になってくるころ、アウルはその剣をナイフへと持ち替えていた。

 薄暗くなる前にはやっておきたいしね。


「今日の夜ご飯もお肉……だね 」


 そばで横たわっているイノシシへ手をかけ、ポツリとつぶやくアウル。


「まぁ……野営中は自然と肉類が多くなってくるのは仕方がないよね。カレンとルチアちゃんのおかげで今日は果物があったけど、普段は中々ねー」


 そんなアウルの様子を眺めながら私も持ってきた荷物を漁り、深めの鍋と数種類の調味料を取り出す。

 焼いただけの肉が今夜の夕食になると少々味気ない。

 せめてスープだけでもと思い、さっき魔法で作った簡易かまどの上に鍋を置いて火を(おこ)す。


「アウル、おいしそうなとこの骨を少しよろしく」

「んー? あぁ、ダシを取るんだね。テスヴァリルじゃそんな発想なかったけど、案外おいしいんだよね」


 アウルの言うとおり、テスヴァリルじゃ具を入れ、調味料で味付けをするだけだから、なんというか味が単調なのだ。

 その点、ダシを取れば味に深みが増す。

 まぁ、その分手間が増えるのだが。


「姉さん、私も手伝いますよ」


 ルチアちゃんとお喋りしていたカレンが立ち上がり、私のそばに寄ってきた。


「それじゃ、火の番をお願いしようかな」


 カレンと場所を変わり、私はアウルの解体したイノシシの残骸を取りに行く。

 手際の良いアウルはすでに大きく解体が終わっており、ちょうど良くダシに最適な部位があった。


「もらっていくよー」

「はーい」


 お互いなんてこともないように声をかけあう。

 このあたりは腐れ縁ということもあり、特に遠慮する必要もない。

 そんなやり取りが何か気にかかったのか――。


「むむむむ……」

「…………」


 ルチアちゃん……とカレンがこちらを見ながら眉間にシワを寄せている。

 ……なんか、変なところで対抗意識を持たれているような気がするな。

 そう思うも、特に気にすることなく沸騰している鍋にイノシシ骨を放り込んでいく。

 そしてグルグル回す。

 グールグル、グールグル。


「あとは弱火で煮込めばいいかな。カレン、燃えている薪を取り出して、少し火力を落としておいて」

「はい。わかりました」


 カレンは転がっている棒きれを焚き火の中に突っ込み、コロコロと器用に薪を取り出していた。

 うん。上出来だね。これならテスヴァリルに行っても問題ないかな。


「今日は水浴びどうする?」


 アウルを手伝っているリンちゃんからそう声をかけられる。


「うーん……以前みたいに人知れずの森とかじゃないからねぇ。超長距離から覗かれたらわからないから今日はやめておこう。と、いうよりこの世界じゃやめておいた方が無難かもね」


 周囲が木々に囲まれていたとしても空から覗き込まれると対処のしょうがない。

 むしろ、今でさえ見られている可能性もあるが……。

 リンちゃんみたいに……。

 ま、まぁ、あまり細かいことは気にしちゃダメだ。


「ま、一日ぐらいは我慢しようか。明日、帰ってからお風呂に入ろう」


 リンちゃんも同じ結論に達したからなのか、小さくため息を付いた。

「便利なこの世界だけど、便利すぎるのも困りものだよねー」と、言ってアウルの手伝いを再開する。

 私もお鍋の様子を見ながら中断していた夜ご飯作りを再開。

 段々と日が沈んできており、いい時間となった。

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