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284 〔収穫者としての活動〕

「よっ、ほっ、やっ、と」


 足元の悪い道を、比較的まともな足場を選び、歩いていくルチア。


「…………」


 その隣を気にせず、バシャバシャと水溜まりを跳ねさせながら歩いていくカレン。

 対称的な二人ではあるが、その心内(こころうち)には共通の想いがあった。


「木の実か何か見つけたの?」


 水場を越え、隣に降り立ったルチアがカレンに声をかける。


「うん。ワタシじゃ手が届かないから、魔法でよろしく」

「まっかせてー」


 やる気満々のルチアが微笑ましくなり、笑みをこぼすカレン。

 屈託の無いルチアの笑顔は眩しく、カレンも釣られて笑顔になった。



「ルチアはあの人と本当の姉妹なの?」


 ――唐突の質問。

 カレンとルチアは出会ったばかりであり、最初の頃はお互い敬語で、あまり会話らしい会話はなかった。

 それが例の一件で急に距離が近づいたのである。

 新たな友達、これからテスヴァリルへ行く者同士、同じ志を持つ――仲間。

 そんな、仲間になったからこそ、カレンは今まで聞きたかったことを我慢できずに質問するのであった。


「ん?」


 あの人、とは――アウルのことだろうか。

 ルチアはそう思いあたり、質問に答えるよう言葉を発する。


「そだよー。双子だけどあっちの方がお姉ちゃんだね。まぁ、たまに頼りない時もあるけど、いいお姉ちゃんだよ」

「へー……」


『本当の姉妹』


 その言葉にカレンは憧れていた。

 溺愛するコトミと少しでも一緒にいたい。

 そうなると、やはり家族になるのが一番で、でも夫婦にはなれない。少なくともこの世界では。

 いや、法律的に問題はないがコトミが絶対に嫌がる。

 カレンが悲しそうな顔をすれば、優しいコトミは首を縦に振るだろう。だけど、それはなんか違う。

 無理矢理家族になったところで、本当の幸せは掴めないのだから。

 それなら妹となり、常に近くにいる存在の方がよっぽどいい。

 時にはコトミを守ることができ、時には()()()にもなるのだから。


「……コトミさんとカレンも本当の姉妹のように見えるよ? 身長差的にどっちが姉か……というのはあるけど」


 カレンの心境を知ってか知らずか、ルチアがそう声をかける。

 確かに、髪色や容姿が違えど、二人の仲睦(なかむつ)まじい様子は本当の姉妹にも見える。

 ただ、ルチアの言うとおり、妹の方が大きい。いろいろと。


「……本当?」


 そのルチアの言葉に顔を(ほころ)ばせそうになりながらも、なんとか威厳を保つため、無表情でそう答えるカレン。


「うん。コトミさんも妹思いだし、カレンもコトミさんを慕っているように見えるから、端から見れば本当の姉妹に……見えなくもない」


 いろいろと大きさは違うが。

 ルチアは繰り返し同じことを思う。


「……そう」

「……カレン、嬉しそうだね」

「…………」

「あ、ごめん。くすがらないでよ。って、意外と素早い!? あ、ダメだって……あは、あはははは!」


 カレンの毒牙にかかったルチアは笑い声を響かせる。

 逃げようと思っても魔眼の能力(ちから)で先回りされてしまい、なかなか抜け出せない。


「あはははははは!」


 ルチアの笑い声が収まるまでしばらくはかかりそうであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あった」


 しばらくじゃれ合っていた二人であるが、いつまでもそうしているわけにもいかず、探索を再開した。


「ん? あぁー、あれか。さすがに高いね」


 カレンとルチアが見上げた先には、他の木よりも大きく何かの実がなっている木であった。

 カレンの言うとおり多少背が高くても届きそうにないが、ルチアの魔法であればなんとかなるだろう。


「んー、とりあえず風を吹かせてみるか」


 そう思い、ルチアは魔力を練り始める。

 そして、何も考えずに風魔法を発動させた。

 目当ての木の実をめがけ突風が吹き付ける。

 大きくしなる木。

 しかし、木の実が落ちるには少々威力が足りなかったようである。


「んー、もうちょっと強くいくか」

「やめて。木が折れる」


 これ以上木がしなったら折れるか、根っこごと倒れるかのどちらかである。

 それをいち早く察したカレンはルチアを制止する。

 別に環境破壊をしたいわけではないのだから。


「それなら――ウインドカッター」


 強風で木の実を落とすことを諦めたルチアは次の魔法を唱える。

 先ほどコトミが狩ってきた鳥の狩猟方法を聞いて、真似してみようと思ったのである。しかし――。


「あ、ばか」


 ルチアが魔法を放った直後、その手を掴み身体を引き寄せるカレン。

 そのまま倒れ込む勢いでその場を離れる二人。

 そこに向かって上から木が降ってきた。

 木の実や木の枝ではなく、()そのものが。

 カレンは魔眼を(おこ)しており、先が()えたのだ。

 それによると、ルチアが放った魔法は過剰に魔力が込められており、木の実どころか、木ごと切り倒すことにいたった。

 それが降ってきたのだ。


「むぎゅ――」


 ルチアが潰れたような声を上げる。

 そして、その近くに切り落とされた木が落下した。


「…………」


 カレンの機転で二人とも怪我なく無事である。

 無事ではあるが……。


「ルチアは脳筋」


 砂埃をはたき落としながらカレンは立ち上がる。


「うっ……お姉ちゃんと一緒にしないでよ――あ、ありがとう」


 カレンの差し出された手を掴み、立ち上がるルチア。


「でも、木の実を取れてよかったね」

「…………」


 カレンのジト目を軽く流しながら目の前の木の実をもぎ取っていくルチア。

 そんな様子を見ていたカレンもため息を一つつき、ルチアと同じように木の実へ手を伸ばしていく。



「こんなもんかな」

「うん……でもどうやって持って帰ろうか」


 二人は木の実を採れるだけ採った。

 木を切り落としてしまったから、木の実を残していても土に還るだけなのだから。

 それなら、採取者の責務としてすべていただこう、と。そう思いすべての木の実をもぎ取った。

 もぎ取ったのはいいが――。


「案外、量が多い」

「うん。そうだね……」


 二人の目の前にはこんもりと山になった木の実。

 到底両手だけで運びきれるものではない。


「ルチア、スカート広げて」

「へあ?」


 カレンの突拍子もない言葉に変な声を上げるルチア。

 そんなルチアにお構いなく、スカートに手を伸ばすカレン。


「ちょ、ちょちょちょ――」


 長いスカートをたくし上げ、その端をルチアの手に持たす。


「こうすればいっぱい運べる」

「いやいやいや! さすがに恥ずかしいんだけど!?」


 スカートが長い分、中は見えてはいない。

 見えてはいない、が……。


「足元がスースーする……」

「あなたの姉はこれ以上短いスカートで、飛び跳ねているよ」

「お姉ちゃんと一緒にしないでよ……。うぅ、気になる……。カレンがすればいいじゃん……」

「ワタシもするよ? 二人で運ばないと運びきれないでしょ」

「うぅ……」


 カレンに正論を言われ渋々といった感じで口を閉じるルチア。

 そのルチアのスカートに木の実を入れ続けるカレン。

 ほとんどの木の実を入れ終わったところでカレンが口を開く。


「さて、行こうか」

「……カレンは? わたしが全部持っているように見えるんだけど」

「ルチアの長いスカートのおかげで全部運べそうだよ」


 ニヤリといたずらっ子ぽい笑顔をルチアに向けるカレン。


「あっ。ひどい! カレンも持ってよ!」

「さ、行こうか。早く戻らないと日が沈んじゃうよー」

「ちょっと! カレン!」


 足早に去っていくカレンをスカートをたくし上げているルチアが追いかける。

 だけど、その速度は決して早くない。

 あまり焦ると木の実の重さでスカートが脱げそうであるからだ。


「カレンーっ!!」


 そう名を呼ぶ少女の声が森の中へと吸い込まれ消えていく。

 現代社会から離れ、田舎暮らしのような生活になるのだ。それでもこうやって楽しく過ごせる。

 カレンとルチアは笑顔になりながら、コトミたちの待つ場所へと帰って行った。

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