283 野営時のお昼ご飯
「ただいまー。ごめん、ちょっと遅くなっちゃったかな?」
「大丈夫だよー。こっちも準備が整ったところだから。ちょうどお昼時だしね」
茂みをかき分けて先ほどの場所へとたどり着く。
目に入ったのは焚き火の世話をしているアウルと――。
「お、魚もいたんだ。ルチアちゃんが採ったのかな?」
釣り竿とか無いはずだから魔法だろうね。
「そうだよー。ちょっとトラブルもあったけどね……」
「そうなの?」
周囲を見渡すと、魚の内蔵をナイフで掻きだしているリンちゃんと、小枝の先を魔法で尖らせているルチアちゃん、その小枝を魚に刺しているカレン。
「んー? 何かあったの?」
「あー、ちょっとね。大したことはないからあまり気にしないでいいよ。それより、コトミの方は収穫どうだった?」
何があったのか気になるけど、アウルがそう言うなら、まぁいいか。あとで聞いておこう。
「うん。それなり、かな? シロ、出せる?」
「ん」
シロが手をかざすと、目の前に血抜きをした謎鳥が三羽と、タヌキが一頭現れる。
「おー、大量だね。下処理しちゃおうか」
そう言ってアウルが手際よく謎鳥を処理していく。
その様子を興味深そうに覗き見るカレンとルチアちゃん。
二人とも血生臭いのは平気のようだね。
「ちょっと休憩させて。歩き疲れちゃった」
シロと二人、地ベタに座る。
ふぅ、っと一息ついてみんなが準備している様子を眺める。
魚の処理が終わった三人も、アウルが解体している鶏肉を手に枝串へと刺していく。
「ルチア。ちょっと手を洗いたい」
「ん? いいよ。ここでいい?」
「うん。ありがとう」
カレンとルチアちゃんが話しながら手を洗っている。
確かに、湖で直接洗うと、衛生的によくないが――。
「……?」
なんか違和感。
「あ、カレン。ついでに、その余った枝もちょうだい」
「これ? はい」
「ありがとー」
「…………」
はて? この二人、いつの間にこんな風に話すようになったんだ?
ていうか仲良くなってる……?
どういうことかと、アウルとリンちゃんに視線を向けると――慈しむようにうんうんと頷いている。
いったい何があったんだ……。
「そろそろ焼けてきたかな-?」
焚き火の周りに立てかけられた魚や肉をひっくり返していく。
「リンちゃんは公園で遭難したときもこういうの食べていたけど、カレンやルチアちゃんは平気かな?」
「大丈夫ですよー。食べられる元気があるのは素晴らしいことです」
「ひもじい時は食べられる物をなんでも食べていましたから。それに比べればご馳走です」
「「うっ……」」
二人の言葉にアウルと私、ダメージを受ける。
カレンとルチアちゃんの境遇は私も知っているから……。
「……二人とも、いっぱい食べてね」
そう言葉をかけ、アウルと共に頷くことしかできなかった。
もぐもぐと謎鳥を食べる。うん、おいしい。
魚も湖にいたわりには淡白でさっぱりしていておいしかった。案外泥臭くもなかったしね。
タヌキ肉もまぁまぁおいしかった。
かわいいモフモフを食料とするにはちょっと可愛そうだったけど、地方によっては害獣として処理されることもあるし、心を鬼にして食す。
他の五人も特に問題ないようだし、ここまでの旅路的には成功なのかな。
食事を終え、一息つく。
「まだ時間はあるけど、早めに夜ご飯の準備もしちゃおうか。本当は、朝ご飯と夜ご飯だけで、あまりお昼ご飯は食べないんだけどね?」
「へー、そうなんですか?」
お昼ご飯の残りを片付けながらルチアちゃんが疑問の声をあげる。
「うん。日中はなるべく食事に割く時間を減らして、移動や依頼に充てたいからね。特に今回のように、森の中だとすぐ薄暗くなっちゃうから」
まだ日は高いとはいえ、あと数時間もすれば歩けなくなるほど、薄暗くなるはず。
本来であれば移動できる所まで移動して、そこでベースキャンプを広げるところだけど、今回は奥に進むことが目的じゃないし別にいいだろう。
「そういうわけで、今回は早めに夜を迎える準備をしようか。また夜ご飯の確保もしないといけないしね」
お昼ご飯となった謎鳥や魚、タヌキはすべてお腹に収まった。
大食い娘が二人もいるからな……。
この世界では魔物がいない分、食料調達には少々難がありそうだ。
まぁ、テスヴァリルに行けば問題はないだろうけど。
「ちょっと野菜というか、木の実か果物がほしいね」
少し散策した限りでは見当たらなかったから、自生しているのはあまり数多くないのかも。
「姉さん。探しましょうか?」
「ん? あぁ、そうか。魔眼だと探せるかな?」
「ちょっと試して見ますね」
そういってカレンの瞳が爛々と輝く。
その様子をマジマジと見ているアウルとルチアちゃんにリンちゃん。
「ルチアちゃんとリンちゃんが興味を示すのはわかるけど、なんであんたも見ているのよ」
「いやー、魔眼を持っている人って近くに居なかったし、関わりもなかったからねー」
頭をかきながらアウルはあはは、と笑う。
まぁ、魔眼持ちという存在は貴重で、テスヴァリルでも絶対数が少なかったからね。
一つの能力でも極めれば、一生生活に困らなくなると言われている魔眼。
その魔眼の能力をカレンは何種類も使えるという。
末恐ろしい存在や……。
「……何か、実のなっている木がありますね。ワタシがちょっと行ってきます」
そう言って立ち上がるカレン。
「さすがに一人じゃ危ないから……」
「あ、わたしがついて行きますよ。二人なら大丈夫ですよね」
カレンにつられ、立ち上がるルチアちゃん。
「んー、まぁ、試しに行ってみる? もし、危なくなったら空に魔法を打ち上げてね。そしたら飛んでいくから」
「任せてください! それじゃ、カレン行こうか」
「うん。ルチアよろしくね」
そういって二人は森の奥へと消えていった。




