281 〔体力のない二人〕
「はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ」
コトミやアウルが先行する中、辛そうに呼吸をする少女が二人、その後を付いていく。
草木が生い茂っている道ではあるが、先行する少女たちが道を踏み締めているため、さほど歩きづらいわけではない。
しかし、そうはいっても体力面で劣る少女二人には辛い道のりである。
「んー、ちょっと休憩しようか」
コトミのその一声を聞いて、近くの幹へと腰を下ろすカレンとルチア。
「「はぁ……はぁ……」」
二人ともかなり限界ではあった。
「少し、休憩……」
「カレンさん。水、いります?」
疲労でうなだれるカレンにルチアがそう声をかけた。
カレンはそんなルチアに驚きを隠せないでいたが、自分では水を出すこともできないため、素直にいただこうとした。
こんな状況で、姉をさっそく頼ることもはばかれたためである。
「あ、ありがとう、ございます」
渡されたコップに口をつけるカレン。
そんなカレンを見つめていたルチアも自分のコップに口をつけ、中身を一気に飲み干す。
「「ふぅ〜……」」
二人揃って大きなため息をつき、つい顔を見合わせる。
「あはは、疲れ、ましたね……」
「えぇ、まさか、こんなにハードとは……」
苦笑いのような、照れ笑いのような、微妙な笑顔を浮かべる二人。
「あの、お水、ありがとうございます」
そう言ってコップを差し出すカレン。
「いいですよー。水はいくらでも出せますので。おかわりいります?」
ルチアは手から魔法で水を出しコップへと注ぐ。
「えぇと、じゃあ、いただきます」
遠慮しようとも思ったが、ここまでの移動で喉が渇いていることもあり、カレンはそれを素直に受け取った。
その後、二言三言会話したのち、再び移動を開始した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ」
休憩を取ったとはいえ、短時間で疲労が全て抜けるわけではない。
カレンとルチアの二人は早々に息が上がっていた。
自分たちのせいで移動スピードが落ちている。
コトミとアウルが後ろを振り向く度、速度を落とされる度に、二人は言いもよらぬ無力感に苛まれていた。
「カ、カレンさん……大丈夫、ですか?」
「だ、大丈夫、です。これぐらいは……。ルチアさんの、方こそ、大丈夫、ですか?」
息も絶え絶えという中、少女たちは必死に食らい付いていく。
コトミの義妹であるカレンとアウルの実妹であるルチア。
同じく姉を持つ妹として、二人は苦しい旅路へも負けじと付いていく。
「わ、わたしは、お姉ちゃんと、共にいたい」
「ワ、ワタシも、です。姉さんの、隣に、立つのです」
二人の想いは同じ、志も目指すべきところも同じである。
道幅が狭くなり、ルチアが先行する。
途中足元が悪くなり、岩場を登ることとなった。
身体の小さなルチアであるが、魔法を使えば段差などはなんとでもなる。
岩場の間に小さな岩を出現させ足場にしていく。
「カレンさん」
数段上ったところで、ルチアは振り向き手を差し出す。
その手を見て驚くカレン。
こうやって、手を差し伸べられたことは、今までの人生の中で何度あったことであろうか。
残念なことに、姉であるコトミ以外にその記憶はほとんどない。
そんなことを考えながらも、カレンはその手を取った。
支えられながらも登った岩場。
魔法により足元がよくなったとはいえ、滑りやすい場所である。
手を取ったのは正解であろう。
「あ、ありがとうございます」
「ふふ、滑りやすそうでしたから」
そう言って、今度は降って行く岩場。
「……ルチアさん」
登りよりも降りの方が滑りやすい。
カレンはそう思い、意を決して手を差し出す。
「あ――ありがとうございます」
ルチアも少々驚きはしたが、素直にその手を取り、ゆっくりと降りていく。
その後も時には譲り、手を取り合い、前へと進んでいく二人であった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ」
もう限界――二人がそう思ったところ、やっと目的地に到着した。
立ってもいられない状態の二人はその場へとへたり込む。
「カ、カレンさんは……」
「だ、大丈夫、ルチアさんは……」
「わ、わたしもなんとか……。あ、水、出しますね」
そう言ってリュックからコップを取り出すルチア。
「……ごめんなさい。もらってばかりで……」
切れていた息を整え、申し訳なさそうにするカレンへルチアが答える。
「そんなこと気にしなくていいですよ。わたしには、わたしにしか出来ないこと、カレンさんには、カレンさんにしか出来ないこと、があるのですから。わたしもいつかはカレンさんを頼りますので、その時はお願いします」
うなだれるカレンを励ますように自分の気持ちを伝え、魔法で出した水のコップを渡す。
「……わかりました」
そんなカレンを微笑ましく思いながらルチアはコップを空ける。
「ふぅ……。それにしても疲れましたね……」
話を変えるかのようにルチアが言葉をかける。
コトミはシロと共に食料を求め、茂みへと消えた。
アウルはリーネルンと何やら話をしており、忙しそうにも見える。
「わたしたちも、何か手伝えないですかね」
「……そうですね」
カレンとルチアが周囲を見回しながら何かないかと考える。
疲れてはいるが、いつまでも休んでいるわけにはいかないからだ。
「ルチアさん……。あの湖、魚がいそうです」
「え? そうなんですか? どうやって……あぁ、魔眼ですか。便利な能力ですね」
カレンの方を向いたルチアは、瞳が朱色に輝いているのを目にし、納得したかのようにうなずく。
「使いどころは限られますけどね。ルチアさんの魔法の方がよっぽど使いやすそうです」
「あはは、それはそうかもしれませんが、カレンさんの特殊能力は、それはそれで役に立つと思いますよ」
そう言ってお尻をはたきながら立ち上がるルチア。
「それじゃ、いっちょ魚釣りへといきますか」
「……え?」




