表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
281/300

281 〔体力のない二人〕

「はぁ、はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ、はぁ」


 コトミやアウルが先行する中、辛そうに呼吸をする少女が二人、その後を付いていく。

 草木が生い茂っている道ではあるが、先行する少女たちが道を踏み締めているため、さほど歩きづらいわけではない。

 しかし、そうはいっても体力面で劣る少女二人には辛い道のりである。


「んー、ちょっと休憩しようか」


 コトミのその一声を聞いて、近くの幹へと腰を下ろすカレンとルチア。


「「はぁ……はぁ……」」


 二人ともかなり限界ではあった。


「少し、休憩……」

「カレンさん。水、いります?」


 疲労でうなだれるカレンにルチアがそう声をかけた。

 カレンはそんなルチアに驚きを隠せないでいたが、自分では水を出すこともできないため、素直にいただこうとした。

 こんな状況で、姉をさっそく頼ることもはばかれたためである。


「あ、ありがとう、ございます」


 渡されたコップに口をつけるカレン。

 そんなカレンを見つめていたルチアも自分のコップに口をつけ、中身を一気に飲み干す。


「「ふぅ〜……」」


 二人揃って大きなため息をつき、つい顔を見合わせる。


「あはは、疲れ、ましたね……」

「えぇ、まさか、こんなにハードとは……」


 苦笑いのような、照れ笑いのような、微妙な笑顔を浮かべる二人。


「あの、お水、ありがとうございます」


 そう言ってコップを差し出すカレン。


「いいですよー。水はいくらでも出せますので。おかわりいります?」


 ルチアは手から魔法で水を出しコップへと注ぐ。


「えぇと、じゃあ、いただきます」


 遠慮しようとも思ったが、ここまでの移動で喉が渇いていることもあり、カレンはそれを素直に受け取った。

 その後、二言三言会話したのち、再び移動を開始した。



「はぁ、はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ、はぁ」


 休憩を取ったとはいえ、短時間で疲労が全て抜けるわけではない。

 カレンとルチアの二人は早々に息が上がっていた。

 自分たちのせいで移動スピードが落ちている。

 コトミとアウルが後ろを振り向く度、速度を落とされる度に、二人は言いもよらぬ無力感に(さいな)まれていた。


「カ、カレンさん……大丈夫、ですか?」

「だ、大丈夫、です。これぐらいは……。ルチアさんの、方こそ、大丈夫、ですか?」


 息も絶え絶えという中、少女たちは必死に食らい付いていく。

 コトミの義妹であるカレンとアウルの実妹であるルチア。

 同じく姉を持つ妹として、二人は苦しい旅路へも負けじと付いていく。


「わ、わたしは、お姉ちゃんと、共にいたい」

「ワ、ワタシも、です。姉さんの、隣に、立つのです」


 二人の想いは同じ、(こころざし)も目指すべきところも同じである。


 道幅が狭くなり、ルチアが先行する。

 途中足元が悪くなり、岩場を登ることとなった。

 身体の小さなルチアであるが、魔法を使えば段差などはなんとでもなる。

 岩場の間に小さな岩を出現させ足場にしていく。


「カレンさん」


 数段上ったところで、ルチアは振り向き手を差し出す。

 その手を見て驚くカレン。

 こうやって、手を差し伸べられたことは、今までの人生の中で何度あったことであろうか。

 残念なことに、姉であるコトミ以外にその記憶はほとんどない。

 そんなことを考えながらも、カレンはその手を取った。

 支えられながらも登った岩場。

 魔法により足元がよくなったとはいえ、滑りやすい場所である。

 手を取ったのは正解であろう。


「あ、ありがとうございます」

「ふふ、滑りやすそうでしたから」


 そう言って、今度は(くだ)って行く岩場。


「……ルチアさん」


 登りよりも(くだ)りの方が滑りやすい。

 カレンはそう思い、意を決して手を差し出す。


「あ――ありがとうございます」


 ルチアも少々驚きはしたが、素直にその手を取り、ゆっくりと()りていく。

 その後も時には譲り、手を取り合い、前へと進んでいく二人であった。



「はぁ、はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ、はぁ」


 もう限界――二人がそう思ったところ、やっと目的地に到着した。

 立ってもいられない状態の二人はその場へとへたり込む。


「カ、カレンさんは……」

「だ、大丈夫、ルチアさんは……」

「わ、わたしもなんとか……。あ、水、出しますね」


 そう言ってリュックからコップを取り出すルチア。


「……ごめんなさい。もらってばかりで……」


 切れていた息を整え、申し訳なさそうにするカレンへルチアが答える。


「そんなこと気にしなくていいですよ。わたしには、わたしにしか出来ないこと、カレンさんには、カレンさんにしか出来ないこと、があるのですから。わたしもいつかはカレンさんを頼りますので、その時はお願いします」


 うなだれるカレンを励ますように自分の気持ちを伝え、魔法で出した水のコップを渡す。


「……わかりました」


 そんなカレンを微笑ましく思いながらルチアはコップを空ける。


「ふぅ……。それにしても疲れましたね……」


 話を変えるかのようにルチアが言葉をかける。

 コトミはシロと共に食料を求め、茂みへと消えた。

 アウルはリーネルンと何やら話をしており、忙しそうにも見える。


「わたしたちも、何か手伝えないですかね」

「……そうですね」


 カレンとルチアが周囲を見回しながら何かないかと考える。

 疲れてはいるが、いつまでも休んでいるわけにはいかないからだ。


「ルチアさん……。あの湖、魚がいそうです」

「え? そうなんですか? どうやって……あぁ、魔眼ですか。便利な能力(ちから)ですね」


 カレンの方を向いたルチアは、瞳が朱色に輝いているのを目にし、納得したかのようにうなずく。


「使いどころは限られますけどね。ルチアさんの魔法の方がよっぽど使いやすそうです」

「あはは、それはそうかもしれませんが、カレンさんの特殊能力は、それはそれで役に立つと思いますよ」


 そう言ってお尻をはたきながら立ち上がるルチア。


「それじゃ、いっちょ魚釣りへといきますか」

「……え?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ