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28 遠慮のない友人

「日が傾いてきたし、今日はここで野宿かな」

「そうだね。いい食料も手に入ったし」


 クマの方を向きながらつぶやく。

 場所としてもちょうど開けている所だからいいかな。


「じゃあ、薪拾ってくる」

「あ、私も行くよ。一人で行動しないで」


 茂みの中へ入っていくリンちゃんを制し声をかける。


「もう、コトミは過保護なんだから」

「私は魔法が使えるけど、リンちゃんはそうもいかないでしょ」

「う~ん、銃の弾さえあれば良かったんだけど……そうだ!」

「え?」


 二人で茂みの中へ足を踏み入れたところでリンちゃんが何かに閃く。


「コトミ、今度からワタシの銃弾も収納してくれない? 軽いし、かさばらないから、さ!」

「ななな……!」

「やっぱり銃器類は弾切れが心配だし、いざというときに困るからさ!」

「…………」

「コトミ……?」

「私は荷物持ちじゃなーいっ!!」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「コトミ~、機嫌直してよ~」

「…………」


 ぷんぷん! と音が聞こえそうな様子で、端から見ても不機嫌なのが丸わかりである。


「まったく……遠慮がないのはいいことだけど、少しは遠慮しなさい」


 ぶつくさいいながらクマを切り分けていく。

 本当は熟成させた方がおいしいんだけど、今は仕方がない。

 前の世界では、すぐ焼いて食べていたから別に問題はない。


「コトミさん、薪を積みました」


 敬礼しているリンちゃんの足元には昨日より大き目に組んだ薪がある。


「はぁ……。いいよ、もう怒っていないから。普通にして」

「ホント!? やった!」


 現金なもんだ。

 切り取ったクマ肉を魔法を使って洗い流す。

 二人だけだし、そんなに量はいらないだろう。

 昨日と同じく、大きい葉っぱに肉を乗せて薪の位置へと移動する。

 指先に小さい火種を灯し、魔力を使って薪の塊の中へ。

 魔法で編み出した火種はなかなか消えず、徐々に薪へと炎が移っていく。


「は~、やっぱり便利だね」

「さっきから便利としか言っていないじゃん」

「いやー、でも便利としか表現できないよね」

「はぁ……まったく、ほら、ボトル貸して」


 放っておいても問題ないほどに焚き火は大きくなったし、次は水分補給だ。


「んっ」


 リンちゃんから手渡されたボトルに手をかざし水を出す。


「ほら、べん……」

「それ以上言ったらかけるからね。水」


 指先に水球を作り、リンちゃんを睨む。

 両手を口で覆うリンちゃん。


「はぁ……」

「コトミ、さっきからため息ばっかりだよ」

「誰のせいだと思っているのよ! 誰の! まったく……はい、水」

「ん、ありがとう。んく、んく」


 私も同じように、自分のボトルから水を飲む。


「遭難したときはどうしようかと思ったけど、コトミが一緒で良かった」

「……それは便利な道具としてだよね」


 口についた水滴を拭き取りながらそう答える。


「それもあるけど、なんか、頼りになるって言うかさ、優しいとことか、カッコいいとことか、いろいろかな」


 予想もしていない答えに戸惑う。

 これは怒るところか喜ぶところか……。


「コトミって前と比べて、良く喋るようになったよね」

「……そんなことないよ。余計なことを喋らないだけ」


 いきなり何を言い出すのか、この子は。


「その『余計なこと』が友達のコミュニケーションには必要なんじゃないの? 事務連絡ばっかりじゃ一緒に話していても楽しくないし、友達になりたくもないよ」


 そんなん言われてもな。

 テスヴァリルにいた時からこんな感じだし、一緒にいたあいつに対しても同じような対応だったし。

 ギルドや酒場の面子に対してもそう。


 ……って、大人になったいま考えると、かなり印象悪いな、私。

 でも、仕方ないじゃん。性格なんだし。

 生まれ変わってからは人生やり直しって事で、過去のことは気にしないようにしているけどね。

 ただ、人との付き合い方というか、距離感を測るのは相変わらず苦手ではある。


「でも、その割にリンちゃんは私とよく一緒にいるよね。リンちゃんの理屈だと、私は友達対象外なんじゃないの?」

「ワタシは別にコトミと友達になりたくないなんて思っていないよ。むしろ逆、興味を持っている」

「興味って……」

「コトミって他の子たちより大人びているし、ミステリアスな感じだしね。極め付けは魔法少女だったし。よく、今までバレないで生きてこれたね。子供だと魔法が使えたら人に自慢しそうだけど」


 うっ……。

 確かにリンちゃんの言う通り、普通の子供なら人に自慢していそう。

 でも、私は前世の記憶持ちだし、世間の常識を理解しているから、この魔法が異様な力だと言うこともわかっている。

 だから隠していたんだけど……。


「ふふふ、コトミはわかりやすいよね。まだ隠し事ある顔をしている」

「ううっ……」

「でも、無理矢理聞き出すつもりはないよ。話せる時になったら、話してね?」

「リンちゃん……」


 さすがに転生者というのは話せない。

 いや、知られても問題無いのかもしれないけど、年齢差が……。

 精神年齢だけで言えば、リンちゃんと十八歳差なんだよね。

 いままでの言動も含め、大人としての威厳が……。

 うん、いましばらくは黙っていよう。

 魔法と違って言う必要もないから、できればこのまま隠し通そう。


「……なんか、闇が深そうだねぇ」


 リンちゃんが私の方を見ながらそんなことを言う。

 間違ってはいないけど、あまり詮索しないで。

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