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278 サバイバル訓練

 テスヴァリルには科学という便利な物はない。

 暗闇を照らすような電気はないし、火を(おこ)すには薪がいり、水は井戸や川から汲む必要がある。

 そんな原始的な生活を強いられるため、出来ることなら行くまでに慣れておきたい。


「――と、いうわけで、サバイバル訓練をするよ」

「何が、『というわけ』なんだか……」


 アウルからのツッコミは無視して話を進める。


「テスヴァリルに行ったら否が応でも野宿は必須だし、お風呂にもなかなか入れない。衛生管理もまともに行き渡っていない世界だから――正直汚いし臭い」


 最後の言葉のところで顔をしかめるカレンとリンちゃんとルチアちゃん。

 まぁ、キレイにしている人はそんなことないけどね。

 この世界と比較しちゃうと圧倒的に少ないけど。


「ま、いきなり馴染めとは言わないけど、ちょっと練習がてら森に入って生活してみよう」


 このデネイラは膨大な土地があり、当然一部には生い茂った森がある。

 素人であれば遭難しかねないそんな森に、私たち六人はやってきた。


「同行する人たちによって荷物は変わってくるね。例えば、魔法使いがいれば大量の水は必要ないね。あぁ、ただ死んじゃったら水もなくなるから、その時のために少量は持っていた方がいいかも。火(おこ)しも同様だね」


 森の中に入りながら、昨日も説明した内容を復習する。

 気温は少し汗ばむ程度だけど、森の中は空気がヒンヤリとしており、過ごしやすい。


「これぐらいの気候ならあまり分厚い防寒装備はいらないけど、夜になると冷えるから毛布の一枚ぐらいは合った方がいいよね」


 当然、それも昨日のうちに伝えられていて、全員が持参している。

 そのためみんなそれなりの荷物を抱えている。

 小さい身体に大きなリュック。

 私やアウルは慣れているけど、カレンやルチアちゃんは辛そうだ。

 リンちゃんは――案外平気そうだな。

 ちょっと前に遭難したときも案外タフだったし、そういうことに慣れているのかもしれない。

 シロは妖精だし、大した荷物を持っていない。

 自分の食べる甘味だけ持ってきている。

 ……ピクニックかよ。



「んー、ちょっと休憩しようか」

 説明しながら行進を続け一時間ほど経過。

 まだ、あまり奥に来ていないけど、カレンとルチアちゃんがどうやら限界っぽい。

 肩で息をしながらうな垂れている。

 まぁ、あまり無理しても仕方がないしな。

 木の幹に腰を下ろす二人を横目に、アウルとリンちゃんを見るが、こちらの二人は特に問題ないようだ。


「リンちゃんも案外タフだねぇ」

「なによ。このまえ遭難したときも一緒だったじゃない」

「確かにそうだ。ずいぶん前のことのように感じるけど、まだ数ヶ月しか経っていないんだよね」


 リンちゃんと初めて出会ったのは学年が変わってすぐぐらいだったかな。

 その時は普通のお嬢様って感じが……しなかったな、うん。

 リンちゃんの(さげす)むような視線から逃げるようにカレンたちの方へと足を向ける。

 相変わらず心が読まれやすいようで……。


「体調はどう?」

「あ、姉さん……。すみません。ご迷惑をおかけして」

「迷惑ともなんとも思っていないから。テスヴァリルに行ったら否が応でも体力は付くからね」


 カレンとルチアちゃんの口元がヒクついているけど、まぁ、向こうに行ったら鉄道や車なんて便利な物は無いからね。

 基本的に移動は歩きか、よっぽど遠ければ馬車になるんだし。

 少しずつでいいから体力をつけていってもらおう。

 水は――と思ったらルチアちゃんが出してくれていたか。カレンの分も注いでくれているようだ。

 いまは二人そっとしておこう。


「んー、周囲はどうかな」


 テスヴァリルと違って魔物なんてものはいないから基本的に危険は少ない。

 ただ、この前みたいに、突然クマに襲われることもあるし、気を引き締めていかなきゃ。


「今のところ問題なさそうだね」


 私の言葉にそう返すアウル。

 それならもうちょっと進むか。

 クマがいないのはいいことだけど、ご飯になるような獲物もいないのはちょっと困る。

 せめてウサギやイノシシのような食べられる獲物がいればいいなぁ、とは思う。


「ルチアさんは、大丈夫ですか?」

「あはは、あまり体力には自信がないんですよ。カレンさんこそ、大丈夫ですか?」


 周囲の様子を見ていると、二人の会話が耳に入ってきた。


「……ワタシは、姉さんの足手まといに、なりたくない」

「うん。わたしも、です。お姉ちゃんの隣に並ぶため、こんな所で立ち止まっているわけにはいかないのです」


 二人は共にうなずき、支え合いながら立ち上がる。

 微笑ましいものを見た気がするな。

 そろそろ出発か――そう思い、アウルの方に目をやると、(とうと)いものを見るような目で二人を見つめていた。


「……その顔、なんかムカつくなぁ」

「いきなりのディスり!? そんなことを言うコトミだって母性溢れるいい笑顔――って、森の中でファイアーボールは火事になるって!?」


 アウルの叫びに、指先に灯した火の玉を揉み消す。


「はぁ。バカなこと言っていないで、先に進むよ」


 リンちゃんが呆れ、カレンとルチアちゃんがクスクスと笑う。シロはいつもどおり。

 そんな賑やかしい今だけの六人パーティーでゆっくりと森の中へと進んでいく。

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