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273 〔少女二人の墓参り〕

「この街に来るのも久し振りだねぇ。まさか、また訪れることができるとはね」

「本当だね。何年振りだろう。内乱があったころだから――四、五年振りぐらい?」


 日差しがサンサンと降り注ぐ中、アウルとルチアは乗ってきた鉄道を下りる。

 ちなみに今日はお忍びでの移動である。

 メディアから逃れるため、二人とも帽子を目深く被り、慣れないサングラスを付けている。

 デネイラから出るときは追っ手を撒くため空を飛んだ。……戦争の時と誘拐事件の帰りと同様、生身で。

 正直目立ってはいた。しかし、今更ではある。


「そうだね。ルチアは街に見覚えはあるかな?」

「う〜ん、なんとなく、かなぁ。子供時代のころの記憶なんてあてにならないし。……あ、お姉ちゃんは中身が大人だから覚えているのか」


 ルチアの容赦ない一言に愛想笑いを返すアウル。


「あはは……」


 ルチアの言うとおり今から四、五年前ぐらいのことは普通に覚えている。

 精神年齢はすでにアラサーなのだから……。


「えっと、道はこっちだね」


 見覚えのある風景と、事前に調べていた地図を頭の中ですり合わせ、道筋を導き出す。

 テスヴァリルへ行くと決めてから身辺整理――というより、この世界でやり残したことを片付けようということになった。

 リーネルンの護衛もあるため、全員で行くことはできず、今日はアウルとルチアの二人だけである。

 ヘルトレダ国の首都から鉄道で二時間程度。

 辺境なところにある街へと向かう。


 目的地まで空を飛んで行くこともできたが、風情も何もない上に、空の上は正直寒い。

 短距離、短時間であればさほど苦でもないが、長距離、長時間、の飛行は正直身体にこたえる。

 結局、鉄道と飛行機を利用しての移動としたため時間がかかるが、護衛対象であるリーネルンの近くにはコトミがおり、今日一日留守にしても問題はない。

 久し振りに姉妹の時間を楽しむ二人であった。


「……まさか、またこうやって二人で出かけられるとは思わなかったな」

「ん、そうだね。わたしが魔力過多症で寝込んでいた時はそれどころじゃなかったしね。……あの時のことは、本当に感謝しているよ」


 アウルの漏らした言葉にそう返すルチア。

 ルチアの体調が回復してからまださほど時間が経っていない。

 当時のルチアは外を出歩くこともままならず、死を待つしかない状況ではあった。

 そんな状況から復帰し、夢にまで見た二人での外出。


「…………」


 突然のルチアの感謝に、咄嗟には言葉の出ないアウル。


「それは、お互い様、だよ。私もルチアの存在は心の支えだった。ルチアが居たから頑張れたんだ」

「ふふふ。わたしも頑張ったからねー。でも、その頑張りもお姉ちゃんが居てこそだよ」

「いやいやいや、ルチアのおかげだよ」

「いーや、お姉ちゃんのおかげ」

「いや、ルチアの――」

「お姉ちゃんの――」

「「…………」」

「あはは――」

「ふふ、ふふふ――」


 のどかな街の風景に、姉妹の笑い声が吸い込まれるように溶けていく。

 ひとしきり笑い合ったあとに、二人は顔を見合わせ笑顔でうなずきあう。


「うし、それじゃ行こうか」

「うん。道案内よろしく」


 のどかな街を道なりに歩いていく。

 すれ違う通行人がいても、アウルやルチアに気がつく素振りもない。

 二人の髪色は珍しく、例の少女たちとの共通点も多いが、堂々と歩いていると逆に気がつかれないものである。

 もしくは、ロフェメル国の少女がヘルトレダ国に居るわけがないとも思っているのかもしれない。


「おっと、ここかな」


 アウルが曲がった路地の先には開けた場所、公園のように見える――共同墓地だ。

 クリューデ家――アウルとルチアが内乱に巻き込まれ、両親を亡くしたのが五年ほど前。

 当時は今よりも子供で、力もお金も無い。

 両親をまともに(とむら)ってやることもできなかったのだ。

 今であれば、お金もあり、クリューデ家の墓を建てることもできるが――。


「これが、最初で最後の墓参りかな」


 アウルとルチアの手にはそれぞれ墓花(はかばな)が握られており、そっと墓前に供える。


「「…………」」


 無言で目をつむり、故人をしのぶ二人。

 静かな共同墓地に葉擦(はず)れの音だけが響き、心地良い風が二人の頬を撫でる。


「……いいかな?」

「うん。ちゃんと、お礼とお別れをしたよ」

「あはは、親不孝者と思われたりしないかな?」


 少々後ろめたい気持ちを抱きながら頬をかくアウル。

 慌ただしく、今まで墓参りにさえ来ることもできなかった。

 今後は――と思いもしたが、テスヴァリルに行くのであれば、もう二度と来ることもできない。

 そんな娘たちに対し、両親はどう思うのだろうか。

 心配しているアウルを余所にルチアが口を開く。


「そんなことないよ。お姉ちゃんはちゃんと妹を守ったし、命を繋いでくれた。パパとママのことは残念だったけど、わたしたち二人が元気でいること、それがきっと一番の親孝行だよ」

「そう……だね。そうだと、いいな。……父さん、母さん、どうか安らかに――」


 もう一度、眠る二人に向かって目をつむるアウル。

 ルチアもその様子に笑みを浮かべ、同じように目をつむる。

 唯一の姉妹にして、唯一の肉親。

 今後辛いことが待ち受けていようとも、二人で助け合い協力して乗り切っていこうと、そう思うアウルとルチアの二人であった。

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