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27 バレた魔法使い

 一人ならまだしも二人揃って走るには場所が悪すぎる。

 少し走っただけでも(つまず)くような場所だ。


「追っかけてくるよ!」

「リンちゃんっ、前!!」

「あっ!!」

「リンちゃん!?」


 リンちゃんが木の根を飛び越えようとし、ぬかるみに足を滑らす。


「大丈夫!?」

「あいたたた、足をちょっと捻ったみたい」


 クマの方を見ると、すぐ目の前まで迫ってきている。

 くっ……。


「コトミ、先に行って」

「え……?」

「ワタシは……もう走れないから。時間稼ぎは任せて」


 ホルスターから銃を抜き出し、リンちゃんが構える。

 っ――。

 おぶるか?

 魔法で治してから走るか?

 ……いや、もう間に合わない。

 発砲音が響く。

 一度、二度、三度、と。


「コトミ! 早く行って!」


 銃弾でクマは怯んでいるが、致命傷にはほど遠い。


「…………」


 発砲音がしなくなった。弾切れだ。

 リンちゃんを、見捨てるわけには……いかない。

 覚悟を決めろ私。


「リンちゃん、私、秘密にしていたことがあったんだ」

 ――魔力を練り、リンちゃんの足首に手を触れ治癒を施す。


「え……?」


 赤くなっていた足首の腫れが引いていく。


「今まで内緒にしていて、ごめんね」


 横目でクマを見る。

 あと数メートルまで迫ってきたところで、振り向き様に――、


「炎弾っ!!」


 獣は火に弱いってことはどこの世界でも同じである。


「グゥァァァッッッ!!」


 顔面に向けて放った炎弾は少しだけ焼いたようだが、手に払われあまりダメージになっていない。


「ふっ――!!」


 収納から取り出したナイフを続けて投げ――同時に駆ける。

 先に投げたナイフは分厚い毛皮に弾かれ、こちらもノーダメージ。

 数歩で最高速度に達し、クマに飛び付く。

 クマごときにやられないよっ!

 巨体の横をナイフで切りつけながら駆け抜ける。


「グァアアッッ!!」


 傷は浅い。

 振り向き、次の攻撃に切り替えようとしたところ、重量を持ったクマの前足が振り下ろされる。


「――転移」


 そのまま前足を通り過ぎるかのように真上に転移する。

 クマは空振りしたことによりバランスを崩す。

 目の前まで来たクマの頭に手を添え――、


風槌(ふうづち)っ!」


 真下に向け放つ。


「グフッッッ!!」


 全力で放った風槌はクマほどの重量でさえ軽々と吹き飛ばし、全身を地面に打ち付ける。

 風槌の反動を利用しながら空中で一回転し、遠心力でナイフを真下に投擲する。

 この一撃はクマにとってはかすり傷だけど――。

 風魔法を利用し、自分自身の落下速度を上げる。

 短い距離で十分加速し、先ほど投げたナイフめがけ落下!


「グァァァァッッッ!!」


 浅く刺さっていたナイフが、私の体重を受け深々と刺さる。

 だけど、まだクマは死なない。

 とどめ――。


雷撃(らいげき)!」


 刺さっているナイフを目掛け、全力の雷魔法を撃ち込む。

 全身を駆け巡る大電流で血液は沸騰し、肉は焼かれ、筋は断裂する。

 声も出せないほどの激痛が襲い、クマが絶命する。


「グォゥ……」


 クマの最後の一声を境に、静寂が訪れる。


「…………」

「コトミ……」


 後ろからリンちゃんの声が聞こえる。

 ……あぁ、やっちゃったよ。

 でも仕方ないじゃん。

 あの状況で二人とも助かるにはそうするしかなかったんだから。

 後悔はしていない。

 していないんだけど、リンちゃんとの関係もこれまでかな。

 強すぎる力は恐怖の対象となる。

 それが、非現実な力であればなおさらに。

 銃器類みたいに、誰しもが持てる力ではないのだから。

 嫌われちゃったかなぁ。

 せめて言いふらしたりしないように約束だけしよ。

 そんなことを考えていると、後ろから抱きつかれた。


「リン、ちゃん……?」

「コトミ、助かったよ。ありがとう」

「どういたしまして……って、リンちゃん、怖くないの?」


 抱きついてきたリンちゃんの手を握り、後ろを振り向く。


「うん? 何が? クマ?」

「違うよ、私だよ。私、魔法使えるんだよ?」


 手を横に出し、指先に火を灯す。


「すごいじゃん。魔法少女だね」

「そんな、いいものでもないけど……」

「確かに、魔法って空想の物語の中だけだし、使えるって言う人は頭のおかしい人だけだし。そんな世の中で魔法を使えるって、普通に考えたら――怖いよね」

「……うん」


 そう……だよね。この世界で、人と違うことは恐怖の対象となる。

 それが、友達や両親だとしても……。


「だけどね、コトミはワタシを助けてくれた。魔法使いってことがバレるのに、ワタシを助けてくれた。そんな命の恩人を怖がるなんて、あり得ないよ」

「リンちゃん……」


 いい、のかな? 魔法を使える、人と違っても、友達のままで、いいのかな。

 リンちゃん――いい友達を持ったな――。


「それに、魔法使いが一緒だと便利そうじゃん!」


 ピキッ。


「きっと、水も出せるんだよね! 早く言ってよ! のど乾いているんだから!」

「……えと、リンちゃん?」

「今度から水とファイアスターター要らないね! あ、でも飲むためにはコップが必要か……。ねぇ、コトミはマンガとかでよくある収納魔法は使えないの?」

「使えるけど……」

「それならコップもお願いっ!」

「…………」

「ん? どうしたの?」

「……で」

「え? なんて言ったの?」

「人を便利道具みたいに使わないで!」

「うひぁ!」


 耳元で大声出したため、リンちゃんがビックリして飛び上がる。


「心配して損した! 魔法ってそんなに受け入れられるものなの? 普通、畏怖(いふ)されて、魔女狩りとか、そういうことになるんじゃないの!?」

「うーん、ワタシは偏見とか持ってないしねぇ。コトミが目からビーム出しても驚かないよ」

「私に対しての見方酷くない!?」


 相変わらずこの子は突拍子もないことを言う。

 さすがに魔法の世界でも目からビームを出す人はいなかったよ。

 ……いなかったよね?


「あはは、バカだねぇ。ワタシはコトミのことを大事な友達だと思っているんだよ? その友達が、悪魔でも、天使でも、魔王でも、もちろん魔法使いでも、大事な友達に代わりはないよ」

「う……」

「逆に、内緒にしていたことに怒っちゃう」

「……それは、便利に、楽ができなかったから?」

「あはは、バレちゃったか」


 頭をかきながらはにかむように笑う。


「……バカ」


 リンちゃんを抱き締める。


「ん、バカ同士これからも仲良くいよう」

「うん……」

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