267 食欲旺盛な少女たち
フリックさんの車で、来た道を戻るように走り続ける。
無事に終わった一日のはずだけど、車の中の雰囲気は重苦しく、誰もが楽観的になれないものであった。
「…………」
結局、リンちゃんもしばらくは私たちと一緒に行動しようという話になった。
ペリシェール家にはリンちゃんが無事だということも連絡済み。
そして、しばらく戻れないことも。
やらなければいけないことは山積みであるが、そこはアノンさんとロベルトさん、あとはクロエさんというメイドの方に頑張ってもらうそうだ。
少し不安でもあるが、リンちゃんが大丈夫というから……まぁ、うん。気にしないようにしよう。
「夜ご飯はどこにする? 私が決めていいかな?」
ヘルトレダ国の首都、ロキシカの街へ戻ってきた。
日も沈み、いい時間となったので今夜はこの街で泊まろうということになった。
久し振りに六人全員揃った私たちは今晩のご飯を探すため、街中を歩いている。
ちなみにフリックさんは旧友に会ってくるというとかで別行動だ。
ただ単に気をつかわれただけなのかもしれないが。
「うん。任せる。この街、あまり詳しくないし。コトミはカレンと数日滞在していたよね?」
リンちゃんからそう言われ、私はうなずく。
「そうだね。特に希望がなければ、個室でゆっくり出来るところがあるからそこにしようか。ホテルも同じ所でいいかな」
「うん。任せた」
アウルやルチアちゃんも特に希望がないため、私が何度か足を運んだお店にやってきた。
シロもいつもどおり付いてきている。
久し振りにやってきたお店はご飯時ということもあり、かなり盛況だった。
入れるかちょっと心配だったけど、いつもの店員さんと目が合うと手招きされ、優先的に中へ入れてくれた。
え? いいのかな。
そんなに贔屓にしていたつもるはないけど……。あぁ、カレンとシロのせい……というよりおかげか。
きっと客単価が高いからだろうなぁ。
その分、お店も忙しくなるだろうけど、料理提供が遅くても私たちは文句言わないし、逆に長時間いられるからこちらとしてもメリットあるし。
うん。持ちつ持たれつつ……ってちょっと違うか。
そんなことを考えているといつもの部屋より少し大きめの部屋へと案内された。
「へぇ……。結構いいお店だね。VIP待遇みたいだし。コトミたちは結構利用しているの?」
「う〜ん。頻度はそんなことないんだけど……。まぁ、あとでわかるよ」
「……?」
リンちゃんが訝しげな顔をするが、それ以上何も言うことなく、席に座る。
「えと、これと、これと、それ……あと、これも……」
「「「…………」」」
リンちゃんとアウル、ルチアちゃんが無言で私の言葉に耳を傾けている。
「これと、こちらも……。えぇ、二つずつで……」
し、視線がいたたまれない……。
いつもどおりの注文。
店員さんはもう慣れたのか、作り笑いの笑顔で注文を受けていた。
今回はカレンじゃなくて、私が注文した。
いきなりだとビックリするし。誰がとは言わない。
この三人はカレンとシロが大食いだってことをまだ知らないしね。
説明するより、直接見たろうが早いだろうから。
「……こほん。……そんなに見つめられると照れるな」
てへっ。ってな感じで三人に向かっておどけてみせる。
それが合図となったのか――。
「いやいやいや。どれだけ頼んだのよ? ワタシたちは自分の分を頼んだし、仮にコトミたち三人の分だとしても十人分以上頼んだでしょ? それ、誰が食べるのよ……」
うん。普通はそういう反応するよねー。
「……ま、見てればわかるよ」
そう答えると、三白眼をしたカレンから、『姉さん、説明が雑過ぎます』というクレームが届いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「「「…………」」」
料理が少しずつ届き、初めは和やかな雰囲気で食事を進めていた。
会話も――今日はいろいろあったが――和気あいあいと弾んでいた。
それが後半になるにつれ口数が減り、リンちゃんやアウル、ルチアちゃん三人が食事を終えると、目の前の光景を凝視しだした。
カレンとシロはそんな視線を気にしない。
私も食後の紅茶を嗜みながらそんな空気に耐える。
「……人の食事姿をそんなマジマジ見ないでほしいな」
一応、カレンとシロのことをフォローするつもりで注意する。
「いやいやいや……。だって……」
リンちゃんが呆れるように言葉を失う。
「あはは……こんなに食べるんだね。二人とも……」
「凄いですね。こんな小さな身体のどこに入るんでしょうか」
アウルとルチアちゃんも同じような感想を漏らす。
「ま、いつもこんな感じだから、あまり気にしないであげてね」
「それは……いいんだけど。ヘイミムの街に居るときはそんなに食べていなかったよね?」
あー、まぁ、うん。一応、カレンたちも遠慮という言葉を知っているんだよね。
さすがに人様の家でいきなりこの量は頼めないわな。
「はぁ……。そんな遠慮しなくていいのに」
リンちゃんがため息をつきながら、こめかみを指で揉んでいる。
それはどっちの意味で頭を悩ませているんだろうねー。
「……ふぅ」
そんな話をしている最中、カレンが一息つく。
お、次はデザートかな?
「……カレン」
私がテーブルの端に追いやられたデザートを並べている時に、リンちゃんが口を開く。
「はい? なんでしょうか?」
次のお皿に手を出しながらカレンが返事をする。
「……ゴメンね。そんなに食べるとは思っていなかったから……。ヘイミムの家ではご飯少なかったよね?」
スプーンをくわえながら、カレンが驚愕に目を見開く。
「あ……いえ、その……。あまり、気にしないでください。我慢は、できますので……」
思ってもいなかった謝罪に戸惑うカレン。って、やっぱり我慢はしていたのか……。
「うぅん。それでもゴメン。コトミもちゃんと言ってくれればいいのに」
「いやー、さすがに食べ過ぎでしょ? カレンも大丈夫って言っていたしね?」
言ったよね? 念視で伝わっただけ、だけど。
「はい。リンさんに、迷惑かけるわけにもいかなかったので……」
「迷惑だなんて思わないわよ。ワタシも……みんなの仲間、じゃないの? 出来ることは限られるけど……。できれば、そんな遠慮はしないでほしい」
「う……はい……」
怒られているわけではないんだけど、居心地悪そうにカレンがうなずく。
「リンちゃんゴメンね。そういうつもりはなかったんだけど……。変に遠慮しない方がよかったね」
カレンをフォローするように私が会話を引き継ぐ。
ちなみにシロは気にせず食べ進めている。さすが妖精。
「わかってくれればいいんだよ。それぐらいしか、ワタシの出来ることはないんだから……」
言葉尻が小さくなっていくリンちゃんは、この会話を終わりとばかりに、飲み物へと口をつける。
リンちゃん……。




