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266 今までの仕返し

「姉さん。お待たせしました」


 マーティンの視線の先にはカレンとシロ、そして――。


「うぅん。ジャストタイミング。リンちゃんは――」

「コトミっ!」

「うごぼぉ……」


 マーティンが言葉を失い固まる中、シロと共に現れたリンちゃんから、不意打ち的にボディアタックを食らう。


「コトミ、ゴメン……」

「うぅん。大丈夫だよ。リンちゃんの方こそ大丈夫?」


 抱き付いてきているリンちゃんと自分自身へ治癒魔法をかける。

 少しやつれているように見えるリンちゃんは、大きな怪我もなさそうで、安堵の息を漏らす。


「うん……ゴメンね」

「いいよ。リンちゃんが無事でよかったよ」


 数日ぶりに見たリンちゃんは、以前より元気のように見えたが、ここ数日のせいか、やはりやつれているようにも思えた。

 ……私の心に黒い感情が沸いてくる。


「なななな……」


 言葉を失うマーティンは呆然と立ち尽くしている。


「さて、形勢逆転……というより、別に不利でもなんでもなかったけど、どうする? とりあえず、もう悪さができないよう始末するか」


 私が笑みを浮かべ、手の平に火の玉を(あらわ)すと、周りがちょっと引いた気がする。

 なんでかな? ちゃんと笑顔なのにね?


「目が笑っていないからですよ」


 カレンからの呆れたツッコミは気にしない。気にしたら負けだ。


「コトミ、ちょっと待って。出来れば今回の戦争を扇動(せんどう)した首謀者としてマーティンには責任を取ってもらいたい」

「リンちゃん? うーん……当事者のリンちゃんがそう言うなら反対はしないけど……」

「ありがと。……マーティン、貴方(あなた)はもう終わりです。おとなしくワタシたちに従いなさい」


 一歩前に出てマーティンへ声を上げるリンちゃん。


「くっ……誰が! まだだ、まだ終わっていない!」


 そう叫び、懐から銃を取り出すマーティン。


「カレン」


 私の言葉に小さくうなずくと、魔眼を発動させるカレン。


「なっ……! か、身体が……!? こんな能力(ちから)、聞いていないぞ!?」

「抵抗しても無駄だよ。下りてきて」


 私がそう声をかけると、ゆっくりと下りてくるマーティン。


「か、身体が勝手に……!」


 もちろん操作しているのはカレンの魔眼。

 この世界じゃ誰もこの能力(ちから)(あらが)うことはできないだろう。

 リンちゃんの目の前に下り立ち、(こうべ)を垂れるマーティン。


「くっ……か、身体が……」


 いまだもがき抗っているけど、そんな簡単に解ける操視(そうし)ではない。


「フリックさんを呼び戻そうか。ついでにマーティンの身柄を運んでもらうようお願いしよう」


 スマホを取り出し早速電話をかける。

 その間に、ルチアちゃんがマーティンの元へやってきて――。


「えいっ」

「が……はっ」


 魔眼による拘束が解け、静かにうずくまるマーティン。


「ふん。お姉ちゃんの気持ちを(もてあそ)んだ。その罰、です」


 腰に手を当てて、何か逆鱗に触れてしまったように物言うルチアちゃん。

 マーティンが気を失ったのは……電撃でもあてたか。

 まぁ、連れて行くときは水でもぶっかけて起こせばいいしな。

 私もリンちゃんも、そしてアウルもマーティンにはいい感情を抱いていない。

 命があるだけでも良かったと思ってほしいね。



「ふぅ、フリックさんは意外と近くで待機しているようだからすぐ来てくれるって。マーティンを連れて行くための車はもう少し時間かかるらしい」


 まぁ、予定外のことだから仕方がない。


「コトミ、ゴメンね」

「うぅん、大丈夫だよ。リンちゃんのことだから何か考えでもあるんでしょ?」


 どうせ行方不明になっているんだから、この場で始末しても問題はない。

 それなのに、わざわざ連れて帰るということは、何か意味があるんだろう。


「うん。さっきも言ったけど、マーティンには今回の戦争の責任を取ってもらう。実際に戦争のきっかけを作ったのはマーティンだろうし、この混乱している国内を治めるには首謀者を処罰する必要が出てくる」


 なるほど、政治のことはよくわからないけど、リンちゃんが言うのであればそうなんだろう。


「それじゃ、マーティンの監視をしながらフリックさんを待とうか」


 そう言って肩の力を抜く。



 ふぅ。無事、終わったなぁ。

 リンちゃんも快調というわけではないが、特に衰弱しているわけではないし、これで一安心かな。


「そういえば、リンちゃんはこれからどうする? ヘイミムの街に戻ることもできるけど……」

「…………」


 考え込むリンちゃん。

 今回の誘拐もヘイミムの街で起きたことらしい。

 元凶は潰しといたけど、またいつ同じような目に遭うかわからない。

 恐らく、私たちがいる限り、ずっと……。

 それはリンちゃんだけとは限らない。

 私の周りにいる親しい人たち。

 例えばフェリサちゃんやマリセラさん、フリックさんエルヴィナ家。

 アノンさんやロベルトさんたち、ペリシェール家。

 学校の友達、クラスメートやお手伝いさんのエリーさん。

 こども園時代のハナ先生や仲良くなった友達たち。

 気にかけなければいけない人たちが沢山増えた。増えてしまった。


 もし、その人たちが人質に取られたら?

 また、同じように利用する人が現れたら?

 毎回、リンちゃんと同じように救出するわけにもいかないだろう。

 時には見捨てることもあるはず。

 ……私にその決断はできるのだろうか。


「…………」


 考えなければ、いけないな。

 これからのこと、私たちのことを――。

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