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263 少女誘拐事件

「準備はいい?」


 明朝、仮住まいの家の前でみんなの顔を見渡す。

 カレンとシロは言わずもがな。

 アウルとルチアちゃんも準備万端。

 運転手役としてはいつもどおりフリックさんが買って出た。

 運転ばかりしているけどいいのかな……。


「よし。それじゃ、リンちゃん救出作戦。始めるよ」

 力強く頷くみんな。心強い限りだ。

 順番に車へと乗り込む。

 時間には余裕を持っているから、スムーズに行けば昼過ぎぐらいには最寄りの街、ロキシカには着くだろう。

 行動を監視されている可能性はあるけど、指示に反したことはしていないから大丈夫なはず。

 マリセラさんと連絡を取ったことをどう捉えられるかだけど、その(つて)がなければ移動もままならないんだから、それは仕方がないだろう。

 ちなみにマリセラさんの情報収集能力は素晴らしく、犯人(ホシ)はすぐに割れた。

 予想外なことに、首謀者はヘルトレダ国の元国王、そこにマーティンが参画し、ギザリオンが実行したらしい。

 マーティンはリンちゃんの元護衛だったな、確か。

 ギザリオンの名前は聞いたことなかったけど、マリセラさん曰く、フェリサちゃん誘拐の時の実行犯らしい。

 あの時の三人組、やっぱり潰しとけばよかったか――。


「……姉さん」

「……ん。大丈夫だよ」


 私の心が黒く染まりそうになると、声をかけてくれるカレン。

 そのカレンの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。


「わわ、髪型が乱れますよ……」


 言葉とは裏腹に嬉しそうな表情をしている。

 そんなカレンを見ていると多少なりとも心が落ち着いてきた。

 あと半日の辛抱だ。

 待っててね。リンちゃん。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 車と飛行機を乗り継いで、ヘルトレダ国へ。

 私とカレンは出国を取り消したような形で入国。

 アウルとルチアちゃんは個人識別カード(ニシル)をちゃんと持っていたから難なく入国。

 シロは……まぁ、フリックさんにもバレちゃっているし、隠すことなく転移魔法で飛行機へ搭乗。

 その後、到着したら出入国カウンターを経由せずに私たちと合流。

 わざわざ飛行機に乗る必要はなかっただろうに……。

 そして、時間に余裕を持ってベレンデロ傭兵組織最寄りの街、首都のロキシカへ到着。

 こんな時に観光する気分にもなれず、遅めのお昼ご飯にカフェタイムと時間を潰す。


「……そろそろ行こうか」


 アウルやルチアちゃん、カレンがうなずく。

 シロは視線だけで答えてくる。

 フリックさんにお願いし、再び車移動。

 その移動中に作戦をおさらいする。


「もう一回確認するけど、表に顔を出すのは私とアウル、そしてルチアちゃんだけね。カレンとシロは車に待機。フリックさんはタイミングを見計らって離脱を。二次被害として、巻き込まれや人質にされないようお願いします」

「うーん……子供たちだけを置いて逃げるだなんて……と言っても、逆に足手まといになるよなぁ」


 フリックさんが最後まで抵抗するが、フリックさんの言うとおり、居ない方が正直助かる。

 とはいえ、大人の威厳(いげん)としてあまり(ないがし)ろにするわけにもいかず、やんわりと断る。


「えぇ、そこは気にせず、ご自分のことだけ考えてください。私たちは……まぁ、普通の人と違うので」

「わかった。……気をつけてな」


 アウルやルチアちゃんには大した役割はない。

 ただ、自分たちの身を守る必要があるから、無理をしてもらっては困る。


「姉さん……。大丈夫ですか?」


 カレンとシロには大事な役目を任した。

 その成功可否によって、その後の展開が変わるのだから――。


「うん。カレンとシロには重たい役目を任しちゃうけど――」

「ワタシは大丈夫です。ワタシの能力(ちから)を姉さんのために発揮する。この時のために、ワタシは努力を重ねてきたのですから。任せてください」


 うん。頼もしい。

 そんなカレンの頭を撫でる。

 気持ちよさそうに目を細めるカレンを見ると、私も少し心が落ち着いてきた。

 ……うし。気合い入れて行くよ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……着いたね」


 言われた時間、約束の場所に到着。

 ヘルトレダ国のベレンデロ傭兵組織――跡。

 私たちが結果的に壊滅させた組織。

 現在は瓦礫の山となっている場所で私たちは車から降りる。

 寂しい場所――。

 久しぶりに降り立ったその場所は夕日に照らされた廃墟。

 その瓦礫のそばをアウルとルチアちゃんと一緒に歩く。

 しばらく瓦礫の山沿いに歩いていると――。


「……よくきたな」


 山の上から声が聞こえた。

 そちらへ視線を向けると夕日に照らされた長身の男がたたずんでいた。

 前半分の髪が長く、残り半分がオールバックになっている変わった髪型には見覚えがある。


「マーティン――」


 アウルがその長身の男の名を呼んだ。


「言われたとおり来たよ。リンちゃんは?」


 薄ら笑いを浮かべているマーティンに対し、私は声をかける。


「ふっ……。人質として丁寧に扱っているさ。こちらの要求はその不思議な力だ。その力を――ヘルトレダ国のために使え」


 なんとなく予想していたことを言い放つマーティン。

 私たちを直接懐柔(かいじゅう)することは諦め、外堀を埋めるつもりだったんだろうけど――。


「また戦争でも起こす気?」


「……前回は十分な戦力を用意したにも関わらず、力が及ばなかった。コトミ・アオツキは国内に押し止め、アウル・クリューデと共にリーネルン・ペリシェールを確保する。単純な作戦のはずが――ルチア・クリューデが現れたことにより、計画が破綻した」


 顔を手の平で覆いながら、呪詛のようにつぶやいてくるマーティン。

 その目は虚空を捉え、私たちを見ていないように見える。


「別に、計画が破綻したのは私たちのせいじゃないよね?」


「黙れっ!! 元はと言えば貴様が……コトミ・アオツキさえ居なければ、私の計画は達成できていたのだ! アウル・クリューデを従え、ペリシェール家を手中に収める。そうして、ロフェメル国を我が物に……。だと言うのに、貴様が……貴様がいたせいでっ!!」


 一息にまくし立てたマーティンが肩で息をしながらこちらを睨み付ける。

 その眼光は鬼気迫ったように、正常ではないように見えた。


「……ふ、ふふ、……はは、ははは……あはははははははっ!!」


 途端に声を上げて笑い出したマーティン。

 両手を開き、天を仰ぐかのように身体を反らしながら言葉を続ける。


「しかし、我々はまだ終わっていない! リーネルン・ペリシェールを人質とし、貴様らには戦場に立ってもらう! 我が王の望みを叶えるため、再び立ち上が――」


 マーティンが力強く力説していたけど、途中で言葉を途切れさせる。

 そのマーティンは信じられないようなものを目にしたような表情で固まっている。

 なぜなら――。

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