261 また会える日まで
玄関の前でみんなの顔を見渡す。
アウルにルチアちゃん、カレンにシロ、そして――リンちゃん。
「リンちゃん。それじゃ、またね」
「うん。向こうに行っても元気でね」
お見送りに来たリンちゃんの前に立ち、お別れの挨拶をする。
後ろにはロベルトさんにアノンさん、それとメイドさんも一緒にお見送りに来ていた。
数日間過ごしたリンちゃんの家はやはり暖かく、そして過ごしやすかった。
その家から旅立つ私たち。
「毎日、連絡するから」
「ふふふ、ものぐさなコトミがそんなことを言うなんてね。……三日坊主になったら許さないんだから」
寂しそうに微笑むリンちゃん。
「ものぐさ……って否定はできないけど、連絡はするよ。大切な――友達なんだから」
「うん……。ありがと」
一歩近づき、ギュッと抱きしめてくるリンちゃん。
背中に回した手に力が入る。
「……それじゃ、ね」
しばらく抱き合っていた私たち。
だけど、いつまでもそうしているわけにもいかず、名残惜しみながらも離れる。
「じゃあ、ね」
後ろを振り返ることなく扉へと手をかける。
外に出ると五人以上は乗れる大きな車に――。
「……もういいのかい?」
そう声をかけてきたのはフリックさん。
「えぇ、お待たせして申し訳ありません」
今回、移動するにあたって運転手役を買って出てくれたのだ。
社長自らいいのだろうかという疑問もあるが、ある意味私たちという爆弾を運ぶのにその辺の人材では力不足。
よって、フリックさんが役目を果たすことになったらしい。
こんなか弱い女の子を爆弾って、失礼な話だよね。まったく。
「爆弾かどうかはともかくとして、注目されているのは事実ですからね。普通の人じゃその重圧に耐え切れないでしょうし、仕方がないですよ」
車に乗り込んだところでカレンに心を読まれ、そんなことを言われる。
「まぁ、そうなんだけどね。私も知らない人よりは、顔見知りの方が安心できるし」
「そう言ってもらえると、わざわざ来たかいがあったってもんだ」
運転席から顔を覗かせながら、私の漏らした言葉に反応するフリックさん。
そうは言っても社長自ら運転手を務めるのはいかがなものだろうか。
「コホン、それじゃ出発するぞ。準備はいいか?」
私のそんな視線を受けて居心地が悪くなったのか、一つ咳払いをしみんなを見渡す。
――うん。いいね。
「お願いします」
窓の外にはお見送りに出てきたリンちゃんたち。
手を振りながらその姿が少しずつ離れていく。
「それにしても、よくこれだけの人間が集まったな」
フリックさんが嘆いた視線の先には、世界中のいろいろなメディアの人たち。
何十人と集まってきているそれらは、門から出た私たちの車にピッタリとくっつき、カメラやマイクを向けている。
車は防音仕様だし、窓ガラスは覗き込みができないようスモークが張ってある。
それでも中を覗き込もうとする人たちがいる。
……魔法で一掃したいなぁ。って、いかんいかん。そんな脳筋みたいなこと――。
「……操視で引き剥がしましょうか?」
「ダメダメ。そんなことしたら状況が悪化するだけだよ」
カレンまでもが脳筋らしいことを言い出したので慌てて止める。
外に出てしばらくすれば引き離されるだろうから、それまでの辛抱だ。
そのまま数日間過ごしたヘイミムの街を車が通り抜けていく。
短いようで長かったこの街ともお別れか――。
少し感情に浸りながらも流れていく車からの景色を眺め、ヘイミムの街をあとにする。
このあとは空港から飛行機で移動、そのあとはまた車移動となる。
目的地はロフェメル国の反対側だから結構遠い。
静かでゆったりしたところ……って、端的に言えば田舎ってことだね。うん。
でもまぁ、そんな場所でも用意してくれたエルヴィナ家の方々には感謝。
街の名前、と言うより土地の名前はデネイラというらしい。
エルヴィナ家が開拓のために確保しておいた土地のようだけど、まだ未着手のため自由に使ってもいいと。
一応、住むための家も一軒だけ建っているようで、当面は問題ない。
ただ、五人も住むとなると部屋数が足りないので、近々増築しようという話をマリセラさんからされた。
いや、そこまで面倒みてもらうわけには……。
さすがに申し訳ないと断りを入れたがどこまで聞いてくれたのやら……。
ちなみに、アルセタの街にある私の私物関係もまとめて送ってもらうようにした。
自分の荷物は大したことないけど、両親の荷物もあるからね……。
家も手放さなければいけないし、お手伝いのエリーさんへさよならの挨拶をしなければならない。
やること多いなぁ……。
それに、こんな状態だから学校にはもう行けないかな?
まぁ、このご時世、勉強するだけであればなんとでもなる。
オンラインの学校だったり、家庭教師雇ったりしてもいいし。
シロは別として、カレンたちと一緒に授業を受けてもいいしね。
そう考えると新生活も悪いことばかりじゃないかもしれない。
確かに、リンちゃんと別れるのは寂しいことだけど、永遠の別れとかじゃない。
それに、落ち着いたらまた会うこともできる。
それまでの辛抱だ。
そんなわけでいろいろと慌ただしいけど仕方がない。
ヘイミムの街が完全に見えなくなったところで、私も少しだけ肩の力を抜くことができた。




