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260 別れの覚悟

 次の日もリンちゃん家前にはメディア関係の人たちがたむろしていた。

 むしろ、昨日よりも増えている。

 さらに次の日、またさらに人垣が増えている。


「…………」


 ここ数日は外に出てもつけ回されることが多くなったため、引きこもっている。

 リンちゃんも日に日にやつれていっているように思えるし。……ここらが潮時か。


「リンちゃん、話があるんだけど、時間は取れる?」


 お昼ご飯が終わると同時に立ち上がったリンちゃんへそう声をかける。


「……うん。少しだけ、待ってくれる? すぐ行くから」


 声をかけた瞬間、驚くように顔を上げたリンちゃん。

 それも一瞬のことで、微笑むように答え、その場をあとにする。

 アウルとルチアちゃんも、心配するようにそのあとを付いていった。



 リンちゃんの部屋でしばし待つと、アウルとルチアちゃんを引き連れてリンちゃんがやってきた。

 メイドさんがお茶の用意をしてくれて、六人で一息をつく。


「ふぅ、やっぱりリンちゃん家のお茶はおいしいね」

「…………」


 私が何か言い出すのを待つように、顔を伏せているリンちゃん。


「……リンちゃん。私――うぅん、私たち、この家を出ようと思うんだ」


 ピクリと、うつむき加減の肩が反応する。


「……そう。やっぱり、今の生活は、息苦しいよね」

「うぅん。それは別に苦じゃないんだけど、リンちゃんはここ数日かなり無理しているよね? 情報統制が効かないのもそうだけど、それを抑えるためにも、いろいろと」

「……まぁ、ね」


 ゆっくりと、長いため息をつきながら、吐き出すように答えるリンちゃん。


「力及ばず、コトミたちのことは全世界へと広がった。一応、抑えられる所に圧力をかけてはいるけどそれも限界、かな。手の届かない所は関係なしに動き出しているし、日に日に門の前が埋まっていくのを見ると、やるせない気持ちにもなってくるし」


 ここ数日リンちゃんのやっていたことは知っていた。

 それが、焼け石に水だということも。

 人の口に板は立てられない。

 特にこのご時世、インターネットによる情報発信、共有のスピードは計り知れないものもあるから……。


「だから、ここを離れようと思う。さすがに国外へ出るとそれも火種になるだろうから、もっと地方でひっそりと暮らすことも考えている」


 これは私だけの意見ではない。

 リンちゃん以外――アウルとルチアちゃんとも話は終わっている。

 特に二人はリンちゃんを間近で見ており、その悲痛さを目の当たりにしているのだから。


「…………」


 無言になるリンちゃん。

 当然ではあるが、ここを離れる人員の中にリンちゃんはいない。

 全員一緒に動いていたら意味はないんだから。


「ワタシに拒否権はない……か」

「リンちゃん、それは――」

「わかっているわよ。コトミがワタシのことを考えてくれているんだってことぐらい。……そうじゃなきゃ、そんな悲しい顔をするわけないじゃない。ホント、コトミは顔に出やすいんだから」


 呆れるようにそう言うリンちゃん。

 リンちゃんも悲しそうに、でもどこか吹っ切れるように言葉を続ける。


「アウル、ルチア、わずかな期間だったけど護衛のお仕事ありがとう。命を救われたこともそうだけど、この街を、この街の住民を助けてくれたことに感謝するね」

「「リンさん……」」


 アウルとルチアちゃんが同じように声をかける。

 リンちゃんは一つ、深呼吸し――。


「お二人の護衛の任を解きます。今までありがとう。……でも、私たちはまだこれからも友達、だからね」

「うん、もちろん」

「はい、当然です」


 三人、身を寄せ合い別れを惜しむ。

 でも、今生(こんじょう)の別れではない。

 いつか、また会える日が来るんだ。

 そう信じて別れまでのわずかな時間を過ごそう。



「……それで、(つて)はあるの?」


 しばらくしたのち、姿勢を整えリンちゃんから心配そうに声をかけられる。


「うん、マリセラさん――フェリサちゃんのところを頼ろうかな、と思って。リンちゃんにお願いしたんじゃ、今と何も変わらないしね」


 フリックさんとこの前出会えたのも何かの縁。

 たぶん、このぐらいのお願いなら喜んで聞いてくれると思う。


「そっか、移動はそれとして、落ち着く場所は決まっているの?」

「それもマリセラさんにお願いして、それなりに静かなところを候補として選んでもらったよ。……ちょっとここから遠いけど」


 この街はヘルトレダ国の国境に近いけど、私たちが向かうのはほぼ反対に位置する街だ。

 街というより、『土地』かな?

 だだっ広い土地に家がポツンと建っている。

 その土地もエルヴィナ家の物で、勝手に入ってきたら不法侵入になる。

 そのため常識ある人は来ないはず。

 非常識な人に対しては非常識な能力(ちから)で返り討ちにしたらいいし。

 しばらくそこで生活して、ほとぼりが冷めるまで待とう。


「……寂しくなるね」

「うん。でも、私たちは友達、だよ。落ち着いたら遊びに来てよ」

「うん。落ち着いたら絶対に行く」


 リンちゃんへの説明も終わり、あとは行動に移すだけ。

 移動は夜中にコッソリ――ではなく、昼間に堂々と行う。

 私たちがリンちゃんの家、ヘイミムの街を出たと、広めないといけないからだ。

 そのための風よけにエルヴィナ家――マリセラさんを利用する形になっちゃうんだけど、二つ返事でオッケーをもらった。

 マリセラさんとこの会社が大きいこともあり、変に手を出されず、かつ宣伝効果にもなるため、十分なメリットがあるらしい。

 ……その分デメリットもあるような気がするんだけど、そこはマリセラさんの手腕でなんとかするんだろうなぁ。さすが副社長。

 準備は整っているから、早速明日の朝から移動する。

 今日は最後の晩餐会となってしまうな。

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