26 大きな襲撃
肉の油が火に滴り、いい音が鳴り響く。
おとと、そろそろいい焼き加減かな?
「はい、リンちゃん」
焼いている肉のひとつを取り、リンちゃんに渡す。
「いいの?」
「さすがに一人占めはしないよ。だけど、こういう焼き方のお肉は食べられる?」
「平気だよ。慣れているって言ったじゃん」
「あはは、そうだったね」
二人して肉にかぶり付く。
そういえば屠殺した直後の肉を食べたのは久し振りな気がするなぁ。
この世界の肉は基本熟成させてから食べるから、味に深みが出るんだよね。
でも――これはこれでおいしいものだ。
「んー?」
「んにゃ、おいしいなーって思ってね」
「それより、コトミの投げナイフ……って、いまさらながら気づいたんだけど、純粋にすごくない? 普通出来ないよね」
う……やっぱり疑われるか。
「……たまたまだよ」
「まぁ、コトミだしね」
「何よそれ」
「もうコトミを普通の子供と思わないようにした。普通を基準にしては普通の人に申し訳ない。新しいコトミ基準で計ろうと思って」
「え、やだ、何その基準。勝手に作らないでよ」
「ワタシの心の平穏のために我慢して」
「何よそれ~っ」
抗議は静かな森に虚しく響いただけであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「は~、お腹一杯!」
二人でウサギ一匹を食べ尽くし、食料危機を乗り切った。
「食べたら眠くなってきちゃったね」
「次はリンちゃんが寝ずの番だよ」
スマホの時計を見るとちょうど交代の時間になっていた。
「あ~……仕方ないかぁ」
「じゃあ、お休みね」
「は~い……って、そういえば寝ずの番ってやる必要あるの?」
「え……? さすがに二人とも寝たら危ないでしょ?」
「何が危ないの?」
「まもの……じゃなく、猛獣……クマとかイノシシとか、とうぞ……強盗とか」
「クマとかイノシシもあまりいないし、いきなり襲ってこないし。それに強盗がこんな森の奥深くに居てたまるもんですか。居たらきっとその人たちも遭難者だよ」
「…………」
「…………」
「お、おやすみなさい」
「あ、寝るなぁ~!!」
パチパチと焚火の音が響く中、二人で戯れ合う。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あー、結局ほとんど寝られなかった」
「コトミが騒ぐからだよ」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
「どうどう……」
「もー、遠慮しない。リンちゃんには絶対遠慮しない」
「えー……遠慮はいらないんだけど、なんか、怖いなぁ……」
日の出とともに、移動を再開。
遭難二日目、今日中には街まで戻りたいなぁ。
いざとなったら数日は自給自足できるけど、出来ることなら避けたい。
みんなも心配するし、何より――。
「ん? どうしたの?」
リンちゃんにあまり魔法とか見られたくないし。
さすがに生死を分けるときは躊躇なく使うけど、避けられるのであればなるべく内緒にしておきたい。
そんなことを考えながら歩く。
昨日、食料を確保できたのは大きく、あとは水問題をどうにかすればしばらくは大丈夫。
一応、こっそりと昨夜のうちに、自分のボトルに水の補充はしておいたけど。
リンちゃんに渡すとしても怪しまれないようにしないとなぁ。
そんなこんなで一時間ほど歩いたかな。
「そろそろ休憩しようか」
「は~い」
「リンちゃん元気そうだね。さすがに元原始人」
「さらっとディスらないでくれる? そこは普通心配するところじゃない?」
手ごろな気の幹に腰を下ろしカバンからボトルを出す。
「はぁ~、コトミが本性を表してきた……」
何やらブツブツ言っているが気にしないことにした。
「水はある?」
「うん? あ~、もうほとんど無いかな」
「じゃあこれ飲んで」
「え? コトミの分が無くなるでしょ?」
「大丈夫。実はまだ持っていたの」
「……まだ持っていたって、そのカバンにどれだけの水が入るのよ」
私が持っているカバンを指さしながら当然の疑問を口にする。
このカバンは普段と違い、遠足用にリュックとしている。
子供が背負えるリュックだから傍から見ても大した容量は無い。
「細かいことは気にしちゃダメだよ」
「まぁ、コトミだしね……」
その一括りで納得されるのは腑に落ちないが、追及されないだけまだマシか。
「水はまだ少しあるけど、食料どうしようか」
「また、狩りにでも行く?」
「う~ん、昨日からずっと歩いているけど、出会ったのはウサギ一匹だけだし。探して見つかるものじゃ無さそうだよね」
「そうだよねぇ」
テスヴァリルじゃ、そこら辺に魔物や食べられる動物がいたのに。
この世界じゃ人間が多すぎて、野生動物が少なくなっている。
「まぁ、最悪リンちゃんを食べればいいか」
「……えっ?」
「冗談だよ。冗談。でも、なるべく長生きしてね」
「本当に冗談だよね?」
「さて?」
ニヤリと不敵な笑みを見せる。
「コトミが黒い……」
「ぷ……あははっ。大丈夫だよ。大切な友達を傷つけたりしないよ」
「……もう」
ふくれっ面しているリンちゃんが可愛く見える。
この場には似つかわしくない話題だけど、明るく望みを持って生きるためには多少のバカ話も必要だ。
リンちゃんもそれをわかっているからか、私の話に合わせてくれる。
ホント、いい子だよね。
――っ!!
「リンちゃん!! 伏せて!!」
私の一声で察したのか、真剣な表情になり言われた通り伏せる。
その頭上を暴力的な質量を持った塊が振り抜かれた。
――油断した。
「クマ――」
こんな時にっ!!
嘆いても仕方ない。
収納からナイフを二本取りだし両手で投げる。
「リンちゃんこっち!!」
クマがナイフに気をとられている間に、リンちゃんへ駆け寄り手を伸ばす。
「っ!! ありがとう!!」
リンちゃんも同じく手を伸ばし、勢いをつけて引き寄せる。
「走るよ!!」
そのまま、走り出す。
くっ……逃げ切れるか。
 




