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248 無茶をする少女

「くぅぅぅ〜〜〜〜っっ」


 頭ガンガンクラクラグルグル。

 今にもぶっ倒れそうなぐらいの反動――魔力酔いだけど、私は立っている……自分の足で立っている!


「〜〜〜〜っっ……はぁ〜〜〜〜っ」


 歯を食いしばり数十秒。

 息をすることも忘れ、耐えた。耐えきった。耐えきってみせた……。


「たかが数百メートル転移するだけでこの有様か……」


 さっきみたいに十キロほど離れていると完全にぶっ倒れるけど、この距離ならなんとか……。

 いや、まぁ、この距離でも魔力酔いしている時点でアウトか……。

 ……うぅん。この距離なら転移できる。ってわかっただけでも上出来。ポジティブにいこう。


「さて、あまり時間もないし、さっそく取りかかりますか」


 転移した場所は街の中で一番高い建物――トリストスホテルの最上部。

 街全体を見渡せる、この街一番の展望スポットだ。

 ……とは言っても誰も立ち入れられない場所ではあるのだろうけど。

 周りに手すりらしい手すりもないし。

 そこから見える街には月明かりが降り注ぎ、幻想的な風景になっている。

 こんな時でもなければゆっくりと景色を楽しみたいところではあるが――。

 本題に戻ろう――。と、拉致っ(つれ)てきたシロの方を見ると、三白眼(さんぱくがん)にへの字口……。なんて顔をしているんだよ。

 妖精さの欠片もないその表情に、こんな状況でさえ苦笑い。


「……なに笑ってるの?」

「いや、笑っているというより……。まぁ、いいや。ちょっと手伝ってほしい」

「いや」


 間髪をいれずに即答のシロ。だよねー。


「そこをなんとか。このままここにいたら死んじゃうよ?」

「そんなの、逃げればいい」

「いやー、街の人を見捨てて行けないよ。街がめちゃくちゃになるのも避けたいしね……」

「……バカ」


 うん。自分でもそう思う。

 今から私がやろうとしていることはバカがやることだ。

 小さい街とはいえ、その全てを守ろうというのだから――。


「だから、魔力を分けてほしい。量が量なだけに、シロの協力が必要なんだ」

「…………」


 無言になるシロ。さっきの表情にふくれっ面も追加。うん、不機嫌そうだね。


「無事終わったら魔力あげるから、ね」

「……死んだら意味がない」

「あはは、確かにそのとおりだけど、シロが手伝ってくれたらなんとかなる気がするんだ。それに、何もしないと、どのみち死んじゃうよ?」


 魔力を保有できる妖精。

 特にシロは突然変異の影響か一般的な妖精よりも膨大な量の魔力を保有している。

 私の魔力を四六時中吸収しているのだから、それだけで魔力保有量がずば抜けているのが丸わかりである。


「……そういうやり方は、ズルい」


 呆れかえりながら(さけず)む視線を向けるシロ。

 うん。妖精にそこまで言われるのはある意味名誉あることだよね、きっと。普段が無感情な妖精だから尚更だ。


「ま、乗りかかった船だからさ。最後まで頼むよ」


 ホント、時間がなくなってきた。

 そろそろ始めないと。


「…………一生…………」

「ん? なんて?」


 シロがポツリと何かをつぶやいた。


「……一生、魔力をくれる約束――契約をしてくれるなら、いい」


 一生? 一生って、ずっとかな?

 うーん、まぁ……それはいいか?

 この様子だとこれからもずっと魔力を吸い続けられるだろうし。

 一生と言っても、私が死ぬまでだろうから、長くても数十年かな。


「うん。今までと変わらないだろうし、いいよ」

「…………はぁ」


 呆れ顔から一転、ため息をついて、いつもの無表情に戻る。


「ととと、いきなりはちょっとびっくりするなぁ」


 シロの魔力が溢れ、私に流れ込んでくる。

 だけど、その魔力は行き場をなくし、霧散していく。あぁ、もったいない……。


「時間、ないんでしょ。……先に片付けるよ。契約は約束」


 ――契約。

 ……もしかして、ちょっとやらかしちゃったかなぁ。

 妖精の契約とか聞いたことないんだけど。

 でも、まぁ、仕方がないか。

 命以外だったら、私の全てを差し出してもいいよ。

 その想いが伝わったからか、シロは口の端を吊り上げ――。


「この見返りは高くつくよ」


 月明かりに照らされ、いい笑顔でそう言い放つシロ。妖精なのに、いい笑顔……。


「…………」


 だ、大丈夫かな……。いきなり不安が……。

 ……えぇい! 気にしちゃ負けだ! 女は度胸だ!

 不安になりながらも、時間が迫っていることから、早速作業に取りかかる。

 シロから送られてくる膨大な魔力を操作し、両手を夜空へむかって掲げる。そして――。


「障壁――っ」


 そう。

 私がやろうとしていることは、この街を守るための障壁を作ること。

 かなりの大きさになるし、成功するかどうかは五分五分。

 綿密な魔力操作と膨大な魔力量があっても成功率はその程度。

 正直、命をかけるほどではないんだけど……。


「黙って見ていられるほど、非情にもなりきれないんだよ――」


 街を覆うように少しずつ大きくなっていく障壁。


「くっ――」


 シロから供給される魔力をそのまま障壁へと注ぎ込んでいく。

 膨大な魔力を事細かく調整しなければいかないため、正直辛い。

 それでも、やらなければならない。


「明日を、みんなと、笑顔で迎えるために――」

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[一言]  朴念仁……。
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