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247 禁じられた攻撃手段

「緊急!」


 食後のお茶会を和やかに楽しんでいる最中、ノックもろくにされず勢いよく開けられた扉。

 そちらに目をやると少し息を切らせた隊員さんが室内を見渡している。

 入ってきた隊員さんはリンちゃんの存在を確かめるとその場で敬礼し――。


「報告します! ヘルトレダ国が大陸間弾道ミサイルを射出! 着弾予測地点はこのヘイミムの街! 着弾まで残り八分!」

「なっ――、なんで……」


 突然の報告に戸惑うリンちゃん。


「恐らく、前線部隊の壊滅、その後の撤退が要因ではないかと。火力でこちらの戦力を削ごうという考えかと思われます」


 隊員さんがそう説明する。


「私たちのせい……?」


 リンちゃんの隣でアウルがポツリとつぶやく。


「アウルたちのせいじゃないよ。そのまま侵攻されていれば同じように街は蹂躙(じゅうりん)されていただろうし」


 アウルが漏らした言葉を否定するリンちゃん。

 確かに、外の惨状(さんじょう)を見ればこの街がどうなっていたか想像は容易だ。

 ミサイルによる攻撃は無かったとしても、地上からの侵攻で街は占領され、人も物も全てが略奪されていただろう。


「着弾した場合の被害状況シミュレーションは?」


 リンちゃんが隊員さんに向き合いそう問いかける。


「既に計算は完了しております。この施設への被害は一割程度で済みますが、街は恐らく……」


 その答えにリンちゃんはうつむく。


「そう……施設(ここ)が無事ならいいわ。――本隊へ連絡! 着弾に備えこの街よりできるだけ待避。着弾後はその場を前線基地とし、ヘルトレダ国の侵攻に備えるように。……それと地上に残っている人たちにも至急ここへ避難するよう連絡を。街の人たちは――うぅん、いいわ。以上、急いで!」

「はっ!」


 敬礼をし、走り去って行く男性の背を見つめる私たち。

 住民のことを言いかけたリンちゃんは目を伏せ、何かに耐えているように思える。

 大陸間弾道ミサイル――。

 私も詳しくは知らないが、その名の通り大陸を越えてでも飛翔させることができるミサイルだ。

 威力は当然、戦車や戦闘機が撃ち出すミサイルの比ではない。

 そのミサイルが街に――って、跡形も残らないのじゃないか?

 今そこで生活している住民の方がどうなるか。そんなことは考えなくてもわかるだろう。

 そもそも、隣国から飛ばす物でも無いだろう。近すぎるという意味で……。

 (ヘルトレダ)国は何を考えているのか。

 自棄(やけ)になったのか、それとも……。


「みんなも備えて。この施設にも少なからず被害は出ると思うから。ライフラインがどれだけ残るかわからないし、落ち着いたらこの場所を捨てて撤退することになるから。……無事、地上に出られればの話、だけどね」

「「「…………」」」


 誰一人として口を開かない。

 それもそうだ。

 街が消滅する。

 リンちゃんと過ごしたこの街が。

 アウルと再会し、ルチアちゃんと出会ったこの街が。

 カレンやシロが加わり、平和な楽しい日常が戻ろうとしていたのに。

 ……そんな私に、何ができるか――。


「……シロ」

「いや」

「…………」


 私が何かを言うまでもなく、嫌そうな顔をするシロ。

 多分、この状況下で私が何をするかわかったのだろう。

 そんなに短い付き合いでもないし。


「姉、さん?」


 カレンが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。


「コトミ……?」


 リンちゃんが(いぶかし)しげにこちらを見てくる。


「リンちゃん。ゴメン、ちょっと出かけてくる」

「……え?」


 半ば強引にシロから魔力を引き出す。

 あまり大した量は引き出せないけど、これぐらいの距離なら――。


「カレンもちょっと待っていてね」


 魔眼で私の思考を読み取ったのか、表情を(こわ)ばらせるカレン。


「――っ、姉さん! ダメ――」


 そんなカレンの制止を待たずして、シロと共に転移した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「街中の監視カメラを全てチェック! コトミを見つけ出して!」


 コトミが転移した直後、司令室へ駆け込んだリーネルンは大声で指示を飛ばす。

 リーネルンの指示を受け、すぐ持ち場につく隊員たち。

 大きくない街とはいえ、監視カメラはそれ相応の数があり、夜間ということも相まって調べるには時間がかかる。

 それでも、戦争の影響でほとんど住人がいないことが幸いか。


「コトミ……いったい何をするつもりなの……?」


 リーネルンはコトミを探すべく、自身もモニターの前に張り付く。

 アウルやルチアは手の出しようがないため、見守ることしかできない。

 せめて地下へ逃げ込んでくる人たちを誘導しようと入口付近に待機している。

 カレンは……魔眼を利用し地下からコトミを捜す。

 水平距離に比べれば垂直の距離なんてたかが知れている。――少々首が痛くなるかもしれないが。


「姉さん……」


 カレンは焦る。

 コトミが何をやろうとしたのかが()えた――()えてしまった。

 コトミの力を信じていないわけではないが、明らかに無茶だとわかることをやろうとしている。

 カレンは透視(とうし)遠視(えんし)眩視(げんし)、さらには悠視(ゆうし)までもを併用し、地上から高層ビルの上までを一気に見通す。

 次から次へと移す視線。

 しかし、見渡す限り、まだ見つかっていない。

 着弾まで――残り五分。

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