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240 〔戦争その後〕

 空からの攻撃に加え、地上からの攻撃も加わってきた第五陣。

 満身創痍のアウルに、魔力枯渇寸前のルチア。

 夕焼けに照らされながら戦い続ける二人は思った。

 きっと、これが最後であると――。


煉獄(れんごく)(ほのお)よ! 全てを貫く牙となり、我の元へその姿を(あらわ)せ――!」


 ルチアの詠唱が完了すると同時に、光の筋が複数、黄昏(たそがれ)(ほの)明るい空へと放たれた。


「不浄なる者を突き破れ! ――アグニスキュア!」


 その光の筋は空中でしばし漂うと、目にも留まらぬ早さで軍用ヘリや戦闘機を上空より貫いていく。

 複数台の軍用ヘリがまとめて串刺しになり、炎上しながら次々と墜落していった。

 戦闘機においては制御不能となり、空中で爆散、空の藻屑(もくず)へと消えていった。

 空を謳歌する軍用ヘリや戦闘機が駆逐されていく。

 しかし――周囲の数機は撃墜させたが、遠目にはまだ何機も残っている。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 魔力が――足りない。限界に達し、目の前が真っ暗となるルチア。

 (たま)らず岩壁の影へと座り込む。



「――ふっ」


 アウルが戦車の砲身を墜とす。

 腕を上げる度に、剣を振るう度に、戦場を駆ける度に、身体が悲鳴をあげる。

 それでも、止まるわけにはいかない。


「次――っ!」


 ――空からの銃撃をアウルは咄嗟にかわす。

 今まで同士討ちを避けてきたヘルトレダ国ではあるが、千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスだと思ったのか、眼下にいる味方戦車のことなんてお構いなしにヘルトレダ国のヘリは銃弾の雨を降らす。

 これだけの銃撃を跳ね返す力はアウルにもう残っていない。

 無残にも蜂の巣となる戦車。


「くっ……」


 息を切らせながらも銃弾を避け続けるアウル。

 何とか岩壁の陰にと転がり込むが、この岩壁もそう長くは持たない。

 魔法で作り出した岩壁ということもあり、通常の岩石よりも強度はあるが、それでも限度はある。

 ヘリからの銃撃を受け続け崩れる岩壁。

 アウルは無理に銃弾を弾くことはせず、次の岩壁へと飛び込んだ。


「はぁ、はぁ。お、お姉ちゃん」


 そこには青い顔をして息を切らすルチアがいた。

 すでに限界を迎えており、これ以上魔力を練ることができない。

 あと少し、あと少しなのに――。



 岩壁を取り囲むように軍用ヘリや戦車が位置取りをする。

 一息に始末しないのは反撃を恐れてのことか、それとも――。


「ルチア……巻き込んじゃってごめんね」


 アウルは今の状況を理解し、ルチアへと話しかける。

 きっと会話することもこれが最後なのだろうから。


「だい、じょうぶ、だよ」


 息も絶え絶えに返事をするルチア。

 急激な魔力消費は意識を朦朧(もうろう)とさせる。

 魔力が枯渇(こかつ)していない限り、少し休めば元に戻るが――どうやら、そんな時間はないようだ。

 朦朧とする意識の中、震えながらもなんとか手を伸ばし、アウルの手をとるルチア。


「わたしは、お姉ちゃんと、居たかった、から。同じ場所へ、立ちたかった、から。いま、この場所に居られて、わたしは――幸せだよ」


 握り締めた手に力を入れる。

 その表情は辛そうながら、どこか笑みを浮かべていた。


「それに――少しは、役に立った、でしょ?」


 常に姉の背中を追いかけ、その強さに憧れていたルチア。

 (とこ)に伏せたときは絶望しながらも、いつか姉のようになりたいと夢見ていたこともあった。

 その夢が――叶った。

 剣士である姉の隣に立つ魔法少女として――今がその時だった。


「あはは……そうだね。ほんと、本当に、凄かったね。コトミにも、見せたかったぐらいだよ」


 魔法少女として目覚めさせてくれたのはコトミであるが、その才能を開花させ、育てたのはルチア本人の努力の(たまもの)であろう。

 それだけ頑張ったルチアをアウルは自慢したかった。

 自分の妹はここまで成長出来たのだ――と。

 ヘリの羽音が二人の時間を邪魔するように、うるさく鳴り響く。

 戦車の地響きが、振動が、二人の身体を揺らす。

 死の足音が、すぐそこまで迫ってきている。


「……絶体絶命ってやつだね」


 攻撃をしてこないのは、アウルたちからの反撃がないためか。

 これだけの被害をもたらしたのだ。

 その場で始末されてもおかしくないのだが――。


「……捕虜にでもするつもりかな?」


 少女二人とはいえ一国相手に善戦したのだ。

 実際にこの状況を目にしたヘルトレダ国であれば、手に入れたいと思っても間違いはないだろう。

 ――そう易々(やすやす)と捕まるつもりはないんだけど。

 アウルはそう気丈に振る舞うが、如何(いかん)せん、これ以上身体が動きそうにない。

 できれば少しでも時間を稼ぎたい。だけど――。


 銃口がアウルとルチアに向けられる。

 ――時間切れか。

 もう、終わりだと、目を伏せるアウル。

 でも――時間は十分稼いだ。

 この前線が突破されたとしても、今夜の進軍はないだろう。

 明日になれば正規軍が到着する。

 そして、今こちらへ向かっているコトミも。

 コトミがいればリーネルンのことも心配ないだろう。

 アウルはルチアを抱きしめながら身体の力を抜く。

 十分――頑張った。頑張ったよ。


『まったく、あんたはいつもバカなんだから』


 幻聴のように聞こえるコトミの声。

 テスヴァリルで出会い、この世界で再会した一人の少女を想い出す。

 ――コトミ。最後に、もう一度、会いたかったよ――。

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