24 キャンプファイア
「さて、火を熾すのに薪を拾ってくるね」
リンちゃんが珍しく大笑いしていたところだけど、やっと落ち着いたらしい。
「あ、私も一緒に行くよ。一人だと危ないから」
立ち上がり、後ろを追いかける。
「大丈夫だと思うけどな~。コトミって心配性?」
「そりゃ、子供が一人で森に入るんだから心配するでしょ」
「あはは、コトミも子供だけどね」
「う……まぁ、そうだけど」
見た目は子供だから仕方ない。
それでも中身は大人なんだから私がリードしないと。
「いいよ~。一人だとあまり持てないし、一緒に行こうか」
二人して薪になりそうな木の枝を探す。
本当は手分けした方が効率いいんだけど、リンちゃん一人にすると何が起きるかわからないし。
またイノシシが出てくるかもしれない。
……いや、でも銃を持っているから多少の危険は問題ないのか?
いやいやいや、イノシシ以外にも猛獣がいるかもしれないし。
うん、やっぱり一緒にいた方がいいよね。
「こんなものかな」
前世でも同じ事をやっていたから、要領はわかっているつもりである。
二人して両手にいっぱいの枝を拾った。
いっぱいと言っても子供の手のサイズだからたかが知れている。
やっぱり二人で来て良かったかも知れない。
「さて、戻ろうか」
先ほどの場所に戻り、薪を重ねていく。
その上にリンちゃんが付属のナイフでマグネシウムを削り、ふりかける。
「どうやって着火させるの?」
「ここをね、こうやって……よっと!」
ファイアスターターを勢いよくこすることで火花が飛び散る。
何度か試すと、乾いた木を細く割いたものに火が点き、マグネシウムの影響か一気に燃え上がる。
「おぉ……これがキャンプファイアと呼ばれるものか」
「だいぶ、こぢんまりとしたキャンプファイアだけどね」
こっちを見ながらくすくす笑うリンちゃん。
とりあえず、火は大丈夫かな。
辺りを見渡すとすでに暗くなっており、焚火がなければ何も見えない状態になっていたと思う。
時刻はまだ夕方なんだけど、やっぱり暗くなるのが早いな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
火の番をリンちゃんにまかせながら手持ちの荷物を確認する。
食料は……リンちゃんのクッキーと私のチョコレートといったお菓子のみ。
水はすでに飲み干した。
どこか、タイミングを見計らって出したいけどなぁ。
「食料もあまりないね」
「うーん、水さえあれば数日は持つんだけどね」
確かに、人間は水さえあれば一週間以上耐えることが出来る。
だけど、その水が無いと、全ての生物は長く持たない。
だから前世のテスヴァリルでも、水が出せる魔法使いは重宝されていた。
とくに遠征する時は、人以外に馬の飲み水も必要なため、出せる量によってはかなりの高収入となる。
ちなみに、私は人と接するのがあまり好きではないからそういう依頼は受けていない。
「あ、そうだ。寝るときの火の番は代わり番こでいい?」
火を熾したはいいが、順番も決めておかないと。
薪をくべながら火の調整をしていたリンちゃんが顔を上げる。
「ん? いいよ。どっちが先にやる?」
リンちゃんは子供なのにすごい。
状況判断もそうだけど、落ち着いているし、適応力もある。
普段からサバイバルをやっているんじゃないかと思うほど順応している。
「ワタシの両親がこういうこと好きでね。銃もそうなんだけど、多種多様な技術を求める人たちなんだ」
どういう両親なんだよ。
「今度コトミにも紹介したいね。それより、火の番はどっちが先にやる?」
「んー、私は夜更かしが得意だから先でもいい?」
「あ、夜更かしは美容の天敵なんだぞ」
あははと笑いながら、またひとつ薪をくべる。
「それじゃ、よろしくね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
火の番を始めて二時間ほど経った。
無駄に起きていても体力を消耗するだけだから、寝られるうちに寝てしまおうということになって、早々に就寝。
最初の一時間ぐらいはリンちゃんと話しながらだったけど、いつの間にか寝ちゃっていた。
野宿だと言うのに良く寝てるねー。
隣に横たわっているリンちゃんを見ながら心の中でつぶやく。
こっそり収納から出した私のコートを、リンちゃんは身体に巻いている。
こういうコートは身を隠す以外にも、野宿の時には布団代わりになるから、この世界に来てからも収納に入れていた。
フードも付いているからいざというときは顔も隠せる。
……いや、そんな頻繁に何か起きるわけでは無いけど、念のためだよ念のため。
すぅ……すぅ……、と規則正しい寝息が聞こえるため、リンちゃんはそこまで寝づらいわけではないらしい。
私は前世の時から慣れているけど、リンちゃんも野宿とかしていたのかな。
こんな状況だけど、なんか懐かしい感じがしてくる。
平和で安全な世界だけど、少し物足りない感じはしていたし。
テスヴァリルに居たときはできるだけ楽をしようと考えていたのにな。
「ふふふ」
思わず口から笑みがこぼれる。
火を絶やさないように薪がわりの枯れ枝をくべる。
静かな森の中、パチパチと薪の音だけが弾けて聞こえる。
交代にはまだまだ時間がある。
スマホに浮かぶ時計を見ながら一人考え事にふける。
夜ご飯は結局お菓子だけだった。
うぅむ、やはりこういう時は肉がほしいなぁ。
前の世界では魔物が多く生息していたため、夜営の時には魔物の肉が定番であった。
そういうことを考えると、なおさら肉が欲しくなってきた。
リンちゃんに内緒で探してくるか?
いや……ダメだろうなぁ。
さすがに子供を一人で残していけない。
何のために寝ずの番をやっているのか。
子供に寝ずの番をやらせるのはいいのかについては仕方がない。
さすがに一睡もしていないコンディションでは明日の移動とかに支障がでる。
幸いにもリンちゃんがサバイバル慣れしているから頼れるものは頼ろう。




