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233 〔裏切りの魔の手〕

 裏門から入った車が速度を落としていく。

 リーネルンの屋敷は裏門から近い。

 近いため、速度を落とすのも早いが――。


「……どうかしましたか?」


 裏門から入り何個目かの角を曲がったところでゆっくりと停止する車。

 リーネルンの屋敷へはまだ半分の距離も残っている。

 不穏な空気を察し、リーネルンたち三人は身構えた。


「……リーネルンお嬢様。私たちと共に来ていただきます」


 運転手を務めていた隊員がそうつぶやく。


「……どういうつもりですか?」


 リーネルンは務めて冷静に問いかける。


「なに、簡単な話ですよ。この街を占領するのに、なるべく被害を少なくしたい。ここは他の街と比べ国境に近い分、攻めづらく守りやすいのでね。内部から攻め入る方が効率的でしょう?」


 助手席の隊員が振り向き――自動小銃を突きつけ得意そうに語る。

 窓の外に視線を移すと、複数の隊員――ヘルトレダ国の兵士か――に囲まれているのがわかる。


「裏切りですか?」

「とんでもない。我々は元よりヘルトレダ国に仕える身。裏切るなんてあり得ないですよ」


 ははは、と高笑いしながら答える兵士。

 何がそんなに愉快であったのか、しばらく高笑いを続けたのち、急に真顔となり――。


「降りろ。命が惜しくないのな――へぶしっ!」


 兵士は言葉を言い切る前に身体を仰け反らし、フロントガラスへ頭を打ち付けた。


「なっ――ぶっ!」


 運転手の男も咄嗟に銃を手にしたが、ルチアの魔法により難なく沈んだ。


「……ごめんなさい。あまりにも不快な笑いだったもので」

「いや、いいよ。ワタシも同感」

「うん。私も」


 周囲を取り囲んでいる兵士たちも、車内の異変に気がついたのか、銃を構え警戒している。


「……味方だと思っていた人たちが敵だったなんて、やるせない気分だね」


 リーネルンが哀れな者たちを見るような目で、周囲を見渡す。


「んー、どうしよっか。ルチアに任せても大丈夫?」

「いいよー。ちょっと試してみたいこともあったし、ちょうどいいね」


 アウルの言葉にそう返事をし、魔力を練るルチア。

 車のような密閉空間では身体から放出した魔力が外へと出て行かず、本来であれば魔法そのものが発動しづらい。

 そのため、窓を開けるなど魔力の通り道をなるべく大きく作ってやる必要があるが――。


「ウインドストーム」


 ルチアはそんなことをお構いなしに、車の中から外に向けて魔法を行使する。

 通常、車の隙間から漏れ出した魔力程度では魔法が発動することはない。

 しかし、漏れ出る魔力が大量であった場合、話が変わってくる。


「「「なっ……!」」」


 車を中心とし突風が吹き荒れる。

 ただの横風ではなく、下から突き上げるかのような突風が。

 兵士たちは飛ばされまいと身を低くして耐える。

 だが、下から吹いている風に対し、身を低くするだけでは逆効果である。結果――。


「ぎゃっ!!」「がっ……!」「ピギャ!」


 十数人いた兵士が一様に空へと投げ飛ばされ、地面へと激突する。

 投げ飛ばされたといっても、数メートルほどの高さから落下した程度だ。

 その程度で死にはしない。

 骨が折れる程度はあるかもしれないが。


「うし。成功」

「段々と魔法の使い方が上手くなっていくね」


 アウルは若干呆れられながらも成長していく妹を微笑ましく思う。


「先を急ごう。とりあえず、ワタシの家へ向かおうか。ここはあとで誰かに任せよう」


 リーネルンたちは車から降りるとペルシェール家に向かい、駆け出した。

 薄暗かった街が日の光を浴びる。

 街の夜が明ける。そう思った瞬間――お腹に響くような轟音が街を駆け巡った。


「――っ!」


 揺れる街並み。何かが崩れる音。舞う粉塵。どこからともなく聞こえてくる悲鳴。


「は、始まった……!」


 始まってしまった。


「――っ、急ぐよ!」


 ペルシェール家はすぐ目の前である。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その後、妨害があるわけでもなく十分ほどでペルシェール家に到着するリーネルンたち。

 入り口に門衛が立っていたが、ペルシェール家配属の者たちであればリーネルンは顔パスである。

 門をくぐり、その足で屋敷の中へと駆け込む。


「司令室は!? 地下!?」


 息を切らせながら近くに控えていたメイドにリーネルンは訪ねる。


「は、はい。現在アノン様、他数名が地下司令室で指揮を取られています」

「っ、ありがとう!」


 そのまま地下の階段へと向かうリーネルン。

 アウルとルチアも遅れずについて行く。

 ……ルチアはなんとか、といったところではあるが。

 地下へと伸びる階段を駆け下りる。

 駆け下りながらアウルとルチアは思う。

 この家に、司令室になるような地下室があったか? ――と。

 この家に初めて来たとき案内された、見覚えのある階段を下り、部屋も何もない通路の行き止まりへと辿り着く。


「リンさん、ここは……?」


 アウルが疑問の声を上げるが――。


「ん。ちょっと待ってね」


 ペタペタと何かを探るように壁を触っているリーネルン。


「あ、あった、あった。久し振りだから見つけづらかったよ」


 そう言い、()()()()を指で押した。

 直後、リーネルンの頭少し上にモニターのようなものが現れた。

 どうやら壁の一部が擬態されていたらしい。


「よっ……と。もう少し子供向けの高さに変えてくれないか、いつも思うよ」


 リーネルンは精一杯背伸びをしながらモニターを覗き込むような仕草をする。


『網膜チェック――スキャン――承認シマシタ。オ帰リナサイ』


 そう機械的な音声が聞こえると、廊下の突き当たりにある壁が静かに横へスライドした。


「隠し扉……?」


 アウルが驚愕(きょうがく)の声を上げる。

 この家にそんなカラクリがあったのかと。


「有事の際――今回のような戦争が起きたときに利用されるんだ」


 そう説明しながら奥へと進むリーネルン。

 遅れまいとアウルとルチアも小走りについて行く。

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