23 友人からの詮索
「ふふん。ってことは、やっぱり秘密にしておくことあるんだ。まぁ、一歩前進かな。今回はそれで許してあげる」
く……勝ち誇った顔して……。はぁ、まぁ、いいや。
「それにしても、人の秘密を暴きたいって、リンちゃんもいい性格しているよね」
「そうでしょ。好奇心の成せる技」
嫌みを込めた一言にも動じねぇ。
わかっていてスルーしているな……くそ。
「ネコと一緒に死んじゃうよ」
「ネコ?」
首をかしげ、よくわかっていない様子。
「私の故郷で古くから伝わる伝承だね。人には知られたくない秘密の一つや二つはあるというのに、リンちゃんはなんで暴こうとするの?」
「ん~? 勘、かなぁ。コトミが隠している秘密って普通の秘密じゃない気がするんだよね。なんと言うのか、本気で隠すつもりが感じられないんだよね。最悪バレてもどうにかなるかな、っていう雰囲気がしていて。それであれば一番に知りたいかなって思ったの」
「なんでそこまでして知りたいのよ」
ため息まじりにそう言う。
「友達だからに決まってるじゃないの。困っていないのなら別に構わないけど、秘密があるせいで遠慮していることってない?」
「…………」
まぁ、そりゃ、あるよね。
水問題もそうだけど、いざという時に魔法が使えないというのは辛い。
もしかして、魔法に制約をかけていることで、リンちゃんを危険な目に合わせている?
仮に、この前の銀行強盗で、リンちゃんが普通の女の子であったら?
魔法の使用を躊躇することで強盗から危害を加えられたら?
さっきのイノシシだってそう。
イノシシに対して、風槌を反射的に叩き込んでいれば、こんなことにならなかった。
一瞬の迷いが生死を分けることだってあるんだ……。
「友達がそんな窮屈な思いしているのが見過ごせないの」
リンちゃんが言葉を続ける。
たしかに、隠すことなく魔法が使えていれば防げたこともある。
でも――。
「……それで、その心は?」
「なんか楽しそう!」
なんだそりゃ〜!
「本音出たよ! やっぱり自分本位じゃん!」
「まぁまぁ、心配しているのは本当だし、コトミに取っても悪い話じゃないと思うけど? 隠し続けるのも疲れるでしょ?」
いや、まぁ確かにその通りなんだけどさ。
自分の秘密を明かすのって勇気がいることなんだよ。
それでも、大事な友達のことを考えたら、いつかは、きっと。ね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
十分少々の休憩をはさみ移動を再開する。
疲れが完全に取れたわけではないけど、いつまでもこの場所に居たところで状況は良くならないし、仕方がない。
休むのは日が沈んでからでもできるし、できるだけ今のうちに距離を稼いでおきたい。
時間的にはまだ日が高いけど、森の中は薄暗いため、スマホがなければ時間感覚が狂ってしまう。
「森を抜けられなければどこかで野宿するしか無いかな」
「それは避けたいところだけど、この際仕方ないよね。日が沈む前に夜を明かす場所を決めよ。暗闇の中歩くのなんて嫌だからね」
「私もそれは遠慮したいかな……。リンちゃんはサバイバル経験ある? ……よっと」
ぬかるみをジャンプして避ける。
「キャンプなら何度かあるけど、遭難したのは初めてだよね」
リンちゃんも続いてぬかるみを飛び越える。
「遭難……って、これも遭難になるのかな、やっぱり」
「帰れない、連絡も取れない、衣食住が確保できない、十分遭難の定義に入ったね」
「一人の時より二人以上いれば死亡する可能性が半分になるよ」
「どこの言い伝えよ、それ」
リンちゃんが呆れたように笑う。
そんなことを話しながら森の中を進む。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
辺りが薄暗くなってきた。
う~ん、方向も合っているかわからないし、どのくらい距離があるかもわからない。
あまり焦って急いでも仕方ないかなぁ。
いろいろと考え歩いていたら、ちょうど開けた場所に出てきた。
大きさとしては学校の教室よりちょっと小さいくらい。
時間的にもここにするかな。
「もう薄暗くなってきたし、このまま歩き続けても危ないから、今日はここで野宿しようか」
「そうだね。ちょうどいい場所もあるし、そうしようか」
とりあえず休憩したい。
座る場所なんて無いから近くの木の幹に腰を下ろす。
同じようにリンちゃんが隣に座ってくる。
「リンちゃん慣れている? 遭難するとパニックになったりするものだと思っていたけど」
「うーん。不安は不安だけど、一人じゃないし。それにコトミが落ち着いているからワタシも落ち着けているんだと思う」
ボトルの水を飲む様子を横目に見ながら、私も自分のボトルを取り出す。
それにしても落ち着きすぎでしょう。
私は前世では嫌というほど野宿をしていた。
町から町への移動なんて、この世界みたいに数時間で行けるものではないし。
そんなことを思い、水分補給だけして立ち上がる。
休憩は日が沈んでからもできるから、今のうちにやれることをやろう。
とりあえず寝床の確保と、焚火ができればいいんだけど。
ただ、火を熾したいけど、点けるものがない。
魔法であれば一発なんだけど、さすがに言い訳できないし。
「火を熾すのに便利な道具持ってきているから熾そうか?」
私の思考を読み取ったからか、リンちゃんからそんな提案をされる。
「便利な、道具?」
バッグの中から手の平に収まる金属の塊を取り出す。
「これはね、ファイアスターターといって、火をつける道具なんだ」
「へ~、火打石みたいなもの?」
「んー、ちょっと違うかな。マグネシウムでできているから、粉末を削り出してそれに着火させるの」
なるほど。
マグネシウムは酸素と結合しやすく強い還元作用を持つといわれている。
その特性を利用した着火装置ってことか。
「それより、遠足に持ってくるものでも無い気がするんだけど」
「え、森に入るんだから必需品じゃないの?」
「いやいやいや、普通はそこまで考えないでしょ」
何もんだよ一体。
子供の遠足ってサバイバルからかけ離れていると思うんだけど。
「甘い。甘いよ、コトミ。常に最悪の事態の三倍増しぐらいで物事を考えなきゃ。長生きできないよ」
どっかで聞いたことあるセリフを言いながら、火熾しの場所を平らにしていく。
「コトミこそ、こういう時どうするつもりだったの?」
「ん~? 私は大丈夫。なんとでもなる」
「お嬢様的な考え方は良くないね! いざというとき頼れるのは自分だけだからね」
「お嬢様は自分の方でしょうが……」
「見た目はね!」
身体を反らしながらドヤ顔で言い切る。
「自分で言う!?」
「あはははっ!」




