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228 プロペラ飛行機

 出国手続きを終えて飛行機の元へ。

 そこにあったのは――。


「プロペラ機……」


 小型旅客機のさらに小さな飛行機である。


「もともと一人で行く予定だったからな。少し狭いがこの人数なら大丈夫だろう」

「……まさか、ご自分で運転されるのですか?」


 小さい飛行機だから運転席も確認できるが、そこに誰かがいるようには見えない。


「おうよ。自分で出来るようにしておけばいつ何時(なんどき)も困ることはないからな」

「…………」


 ま、まぁ、考え方は人それぞれだからな……。

 私が呆れていたら言い訳するように説明を足してきた。


「いや、ほら、職業柄世界中行き来することもあるしな。その度にいちいちパイロットの都合を考えるのも面倒だろ? それならいっそのこと、自分で運転出来るようにしておけば楽だと思ってな」


 そんな普通の車みたいに簡単なことのように言うけど……。

 私の理解が得られなかったことに肩を落とすが、気を取り直して乗車? 搭乗か――を勧めてくる。


「ま、まぁ、何はともあれ運転も大丈夫だから安心してくれ」


 まぁ、こんなところで躊躇(ちゅうちょ)していても仕方がない。

 諦めにも似た感情を(いだ)きながらも勧められるがまま、飛行機へと乗り込む。

 うん、座り心地は案外悪くない。

 そんな品定めのような感想を思いつつ、シートベルトも締める。

 小型機だから天井も低いし窓も小さい。

 席も五列ほどしかなく、運転手含めても全部で十席座れるだけの飛行機だ。

 でもまぁ、移動するだけなら十分だろう。


「シートベルトは大丈夫だな。それじゃ出発するぞ」


 ゆっくりと動き出す機体。

 おっちゃんはどこかと連絡を取り合っている。管制官かな。

 会話の内容的に離陸の順番は案外すぐ回ってきそうだ。

 あまり時間をかけたくないし、それはありがたい。

 その後も二言三言話したのち、機体が滑走路へと進入していった。

 うん。プロペラの音が案外うっさい。


「これだけ小型でも飛ぶんだね。……って、顔色悪いけど大丈夫?」


 珍しく静かだと思ったら何かに耐えるような表情で口を硬く閉じているカレン。


『珍しく静かって失礼ですよ……』


 なぜか普通の言葉ではなく念視(ねんし)――しかも不安げな声が聞こえてきた。

 強ばっている表情に(あか)い目……って、魔眼(おこ)しているのかよ。


「そんなに不安?」

『こ、こんな鉄の塊が飛ぶんですよっ? 不安に決まっているじゃないですかっ』


 今すぐにでも泣き出しそうなカレン。

 心なしか反論にも力というか覇気(はき)がない。

 普段強気な性格がこんな風になっていると可愛らしく思える。


『姉さんっ……。あとで、覚えておいてくださいよ……』


 なんで、恨みを買っているのか……。


「よし、行くぞ」


 そう、おっちゃんから声がかかると――機体が急激に速度を上げ始めた。


『き、きゃっ……!』


 念視で悲鳴上げるとか器用なことするなぁ。

 そんなことを思いながらも機体はグングンと速度を上げていく。


『ワ、ワタシはここで死ぬかもしれません……』


 死ぬか。

 珍しく弱気なカレンを見かね、仕方がなく強く握り締めている手をとってやる。


「あっ……」


 一瞬驚いた素振りを見せたカレンだが、すぐにこちらを見つめ、わずかだが微笑みを返してきた。


『あ、ありがとうございます』


 うん。しおらしいカレンもたまにはいいね。

 そう思うと、カレンの視線が三白眼(さんぱくがん)になって、見つめ……いや、睨んできた。

 ……すぐ心を読まれるのも考えものだなぁ。

 そう思った瞬間、わずかな浮遊感。


「わわわわわ……」


 慌ただしく手足をバタつかせるカレン。

 確かに、初めてこの感覚を味わうなら戸惑うか。

 そのまま機体は高度を上げ、ある程度のところで水平飛行に移った。

 普通のジェットエンジン飛行機より高度は低めだね。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「大丈夫……?」


 虚ろな目になっているカレンがさすがに心配だったのでそう声をかける。


『だ、大丈夫、です……』


 そうは見えないけど……まぁ、本人がそう言うならいいか……。


「だいたい三時間ぐらいで着くからな。少しゆっくりとしてな」

「ありがとうございます」


 ふぅ、相変わらず慌ただしかった。

 お言葉に甘えて少しゆっくりとしようかな。

 いまだ表情の強ばっているカレンを横目に身体の力を抜く。


『姉さんだけズルい……』


 なんでやねん。


「はぁ……」


 仕方がなくカレンの手をとり、リラックスさせるように甲を撫でる。


「あっ……」


 一瞬驚いたカレンであるが、されるがままに身体を預けてきた。


「よし、しばらくこのまま進むからシートベルトは外してもいいぞ」


 水平飛行に移ってから数分、操縦しているおっちゃんからそう声をかけられた。

 でも、カレンはガッチガチに固まっているからそれどころじゃなさそうだな。

 抱き締めてやった方が安心するだろうけど、人前であまりそういうことはなぁ。


『姉さんのケチ……』


 何がケチだ。何が。

 カレンがこんな状態だけど、しばらくはこのまま飛行するだろうし少しゆっくりしよう。


「そういえば名前をまだ聞いていなかったな。俺はフリック・エルヴィナ、フリックでいいぞ」


 そういって自己紹介をするおっちゃん――フリックさん。

 ……ん? エルヴィナ? どこかで聞いたような気もするが……どこだったっけかな。


「あー、確かに。お名前がまだでしたね。私はコトミ・アオツキ、この子はカレンです。あらためてよろしくお願いします」

「おう、よろしくな」


 いまさらながらそうやってお互い自己紹介をする三人。

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